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社会動向レポート

自然分野の最新動向と取組の基礎

企業に問われつつある「生物多様性」への対応(1/2)

サステナビリティコンサルティング第1部
コンサルタント 奥田 直哉
コンサルタント 鬼頭 健介
サステナビリティコンサルティング第2部
コンサルタント 白濱 秀至

1.はじめに

近年、自然資本や生物多様性に関する動きが加速しており、国際的に話題となることが多くなってきている。その中でも、2022年は大きな枠組が検討・議論されている重要な年であると言える。

まず国家間の大きな枠組として、2022年12月にカナダのモントリオールにて生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)が開催される。ここでは、生物多様性の2020年までの世界目標である「愛知目標」に続く、新たな国際的な目標として「ポスト2020生物多様性枠組」が採択される見込みである。この新たな枠組は、ビジネスとの関係をより強化した目標や、気候変動・資源循環など他分野に横断する目標を多く盛り込もうとしている点が特徴であり、ビジネスも巻き込んで国際目標の達成を目指そうとする内容となっていると言える。

さらに民間主導による大きな枠組として、2022年3月、6月、そして11月に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD*1)によって、自然関連リスクについて報告・対応するための開示フレームワークのドラフトベータ版が公表された。このフレームワークを通じて企業は自然関連リスクの特定や対応ができるようになる見込みで、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD*2)のように投資家や金融機関から重視される可能性がある。今後、さらに1度ドラフトが公表された後、コンサルテーションを経て、2023年9月に最終提言が公表される予定である。

この様に、世界的に自然資本・生物多様性に対する評価や情報開示の動きが活発化しており、今後、企業は何らかの対応を迫られる可能性がある。本レポートでは、自然資本・生物多様性をめぐる国内外の動向を紹介しつつ、企業が取り得る今後の展開を考察する。

2.「自然資本」とは何か、「生物多様性」とは何か

前述したように、自然資本・生物多様性に対する評価や情報開示は最近注目が高まっている分野ではあるが、自然資本や生物多様性といった言葉が、定義が不明確なまま使用されていることも多い。このため、まず、「自然資本」や「生物多様性」の概念について、簡単に整理する。

図表1に「自然資本プロトコル(Natural Capital Coalition, 2016)」における「自然資本」「生態系サービス」並びに「生物多様性」の関係性を示す。自然資本プロトコルは、企業が自然資本との関係を評価するため枠組であり、その考え方や定義はTNFDでも参照されるなど、広く基準とみなされている。自然資本プロトコルによれば、「自然資本」は動植物、大気、水及び、土壌など、生物と非生物両方からなる自然を構成するストックである。そして、このストックである「自然資本」から生み出される恵み・利益を、フローとみなしたものが「生態系サービス」である。生態系サービスは、例えば水や食料の供給、樹木による大気汚染緩和や気候調整など様々なものがあり、人間の生活や健全な社会・経済活動において不可欠であるとされている。そして、自然資本を下支えし自然資本の健全性と安全性を維持しているのが、「生物多様性」である。「生物多様性」とは、地球上の生物が互いに関連しあい様々に存在していることであり、生物多様性条約では生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性を定めている。

TNFDのベータ版のフレームワークにおいても似たような考えが示されており、「自然(=Nature)」を自然資本・生物多様性と生態系サービスを含んだ広義な概念として定めている。


図表1 「自然資本」「生態系サービス」「生物多様性」の関係性
図表1

  1. (資料)Natural Capital Coalition「自然資本プロトコル」(2016)*3より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

3.なぜ今、自然資本・生物多様性なのか

ではなぜ、近年、企業を巻き込んだ自然資本・生物多様性の取組が活発化してきたのだろうか。その背景として、自然喪失の深刻化が科学的に示されたこと、そして自然と企業の関係が整理され、自然喪失が経営リスクをもたらす可能性が明確化されてきたことが考えられる。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の自然版と言われているIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)は、「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書(2019)」を公表し、その損失を科学的に示した。例えば、自然生態系は推定可能な最も初期の状態と比べて平均47%減少、世界の陸地の75%が改変され、海洋の66%が人為的な影響下におかれ、湿地の85%が消失し、1980~2000年に熱帯雨林が1億ヘクタール消失したと報告した。また、同報告書は自然喪失の5つの直接要因「土地/海域利用」「直接採取」「気候変動」「汚染」「侵略的外来種」を特定し、この直接要因の対策として経済・社会・政治・科学技術における横断的な社会変革を求めた。

自然の喪失の深刻さが科学的に指摘されたことを受けて、自然と企業の関係性が強調されるようになった。企業は事業活動に伴う土地の利活用や温室効果ガスの排出などを通じて、IPBESの報告書が特定した5つの直接要因に大きく関わっている。同報告書を通じて、事業活動が自然に対して負の影響を与えていることが改めて強く認識されたと言えよう。また、世界経済フォーラムが2020年に公表した「Nature Risk Rising」や、イギリス財務省が2021年に公表した「ダスグプタレポート」で見られるように、企業や経済活動は自然資本を得る機会を通じて自然資本のもたらす生態系サービスに大きく依存していことが指摘された。つまり、多くの事業活動が依存している生態系サービスを失うことになるため、自然喪失による経営リスクの可能性が各方面で深刻に受け止められるようになったと言える。この様に、企業は自然資本に依存し影響を与えていると共に、自然資本からのリスクに晒される一方で機会も得ていることから、TNFDでは、企業と自然(自然資本と生態系サービスを内包)の関係を図表2のように整理している。自然喪失が科学的に裏付けられたことによって企業と自然の関係性が強調され、企業にとっては、自然資本・生物多様性に関する取組を強化する必要性が高まっていると言える。


図表2 企業と自然の相互関係
図表2

  1. (資料)TNFD「TNFD Framework beta v0.1」(2022.3)*4よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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