[連載]こども・子育て支援連載オピニオン(第6回) 新資格「こども家庭ソーシャルワーカー」導入の課題と展望 ~社会で支援者を育て、守る仕組みづくりに向けて~

2026年2月27日

社会政策コンサルティング部

松山 里紗

困難な状況にあるこどもの支援者に対する育成・定着の取組の重要性

全国の児童相談所が対応した児童虐待相談対応件数は、年間223,691件(令和6年度)と報告されている。18歳未満人口が減少する中、20年以上連続で相談対応件数が増加していることから、こどもを取り巻く課題は深刻化していると考えるべきであろう。

こうした厳しい状況を背景として、政府は「こどもまんなか社会」の実現を最重要課題の一つとして掲げ、強力なリーダーシップのもとで政策を推進している。こども施策に関する基本的な方針では、「良好な成育環境を確保し、貧困と格差の解消を図り、全てのこども・若者が幸せな状態で成長できるようにする」(こども大綱より引用)ことが定められている。「こどもまんなか社会」を達成するためには、最も困難なこどもを最優先で守るべく、困難な状況にあるこどもを第一線で支える支援者が重要な役割を果たす。よりよい支援が必要とする全てのこどもに届くよう、支援者を育成すること、また、支援者が離職せず、職場に定着し、支援のための知見・スキルを蓄積していくことができる、職務環境を整備することが、社会として注目すべき重要な取り組み課題であるといえる。

困難な状況にあるこどもの支援者が抱える課題

支援者の育成や定着にあたっては、解決すべき課題がいくつか存在する。例えば、受講が義務化されている研修機会が限定されており、専門性を向上するための仕組みが不十分であること。支援者が業務の中で強いストレスを抱え、職務遂行上の課題になる点が挙げられる。

中でも、児童福祉司は、こどもと家庭を守るために第一線で働く支援者である。現状、児童福祉司を対象とした研修のうち、受講が義務化されているものは新任者向け(任用前講習会および任用後研修)と指導者向け(スーパーバイザー研修)のみと限定的である。多くの児童福祉司は新任者向け研修を修了後、現場でのOJTのみで支援の専門性を習得することが通例となっており、育成が系統だっていない傾向がある。この状況を改善するためには、支援者の専門性を伸ばす機会を十分かつ体系的に整備し、支援者を「育てる」取組が不可欠である。

また、児童福祉司の業務は質的にも量的にも非常に高いストレスを伴う。児童福祉司は業務量が多く、夜間や休日の業務も頻繁に発生する。さらに、児童福祉司の業務の一つひとつの判断が、こどもの命や安全、将来に極めて大きな影響を与えることから、責任が重く、職員がストレスを抱えやすい。それだけでなく、児童虐待の事件が発生するたびに、児童相談所に対する批判的報道が散見されるように、「支援者はこどものためならば完璧な支援ができなければならない」という高い要求水準が課され、職員に過度な精神的負担を強いている。結果的に、児童福祉司は、心身の不調や業務上の悩み・不満を理由として退職する者が多く、全国で深刻な問題となっている。支援者の精神的負担を軽減し、支援者を「守る」対策も、並行して行う必要がある。

支援者を「育てる」取組としての新資格創設

支援者を育てる取組の一環として、2024年度に、こどもと家庭の福祉に携わる実務者の専門性向上を目的に、新しい認定資格「こども家庭ソーシャルワーカー」が新設された。この資格は、こどもと家庭を支えるために活動する人を広く対象として専門的な研修を提供し、研修で得た知識やスキルを、こどもや家庭と接する様々な支援の場で活用していくことを目指している。指定された研修(社会福祉士や精神保健福祉士など、ソーシャルワークに関する基礎的な国家資格の保有状況や、実務経験年数によって異なる)を受講し、試験に合格すると、資格を取得できる。初年度となる2024年度は、703名が合格し、2026年3月1日には2期目の試験が行われる。本資格の創設は、困難な状況にあるこどもの支援者に対する、専門性を向上させるための機会の充実に向け、大いなる貢献を果たしたものと言えよう。

ただし、一つの資格を作っただけでは、支援者を体系的に「育てる」取組が十分に実施されたとは言えない。当社が実施した調査研究*1によれば、研修受講者の9割以上が、認定条件の一つとなる研修を通じて学ぶ意欲が向上したと回答している。今後も引き続き、現場で活躍する実務者が継続的に学び、成長し続けるため、多様な学びの機会を整備していくことが求められる。

支援者を「守る」取組の充実に向けた新たな方向性

支援者を守るためには、まずは支援者の絶対数を増やすとともに、一人ひとりの支援者が抱える業務の量や責任の重さなど、業務負荷に関する課題の解決に取り組む必要がある。近年は国による計画的な増員により、児童福祉司の人数は直近7年で倍増しており(平成29年:3,240人、令和6年:6,482人*2)、課題への取組は一定進んでいると言える。

一方で、児童福祉司の定年退職以外の退職理由として「心身の不調」が最も多い*3ことなどを踏まえると、支援者の精神的な負担へのケアは不十分だと考えられる。近年、児童福祉司の精神的な負担を軽くするために、児童相談所が児童福祉司に対する面談の機会を拡充する取組、またNPO法人がピアサポート(同じような立場にある人による支援活動)の場を設けるなどの取組が始まっている。こどもへの支援に関わる組織自体が、支援者の精神的なケアの充実に向け、今後さらに力を入れていくことは重要だ。

今後、支援者のメンタルヘルスに関する課題を根本的に解決するためには、一般の市民、民間企業をも巻き込み、支援者の業務内容の理解を進め、支援者が精神的に追い込まれることのない社会を目指し、社会全体の意識を醸成していく必要がある。そのためには、例えば、メディア業界から、社会全体への情報発信を進めることで、こどもや家庭が、育ちの過程で多様な支援者に支えられている実情や、次世代を担うこどもの育ちを支える人々の社会的役割の重要性について、社会の理解を促進することが期待される。

加えて、社会全体が支援者をねぎらう風土の醸成、機会を提供していくために、事業会社が支援者本人をねぎらうサービスを提供する方法も考えられる。実際、同じくこどもを支援する専門職である保育士に関しては、以下の取組が行われている(表参照)。

こうした取組の対象を困難な状況にあるこどもの支援者にも適用し、支援者の職業活動の持続性強化、日々の暮らしがより豊かなものとなるよう、社会的な仕組を作り、それらを社会全体に広げる取組を進めるべきであろう。その結果、支援者の力になり、それが最終的には、こどもと家庭のためになるものと考える。

こども家庭ソーシャルワーカー資格の創設は、困難な状況にあるこどもの支援者が社会から注目される1つのきっかけにもなったと言える。これにより、実務者が必要な専門性を身につけやすくなる仕組が一層強化されることを期待する。さらに、支援者の存在、その業務内容に関する社会的認知度を高めるなど、支援者をサポートし、理解する仕組みが社会全体に広がることも重要な取り組み課題であろう。

困難な状況にあるこどもの支援を担う人々が、より一層大切にされる社会となり、ひいては困難を抱えるこどもの課題が解決され、健やかな育ちを守る社会基盤がさらに発展するよう参画していきたい。

表 保育士を対象とした支援活動等

取組の例 取組の説明
せんせいプライム*4 こども施設職員を対象とした優待施設プログラム。
未来を担うこどもたちの育ちや学びを支える、という社会意義の高い仕事をしている「先生たち」がもっと評価され、もっと応援される社会にしていきたいという思いからプログラムが創設された。
ミラサポ*5 一般企業からの協賛金を、保育士の「就職・転職促進(職が決まった際のお祝い金)」や「資格取得補助金(対策口座の受講費や教材代など)」に有効活用する仕組み。
一般企業が有するリソースを活用して、保育士の生活を支え、こどもたちがよりよい保育を受けられる社会を目指している。
  1. *1
    「こども家庭ソーシャルワーカーの研修の評価及び今後の在り方の検討に関する調査研究」(令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業。実施主体:みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)
  2. *2
    「新たな児童虐待防止対策体制総合強化プランについて(児童福祉司の増員について)」(こども家庭庁こども家庭審議会児童虐待防止対策部会(第5回)資料9—1
  3. *3
    「新たな児童虐待防止対策体制総合強化プランについて(児童相談所の人材確保・育成・定着について)」(こども家庭庁こども家庭審議会児童虐待防止対策部会(第5回)資料9—2)
  4. *4
  5. *5

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