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社会動向レポート

企業向けアンケート調査(2022年度)の結果より

実効的なスチュワードシップ活動について考える(1/3)

年金コンサルティング部 上席主任コンサルタント 田上 亜希子


どのようなスチュワードシップ活動が実効的かについて、みずほリサーチ&テクノロジーズが実施した運用機関のスチュワードシップ活動に関する企業向けアンケートの結果及び運用機関へのヒアリング内容を踏まえて考える。

1. はじめに

「責任ある機関投資家」の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》(以下、「スチュワードシップ・コード」)において、機関投資家(アセットオーナーと運用機関に大別される)は、エンゲージメント(目的をもった対話)等を通じて投資先企業の持続的成長や価値向上を促し、その結果として受益者価値の最大化(運用のリターン向上)や経済全体の発展に寄与するという役割が期待されている(以降、「実効的」なスチュワードシップ活動とは、企業の持続的成長・価値向上や経済全体の発展に寄与するような活動をいう。スチュワードシップ活動の「実効性」も同義)。

こうした中、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、企業のIR担当者向けに運用機関のスチュワードシップ活動についてのアンケートを実施した。アンケートの概要は図表1のとおりである。機関投資家のうち投資先企業に対するエンゲージメントや議決権行使を直接的に担っている運用機関*1の取組みについて、スチュワードシップ活動の相手方である企業からはどのように捉えられているかを明らかにすることが目的である。

運用機関のスチュワードシップ活動については、2023年4月に開催された金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議において、インベストメント・チェーンを機能させる(=アセットオーナーや運用機関等のインベストメント・チェーンの各参加者がそれぞれに期待される役割を果たす)という大きな目標に向けて徐々に前進していると評された一方で、今後はより実効性の向上が果たされるべきとの見解も示されている*2。こうした運用機関への期待の高まりを踏まえても、対話の相手方がその実効性をどのように評価しているかとの視点は重要であろう。

本稿では、アンケート結果についてまとめるとともに、評価上位の運用機関においてどのような取組みが行われているかについてヒアリングを行った内容の一部を紹介する(なお、各運用機関の有益と思われる取組みについては、昨年度のレポート「運用機関のスチュワードシップ活動」も参照されたい)。


図表1 アンケート調査・ヒアリング調査の概要
図表1

2. 個別運用機関のスチュワードシップ活動に関するアンケート結果

(1)投資先企業の理解と企業価値向上に資する有益な提案

スチュワードシップ・コードにおいて、スチュワードシップ活動の目的は「投資先企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図ること」とされており、この目的を果たすためにエンゲージメントは一つの有益な手段である。

実効的なエンゲージメントを行うには、「投資先企業について深い理解を有していること」そしてその理解をもとに「投資先企業と課題認識を共有した上で、課題を解決し、企業価値向上に資する具体的な意見表明・提案を行うこと」が重要であると考えられ*3、設問①、②ではこれらを行っている運用機関を回答してもらった。アンケート結果は図表2のとおりである。

まず、設問①にて高く評価された運用機関にヒアリングを行ったところ、これらの運用機関においては、重点的にエンゲージメントを行う対象先を限定する、一人当たりが担当する企業数に上限を設ける等により、エンゲージメントを行う担当者(アナリストの場合やスチュワードシップ専任担当者の場合がある)が投資先企業各社について十分な時間をかけて分析・評価することのできる体制となっていることが確認された。また、設問②において高く評価された運用機関へのヒアリングからは、エンゲージメントの質を向上・均質化するために様々な工夫を行っていることが確認された。代表的な例は、エンゲージメントの好事例を担当者間で共有する、専門的な知見習得のための勉強会を行う、エンゲージメント内容についてチーム等で議論を行う等であり、これらの取組みを頻度高く(週次や隔週等で)実施している。このほか、特にサステナビリティに関する専門知識は、トピックが多岐に亘りかつ変化が早いため、エンゲージメントの質向上の観点で外部の知見も積極的に利用しているようである。例えば三井住友トラスト・アセットマネジメントでは、気候変動のほか自然資本や森林保全に関するイニシアティブにも賛同し、積極的に活動を行っている。こうした活動を通じて、グローバルにおける最新の潮流や外国企業の先行事例などの知見を獲得することができるという。こうした知見を活用したエンゲージメントは、投資先企業にとって、新たな視点で自社の企業価値を捉えられたり、有益な示唆を得られたりする機会になると考えられる。

また、意見表明・提案自体の質の向上を図るだけでなく、その実効性を高める観点での工夫も確認された。例えば、アセットマネジメントOneでは、企業の課題を解決するために機関投資家としてのサポート(例として、投資先企業内へサステナビリティ経営の浸透を図るために取締役会向けの勉強会の実施など)を実施している。大和アセットマネジメントでは、課題を抱えるエンゲージメントの対象企業と、同様の課題を既に解決した企業を引き合わせたり、ベストプラクティス企業を集めてパネルディスカッションを行ったりする取組みを実施している。このように、多面的な働きかけにより、課題解決に向けた取組みをサポートしていることが企業からも評価されていると推察される。

さて、具体的にどのような提案や意見表明が「企業価値向上に資する」と言えるのかは評価が難しい。エンゲージメントの目的は、企業の課題の解決(例えば社外取締役の増員や政策保有株式の縮小等)自体ではなく、課題解決により企業価値(もしくは市場全体の価値)を向上させることである。そのため、運用機関には、課題解決に向けた企業行動を促すのみならず、それが企業価値向上に結び付いているか検証・評価することが重要なポイントとなろう。例えば、野村アセットマネジメントでは、エンゲージメント対象企業それぞれについて、個別のゴール(解決すべき課題)を定めて達成を目指すマイルストーン管理(エンゲージメントの進捗状況をいくつかのステージに分けて管理すること)を実施している。この方法は、企業に課題解決を促すために有益な管理方法の一つであると考えられるが、当社では、これを企業価値への影響も考慮して活用している。例えば、マイルストーンの進捗がある一方でエンゲージメント対象企業の企業価値(時価総額)の改善が見られないような場合、当初設定したゴールが適切なのかについて検証、見直しをしており、ケースによっては新たなゴールを再設定していることが確認された。企業価値の向上という目指すべき目的に重きを置いた有益な取組みであると言えるだろう。 なお、エンゲージメントの企業価値への影響に関しては、定量的な検証を進めている運用機関もある。例えば、三菱UFJ信託銀行が行っている実証研究によると、エンゲージメントの効果は企業の属性によっても異なり、低ガバナンス企業(社外取締役構成により定義)に対しては、企業の安定的な成長のための土台としてのガバナンスを向上させる効果が、高ガバナンス企業に対しては、企業価値・財務を改善させる効果が確認されたという*4。こうした実証研究は、自身のエンゲージメントの効果を検証する材料として活用することでより実効的な活動とすることが期待されるほか、企業に対してもエンゲージメントの説得力を高める効果があると考えられ、意義が高いと言えるだろう。


図表2 アンケート結果(投資先企業の理解/具体的な提案)
図表2

  1. 上記はいずれも回答社数に対する、当該運用機関への回答の比率を示す。複数の回答を行っている回答者がいるため合計は100%を超える。以下の設問でも同様。

(2)経営陣との有益なエンゲージメント

エンゲージメントの実効性を高めるという観点では、「企業の意思決定に影響を及ぼす人物」を対話相手とすることが1つの有効な手段となると考えられ、「経営陣との有益なエンゲージメントを行っている運用機関」を設問③とした。アンケートの結果は図表3(下図)のとおりである。

企業行動について意思決定をする段階のエンゲージメントにおいて経営陣を対話相手とすることが有益である点は各運用機関とも意見が一致していた一方で、この設問で高い評価を得ている複数の運用機関において、「エンゲージメントのテーマ・進捗状況によって、経営陣には限らず適切なキーパーソン(例として、具体的な事業計画の詳細をテーマとする場合は実務を担当する部長等)に面談を依頼する」「企業によっては、当社が直接経営陣にエンゲージメントを行うよりも現場の担当者から経営陣に意見をあげてもらった方がスムーズな行動変化が期待される場合もある」との声が聞かれた。エンゲージメントの内容や進捗状況等に応じて適切な対話相手を見極めることが有益であろう。

また、エンゲージメントを通じて経営陣と信頼関係を構築するためには、財務的な知見や気候変動等の専門的な知見のみならず、幅広い分野における知見が必要との意見も運用機関からは多くあった。経営陣に対して建設的な意見を述べられるような体制を構築することも重要であると言えるだろう。


図表3 アンケート結果(経営陣の対話/長期視点)
図表3

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