背景及び目的
みずほリサーチ&テクノロジーズでは東北大学 寒川誠二教授の指導のもと、技術研究組合BEANS研究所と共同して、中性粒子ビーム発生装置の研究開発に取り組んでいます。この中性粒子ビーム発生装置は半導体表面のプラズマ分子によるエッチング加工の加工精度を高精度化するもので、次世代の半導体の超微細形状の製造技術につながるものと期待されています。
この中性粒子ビーム発生装置ではプラズマのイオン分子を黒鉛でできた板に開けた無数の穴(アパーチャ)を通します。その際にイオン分子がこのアパーチャの側壁のグラファイトに衝突して電荷がグラファイトと交換されます。この衝突によるイオンの中性化の現象について、みずほリサーチ&テクノロジーズでは理論的な解析を進めています。
解析事例
イオンがグラファイトと衝突する際の電子交換の現象を量子力学に基づいて電子の波動関数の時間発展として扱い、弊社の量子電子動力学シミュレータQuickQDを用いて数値解析しました。この結果、プラズマのイオンのうち、塩素原子の負イオン Cl- はグラファイトとの衝突によりその価電子を落として、中性化され、塩素分子の正イオン Cl2+ は逆にグラファイトから価電子を得て中性化される様子を数値計算上で再現することに成功しました。この成果はJ. Phys. D: Appl. Phys. 44 (2011) 125203に掲載されました。
図 塩素負イオンがグラファイトと衝突する際の電子交換の様子。イオンとグラファイトの多数の価電子が衝突の際に互いに交換され、イオンは衝突後にはほぼ中性化された原子となります。衝突後のイオンの価電子数から衝突でのイオンの中性化率が見積もられます。
成果及び展望
この数値シミュレーションの技術を用いて、さまざまなプラズマイオン種、アパーチャ材料の組み合わせで数値実験を行うことで、より高純度な中性粒子ビームを発生させる条件を探索する予定です。
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担当:サイエンスソリューション部