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合成生物学に基づくバイオものづくりについて(2/2)

2024年9月
みずほリサーチ&テクノロジーズ サイエンスソリューション部 三澤 文香

バイオものづくりの社会実装に向けて

最後にバイオものづくりの社会実装に向けた動きについて整理をしていきたい。現在実施されているバイオものづくりに係る大規模なプロジェクトは表1の通りであり、大きく2つの方向性の支援がなされている。


表1 現在進行中の大規模プロジェクト

事業名 実施年度 概要
カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発(バイオものづくりプロジェクト)*12 2020~2026 スマートセルプロジェクトの後続プロジェクトであり、原材から最終製品に至るボトルネックの解消や、バイオファウンドリ基盤の整備や人材の育成を行う。
バイオものづくり革新推進事業*13 2023~2032 未利用資源の収集・原料化、微生物等の改変技術、生産・分離・精製・加工技術、社会実装に必要な制度や標準化等のバイオものづくりのバリューチェーン構築に必要となる技術開発及び実証を行う。
バイオものづくり技術に寄るCO2を直接原料としたカーボンリサイクル推進(グリーンイノベーション基金事業)*14 2023~2030 CO2固定能力を持つ水素酸化細菌を用いたバイオものづくりに係る研究開発を行う。
  1. (出所)各種資料を参考にみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

一つ目が、社会実装に向けたサプライチェーン全般の支援である。本レポートで紹介したDBTLサイクルに係る支援に加え、未利用資源の収集や資源化、培養・分離・精製・回収の一連の生産プロセス、スケールアップ技術、社会実装に必要な制度や標準化等といった、サプライチェーン全般の技術開発支援を実施している。

二つ目は、水素酸化細菌に注目をした研究開発のプロジェクトである。水素酸化細菌は、水素をエネルギーとし二酸化炭素を栄養として取り込み物質生産をする細菌である。バイオものづくりで主に利用される酵母等は、原材料として糖(可食糖や廃棄物等)を利用する。そのためコストや原材料調達の課題があったが、水素酸化細菌を利用すればそれらの問題が克服できる。さらには二酸化炭素を吸収した上での物質生産の実現できるためカーボンニュートラルの観点でも期待されている。

最後に

合成生物学は、化学素材、燃料、医薬品、繊維、食品等、様々な産業分野での応用が期待されている。合成生物学の基盤技術の開発は一定の成果が出ている段階であり、現状は産業化に向けたプロセスの高度化や低コスト化、スケールアップ等が課題だと認識している。これら課題の解決には「情報の計測・解析方法の高度化」や「AI等のデジタル技術の適用」等が鍵となるだろう。第3章で触れたスマートセル創出プロセスの高度化に加え、製造プロセスの高度化、例えば培養技術のデータドリブン化による自動化や高再現性の実現、スケールアップ技術開発等がブレイクスルーに繋がると考えている。併せて、技術的な検討のみならず設備投資、サプライチェーンやビジネスモデル等の検討も重要となるだろう。様々な課題が解決され、バイオものづくりの社会実装が進むことでバイオエコノミーの実現に近づくことを期待している。

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