速報・欧州PFAS規制案パブコメ提出状況と指摘されている論点(2/2)
2023年7月
みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第2部
井上 知也、森 涼子
主要機関が提出したパブコメのロジック解析
パブコメを提出する側がどのように論理立ててパブコメを構成しているのかを整理することは、今後のパブコメ作成にとって参考になると考え、表2に示す国内主要機関が提出したパブコメ4件を対象に、どのような観点から当該規制案の見直しを迫っているのかについて整理した。なお、2023年7月10日時点で日本経済団体連合会(JBF)のパブコメは本稿作成時点ではまだECHAホームページから公開されていないため、JBFのホームページで公開されているもの*7を解析の対象とした。
表2 解析対象としたパブコメの提出者・提出日
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機関略称 | 提出者 | 提出日 |
---|---|---|
FCJ | 日本フルオロケミカルプロダクト協議会 | 2023年4月25日*1 |
METI | 経済産業省(製造産業局素材産業課長) | 2023年5月30日*1 |
JCIA | 日本化学工業会 | 2023年6月5日*1 |
JBF | 日本経済団体連合会(環境委員会 環境リスク対策部会) | 2023年6月21日*7 |
- 出所:パブコメ結果に基づきみずほリサーチ&テクノロジーズが作成
4機関のパブコメの章構成は表3の通りであった。
表3 4機関のパブコメの章構成
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機関 | パブコメの章構成 |
---|---|
FCJ | (1)制限案の不整合性に対する懸念
|
METI | (1)適切なリスク評価 (2)社会経済的影響の考慮 (3)WTO/TBT協定との整合性 |
JCIA | (1)PFASの有用性とグリーンディールへの影響 (2)「ユニバーサルPFAS」の制限 (3)「許容できないリスク」と制限による規制 (4)適用除外期間 (5)化学工業への影響 (6)グリーンディールとの調和 (7)分析と閾値 |
JBF | (1)人の健康または環境への影響に関する評価の適切性 (2)経済・社会への影響に対する適切な考慮の必要性 |
- 出所:パブコメ結果に基づきみずほリサーチ&テクノロジーズが作成
表3のパブコメ内で指摘されている内容に対して、論点および論拠を整理した結果を表4に示す。大きく分類すると、以下の5つの論点についてそれぞれ論拠が示されていた。このうち①と②でパブコメ全体の約7割が構成されていた。
①「PFAS」というグループとしての規制の正当性
② 社会経済的影響の大きさと環境リスクとの比較衡量の必要性
③「許容できないリスク」の解釈
④ 製品分析の実現可能性
⑤ 予防原則の適用性
表4 各パブコメの論点と論拠の整理結果
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論点 | 論拠 | 出現割合 | |
---|---|---|---|
①「PFAS」というグループとしての規制の正当性 |
|
約4割 | |
|
|||
② 社会経済的影響の大きさと環境リスクとの比較衡量の必要性 | 影響範囲 |
|
約3割 |
(特に化学工業) |
|
||
代替物質 |
|
||
③「許容できないリスク」の解釈 |
|
約2割 | |
|
|||
④ 製品分析の実現可能性 | 技術面 |
|
約1割 |
コスト面 |
|
||
⑤ 予防原則の適用性 |
|
- 出所:パブコメ結果に基づきみずほリサーチ&テクノロジーズが作成
さらに、上記の論拠を使って、各パブコメ提出者がどのような論法で主張を提示しているのかについて、表5にて類型化を行った。使われていた論法のバリエーションとしては「他の事実との不整合」に関するものが最も多かった。一方、回数ベースの割合(出現割合)で見ると「影響範囲の予見可能性」を指摘するものが多く、PFAS規制による影響に対して理解を促し、冷静な対応を求めていた。
表5 各パブコメにおいて使われている論法
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分類 | 論法 | 出現割合 | |
---|---|---|---|
他の事実との不整合 | 第三者 |
|
約3割 |
規制・ 規定 |
|
||
影響範囲の予見可能性 |
|
約4割 | |
化学物質管理の視座 |
|
約2割 | |
手続きの正当性 |
|
約1割 | |
公平性 |
|
- 出所:パブコメ結果に基づきみずほリサーチ&テクノロジーズが作成
まとめ
欧州PFAS規制について、2023年6月6日までに提出されたパブコメを集計した結果、日本からのコメントが特出しており、日本国内においてPFASが重要な基盤素材として認識されていることが示唆された。
また、PFASという基盤素材(化学物質)を規制することにより、地球温暖化の抑制(欧州グリーンディールの達成)が困難になるとの指摘、安全保障の維持が困難になるとの指摘など、「あちら立てればこちらが立たぬ」の状態(いわゆるトレードオフ)が指摘されている点も注目に値する部分であろう。
2023年4月5日にECHAが開催したPFAS規制に関する説明会*8では「客観的なデータ」の提出が再三にわたり呼びかけられおり、可能な限り客観的・具体的なデータと共にパブコメを提出することが望ましいと考えられる。一方、現時点では取り急ぎのコメントを提出している企業も多く、客観的・具体的なデータの提出が十分ではないようである。今後パブコメを提出する企業は、客観的・具体的なデータを揃えつつ、今回紹介した国内4機関のパブコメで提示された観点も参考にしたコメントを検討いただければ幸いである。
出典
- *1PFASに対する制限提案
https://echa.europa.eu/restrictions-under-consideration/-/substance-rev/72301/term - *2FCJ(2022)「PFASの規制化動向について」(PDF/4,400KB)
- *3OECD (2021) Reconciling Terminology of the Universe of Per- and Polyfluoroalkyl Substances: Recommendations and Practical Guidance(PDF/14,400KB)
- *4FCJ(2023)第3回FCJウェビナー「PFASの最新規制動向」(PDF/2,500KB)
- *5なおその後、本パブコメには通常開始日から2カ月後に設定される一次締め切りが設定されていないことについて、後述のパブコメ作成ガイダンス*6にて訂正が入っている。
- *6FCJ(2023)「欧州PFAS制限案 パブコメ作成ガイダンス」(PDF/3,500KB)
- *7一般社団法人日本経済団体連合会 環境委員会 環境リスク対策部会(2023)「EUにおけるPFAS規制案へのコメント」
- *8ECHA Webinar (2023) Restriction of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) under REACH
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