社会動向レポート 当社人材開発事業「越境リーダーズキャンプ」モデル実証から考察する 越境学習は、今後の次世代リーダー育成に何をもたらすのか

2023年1月

社会政策コンサルティング部

担当次長

田中 文隆

主任コンサルタント

森安 亮介

コンサルタント

川崎 康太

コンサルタント

渡邉 武瑠

越境学習は、今後の次世代リーダー育成に何をもたらすのか(PDF/3,809KB)

VUCA時代と言われる中、企業ミドル層の中には、新たな事業開発や業務変革等既存業務とは一線を画す高度なミッション遂行を期待されるフロントランナーが存在している。他方で、当該人材のエンパワーメントに向けて何をすべきか、各社模索しているのが実情だ。当社では、このような問題意識を踏まえて次世代リーダー育成を企図した「越境リーダーズキャンプ」のモデル実証*1を大分県竹田市にて実施。本稿では、本プログラムを通じて得られた今後の次世代リーダー育成への示唆を紹介する。

1.はじめに

当社は、これまで「多様な『人活』支援サービス創出事業」や「プロフェッショナル人材事業」「中核人材確保事業」等、官公庁の社会実証事業等*2を通じて大企業人材のキャリア自律や地域フィールドでの多様な活躍機会等について人事部、地方公共団体、人材ビジネス会社、中間支援団体等と協働してチャレンジングな取組を支援してきた。また、上記ネットワークや知見等を活用して、2020年度には自主事業としてミドル人材のキャリアを考える「ネクストキャリアプロジェクト」*3を立ち上げ、有識者や企業人事、地域経営支援機関マネジャー等から構成される研究会を設置して、大企業人事部向けアンケート調査やインタビュー調査を実施してきた。

こうしたミドル人材育成に関するケーススタディやキャリア展望に関する議論を進めていく中で、ミドル層は、企業主導のキャリア開発施策の観点では若年層やシニア層と比べて関与が薄く、またミドル自身も公私ともに繁忙で十分に内的キャリア(地位や資格等の外から見たキャリアではなく、働きがいや生きがいに関する価値観のこと)について熟慮する機会や時間を持つことが出来ていないこと及び、その対策の必要性が明らかになってきた。特に、ミドル層の中でも、新たな事業ドメインの開発やドラスティックな業務変革等、既存業務とは一線を画すミッションの最前線に立つ者には、通常の階層別マネジメント研修や専門スキル習得研修だけでは実践性に乏しく不十分であり、現状そのサポートには課題があることも指摘された。さらに、研究会では当該ミッションに挑むミドル層に対しては、社内に育成知見が蓄積されているとは言い難く、管理・指導的な関わり合いよりむしろ、会社を超えた共助や他流試合等、越境学習による気づきの可能性も言及された。

そこで、当社ではこうした課題に取り組むべく、上記のような新たなミッションに挑むミドル層を対象とした次世代リーダー育成プログラム「越境リーダーズキャンプ」(以下「当キャンプ」とする)のプログラム開発、モデル実証を行うこととした。市場環境が目まぐるしく変化する中、新規事業開発や業務変革等、大きな期待や高度なミッションが寄せられるミドル層は、当該プログラムからどの様な気づきが得られるのか、フロントランナーとして期待される者をエンパワーメントするために何をすべきか、さらには今後の伴走や支援のあり方等、プログラムに参画した企業5社と地域2団体(計20名)による越境学習を通じて考察したい。

2.越境リーダーズキャンプが求められる背景

(1)次世代リーダー育成において越境学習が求められる背景

研修プログラムのタイトルにもなっている「越境学習」について、近年の人材育成を取り巻く背景とともに確認したい。

まず越境学習の定義について、学術的に一致した見解は見出せないものの、実務的には「組織外での協働的活動を通じた学習」とするのが一般的だとされている(長岡・橋本2021)。本プログラムにおいては、法政大学の石山恒貴教授による『自らが準拠する状況(ホーム)とその他の状況(アウェイ)の境を行き来し、「ホーム」とは異なる多様な知識や情報を統合する能力を獲得する学び』(石山2018)という定義を参考にしている。すなわち、企業在籍者が自社という「ホーム」を離れて、訪れる地域で他社社員とチームを組み協働する状況を「アウェイ」だと設定し、次章で詳述するような研修プログラムを設計している。

こうした「アウェイ」な環境下において、研修参加者は特に誰かから指示されるわけでなく、自分たちで取り組むべき課題やミッションを考え、異質なメンバーと協働しながら課題解決に取り組む状況に置かれることとなる。石山(2022)を参考にすると、こうした環境下で異質な他者との協働やミッション検討等を行うことで、研修参加者に、自身の暗黙の前提を見直し、自分の得意なこと・苦手なことを再発見し、自分の本当にやりたいことを再認識するような変化がもたらされることが期待される。実際、異業種5社で混交のチームを形成して地域課題に取り組んだ研修に関する研究(中原2015)やプロボノ活動を通した越境経験に関する研究(藤澤・高尾2020)では、社外人材と交流する中で自身を客観視して能力やスキルを再解釈したり、通常業務に対する捉え方が変わることで、主体的な仕事のデザインや人間関係のネットワーク再構築に繋がったりする効果が観察されている。

このような越境学習がもたらす育成効果は、近年の企業における人材育成ニーズ、とりわけ新規事業開発や既存事業の変革を担う人材の育成ニーズに強く合致するものである。企業の競争力の源泉が知識や創造性、イノベーション等に移る中、企業が育むべき人材要件も、個々の専門性はもとより志・情熱といった内発的な動機、人的ネットワーク、レジリエンス等の心理的特性といった要素がより重要になっている*4。とりわけ新規事業開発や既存事業の変革には、"与えられた課題"ではなく、"自らの問題意識や志に基づいた課題"として捉え直し、社内はもちろん社外ともコラボレーションしながら根気強く推進することが重要である*5。しかし、こうした育成ニーズに対し、従来型のOJTや階層別研修では限界がある。そこで着目されるのが越境学習を通した成長機会の提供である。実際、トヨタやパナソニック、サントリー等様々な企業が越境学習を取り入れているほか、ローンディールやクロスフィールズ等越境学習をサービスとして提供するような企業や団体も複数登場している。また、近年では政府による推進も進んでいる。例えば経済産業省「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(平成30年度)において越境学習の重要性が明記されたほか、令和元年度には同省がイノベーション推進人材の育成施策の一環として「越境学習のガイドライン」等を作成し公開している*6。さらに令和4年8月25日に、同省と金融庁の支援のもと320社で設立された「人的資本経営コンソーシアム」では、その取り組みの1つに参加企業間での相互の兼業人材受け入れが構想される等、企業においても、越境学習導入の必要性が高まってきている。

(2)越境学習に対する企業・地域の期待の声

こうした背景に鑑み、当キャンプのプログラム開発に際して、越境学習に関する都市部企業・地域それぞれとの意見交換を通じ、ニーズを調査した(図表1)

図表1 企業及び地域の課題意識

図表1

(出所)ヒアリング内容よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

①都市部企業の課題意識

都市部企業における人事や新規事業部門の責任者及び、企業人材育成分野の有識者等と、「事業開発人材育成」を中心に意見交換したところ、特に以下の2点が大きな課題であることが確認できた。

まず1点目の課題は、「事業開発の"現場視点"不足」である。

「新規事業を立ち上げた経験が無い社員ばかりなので、机上での発想に留まり迫力ある新規事業が提案されない」(金融機関関係者)等といった声が複数の企業から聞かれたが、中でも特に筆者が感じたのは「エンドユーザーの視点に立った、事業開発経験不足」である。顧客ニーズの精査が不十分であるために失敗した事業開発の例は枚挙に暇がないことからも明らかなように、事業開発人材育成に当たっても現場視点の育成は不可欠である。一方で、「『国内の既存事業で得た強みを活かそうとする想いが強く、現地ニーズやペルソナの把握が甘いまま海外展開を進めた』といったものも見られる」(自動車メーカー関係者)等の声も聞かれるように、企業における日常業務の中だけでは現場視点を育むことは難しいといった課題が浮き彫りとなった。

2点目の課題は、「社外人材との協業経験不足」である。

「オープンイノベーション」といった言葉が聞かれるようになり久しいが、企業の現場においても、自社内に留まらず、社外の人材と協業して事業開発を推進していくことが求められている。しかし、背景事情が異なる社外人材とのコミュニケーションは社内の人材同士のみで通じる"常識"頼りのコミュニケーションとは異なるため、社外人材との協業体制の円滑な構築には一定の慣れが必要となる。

意見交換を行った企業においても、「普段、異業種の方とフラットに実戦の場で協業を行う経験は少なく、非常に貴重な機会である」(電機メーカー人事担当者)等、当キャンプへの期待の声が聞かれた。また、地域の方と交流を重ねながらリアルな地域課題の解決に取り組む点を当キャンプの特徴と評価し、「当キャンプへの参加をきっかけとした、研修フィールド地域と、その地域に位置する自社支店との協業を期待したい」(旅行会社事業開発担当者)といった声も聞かれた。更には、単なる協業経験の蓄積に留まらず、「地方部では、『全国企業のブランド』よりも地場企業との顔が見える関係性の方が重視されるケースも多く、自社の人材にとってはある意味アウェイとも言える。そのアウェイの場で事業開発経験を積むことは、本人の内省にも大きな効果をもたらすことが想像できる」(保険会社人事担当者)といったように、社員のキャリア発達(社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程)への効果を期待する声も聞かれた。
企業の事業開発人材育成に関しては、社内での業務経験蓄積のみでは解決が難しい課題が浮上していることが上記意見交換からも判明した。また、今後事業開発人材育成に本格的に取り組む企業のみならず、既に越境学習プログラムを取り入れている企業からも、事業開発過程における内省面も重視した当キャンプへの期待の声が聞かれたことからも、当キャンプのニーズは一定程度存在していると判断した。

②地域の課題意識

自治体や地域金融機関、地方創生と関わりの深い有識者等と「地域課題解決の推進」を中心に意見交換を行ったところ、特に以下の2点が大きな課題であることが確認できた。

まず1点目の課題は、「地域内での議論の行き詰まり」である。

少子高齢化や人口流出等が都市部にも増して課題となっている地域においては、既に様々な形で地域課題解決を目指した官民連携プロジェクトがスタートしている。一方で、地域の関係者内のみで議論し続けても新たな提案が出ず、「中山間地域である当町には、外部人材の力は不可欠である」(地方自治体企画担当者)というように、外部の知見を取り入れた地域課題解決を求める自治体の声が複数聞かれた。

特に、「企業の中で通常行われている検討方法や整理方法も、地域にとっては斬新に見えることがあり、地域人材育成の点からも意義深い」(地域金融機関関係者)等と、地域は企業人材に対して、専門性のみならずプロジェクトの進め方についても期待を寄せている事が分かった。

2点目の課題は、複雑化する「地域課題解決への新たなアプローチ」である。

既に、地域における個別企業の経営課題の解決に関しては、副業・兼業人材と企業等をつなぐマッチングプラットフォームサービスが充実してきており、「取引先の本業支援として副業人材も含めた人材紹介支援を充実させている」(地域金融機関関係者)との声も複数聞かれている。他方で、地場産業の活性化やコロナ禍での観光再生に関しては、まちづくり会社、地域商社、DMO(Destination Management Organization)等がそのミッションを担うものの、扱う領域も多岐に渡り、求められる能力やスキルを有する人材をピンポイントで外部から採用することは決して容易ではない。例えば、「事業アイディアは、地域内に留まらず、目的に応じて多様な都市部人材とのディスカッションで磨きをかけている」(地域商社関係者)との声もあった。また、「個社課題と比べて地域が抱える社会課題は漠としており、副業人材とのマッチングを試みるものの、実情は厳しく、課題の捉え方から再考する必要がある」(地域金融機関関係者、非営利団体関係者)との声も聞かれた。つまりは外部人材の採用マッチングに留まらない、新たな解決アプローチの必要性が示唆された。

これまでに企業における事業開発人材育成に関する課題として現場視点や社外人材との協業経験不足、そして地域課題解決の推進に際して外部知見の活用、人材マッチングを超えた新たな解決アプローチの必要性があることを見てきた。

当社では、上記を解決する手段として、人材マッチングより多様なアイディアや価値観を持つ企業人材と地域の双方が、地域課題を題材として学び合う場を作り出すことが、むしろ有用なアプローチの一つとなるのではないかと考え、当キャンプのプログラム開発を行うこととした。

3.越境リーダーズキャンプ概要と実施結果

(1)実施概要

2021年度は、大分県竹田市をフィールドとしてキャンプを開催した。研修参加者のメインターゲットを、30代前後の中堅社員を中心とする次世代リーダー候補層、新規事業開発・既存業務の変革を担う企業社員と設定し、異業種間での学び合いの機会創出を企図し、複数の企業から研修参加者を募集した。また、多様な「越境学習」の機会創出を企図し、フィールド地域からの「地域受講生」も募集した。結果、商社、メーカー、旅行業及び、金融・情報通信グループ等の5社から計16名が参加したほか、「地域受講生」として、フィールド地域におけるまちづくり会社や市役所から計4名が参加した。これらの参加者の中で、後述する研修効果測定の観点から異なる企業・団体出身の受講生で構成される4グループを組成し、グループ毎に研修課題に取り組む形を取った。

(2)コンセプト

当キャンプにおいては、「ビジネスの力でリアルな地域課題に挑む」「越境体験を通じて『いつもの仕事』をアップデートする」「アルムナイと対話し、未来のキャリアを考える」の3つのコンセプトを掲げ、プログラム開発、モデル実証を行った(図表2)。

まず、「ビジネスの力でリアルな地域課題に挑む」に関しては、受講生の課題への取組意欲の向上、ビジネスプラン提案を通した研修フィールド地域への貢献といった観点から、単純に地域に赴くだけなく、自らも企画者となるリアルな環境設定を企図した。プログラムでは、実在する地域課題の解決に資するビジネスプランを考案し、プランの実施主体となる地域のキーパーソンに対して提案するというミッションを研修参加者に向けて提示した。

2021年度のフィールドである大分県竹田市は、江戸時代に岡藩の城下町として栄えた地域であり、武家屋敷が現在でも残っている。往時をしのぶことができる街並みが地域の有力な地域資源である一方で、城下町のエリアに未活用の空き地が存在しているといった課題を抱えており、まちづくり会社が中心となり課題解決に向けての取組を検討していた。そこで、「地域の空き地を活用し、域外から城下町に人を呼び込み地域に賑わいを創出する事業」を研修課題として、空き地活用事業に取り組むまちづくり会社の専務より、危機感や城下町の可能性についてプレゼンテーションを行った。

「越境体験を通じて『いつもの仕事』をアップデートする」に関しては、プログラムの中で自身の強み・持ち味に気づくためのグループワークや、多様な生き方を実践する地域のプレイヤーへのヒアリング機会を設けることで実現を目指した。

「アルムナイと対話し、未来のキャリアを考える」に関しては、受講生のサポーターとして企業アルムナイを活用した。サポーターの選定に当たっては、大企業での仕事経験を有しながら、現在は社外に身を置き、起業家やフリーランス等として活躍し、これまでの企業キャリアと現職キャリアの意味づけが行われている、すなわち組織間キャリア発達*7を成ているアルムナイであることを条件とした。こういった経験を有するサポーターが、企業特有の組織力学に対する洞察や企業内部では当たり前に見えてしまうような活用できるリソースの再認知、自身の持ち味への気づき等を促しながら対話を行うことを通して、受講生にとっての「自己の強み・弱みの認識」や「仕事・経験の棚卸し」の内省の触媒となることを企図した。

図表2 越境リーダーズキャンプのコンセプト

図表2

(出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(3)プログラム内容

約2カ月間に渡る研修は、「事前レクチャー」、2泊3日で実施する「座学研修」及び「フィールドスタディ」「個人ワーク&グループワーク」及び「中間・最終発表」から構成される(図表3)。

まず事前レクチャーでは、研修に対するマインドセットを行うと共に、まちづくり会社より受講生に対して研修課題を提示し、地域課題についてのプレゼンテーションを行った。

地域フィールドにて初日に行う座学研修においては、事業創出やマーケティングに関する基礎的な考え方・フレームワークのレクチャーや先進事例紹介に加え、地域課題にアプローチし社会的価値を生み出す事業をつくるための視点として、価値創造型思考やデザイン思考、ロジックモデル等に関するレクチャー・ワークショップを実施した。これらの学びを通して、実際に地域に入って活動する上で必要となるスキルとマインドセットの習得をサポートした。

次に、2日目と3日目のフィールドスタディでは、地域の関係者や地元で働く方々へのヒアリングを行い、ビジネスブランのアイディア出しを行った。また、サポーターとの1on1を設定し、城下町に立地する武家屋敷のスペースにて日本庭園を眺めながら、ゆっくりと自身のキャリアに関する「内省」を行う時間を提供した。

座学研修とフィールドスタディを踏まえた「実践」となる個人ワーク&グループワークでは、現地研修で収集した情報を元に、地域課題を解決するビジネスプランについてグループ毎に検討を行った。情報収集や環境分析、事業提案資料の作成等は、メンバー間で分担して個人作業にて実施し、サポーターに適宜相談を行い、フィードバックを受けられるように設定した。最終発表の2週間前には中間発表を行い、講師や他チームの受講生からのフィードバックを受け、ブラッシュアップする機会を設けた。

最終発表では、研修全体を通して作成した各グループのビジネスプランについて発表を行い、講師及び地域関係者からのフィードバックを受けた。最後に、研修全体を通した内省の総括をメンバーと共に実施して、約2カ月間に渡る研修プログラムが終了した。

図表3 「越境リーダーズキャンプ」プログラム内容

図表3

(出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

4.越境リーダーズキャンプ実施による効果

(1)仮説と研修設計

前述のように、企業次世代リーダーには、自身のキャリアとも紐づけながら主体的に新規事業開発や業務変革に臨むことが求められている。こうしたリーダーは、修羅場経験や新規事業等難易度の高い業務経験を通じて育成されるものと考えられる。例えば新規事業創出経験を通じた中堅管理職の学習に関する研究では、新規事業に取り組む過程で、働く目的・動機の問い直し(働く理由の探索)や、顧客価値に基づく事業の問い直し(事業価値の探索)等を経た上で自らを省察し、リーダーマインドや他者本意志向、経営者視点の獲得に至るものとされている(田中・中原2017)。

しかし、結果として育成に繋がるものの、ミッションの実現度に自他共に注目が行き過ぎ、新規事業開発や業務変革の過程における自身の変化に関しては、些か看過されてしまっている可能性もあるのではないか。そこで、縮図的な試みではあるが事業開発過程に内省を深める場を作り、その意義の一端だけでも体感してもらうことを企図したのが当キャンプである。

こうした経緯や狙いを踏まえ、2021年度の当キャンプでは、内省局面も含めた研修によってもたらされる効果を「仕事の再定義」「自己の強みや持ち味の認識」「リーダーシップの芽生え」の3つに据えてプログラムを設計し、効果検証を行った。以下、その詳細を述べた上で、効果検証の概要を紹介したい。

まず「仕事の再定義」である。越境学習に関する学術研究では、越境的に異なるコミュニティに身を置くことで、自己や自組織を相対化して捉え直す経験になる(長岡2015、石山2018)上、仕事に関連する認知等を変え、意味ある仕事経験を自ら創出する行動につなげるものとされている(藤澤・高尾2020)。当キャンプにおいても、地域に越境し、他企業社員とチームで課題解決に臨むような越境体験を経ることで、受講生が「顧客視点」や「社会課題の視点」から、改めて自社や自身の仕事の価値を捉え直す場になることを狙いとした。こうした仕事の捉え直しや職業観は、ジョブ・クラフティング(自分にとって個人的に意義あるやり方で職務設計を再定義・再創造するプロセス)やコーリング(自分の仕事を、自分を超えた力や自分自身の人生の目的、あるいは社会への貢献と結び付けて意味づけられる感覚)等の概念でも知られており、効果検証においても藤澤・高尾(2020)が用いたジョブ・クラフティングの調査項目や上野山(2019)の「コーリング」の調査指標等を参考にアンケート項目を作成している。

次に、「自己の強み・持ち味の認識」である。異業種企業と地域課題に取り組んだ先行事例では、越境的な学習の場によって自己能力やスキルの再解釈がもたらされることが報告されている(中原2015)。当キャンプにおいても、自分の強みや持ち味を振り返るとともに、他者からフィードバックを受ける場を積極的に設けた。こうして再認識・再解釈した自身の強みや持ち味こそが、新規事業であれ既存事業の変革であれ、自社に戻った時のチームビルディングや組織パフォーマンス向上に効果的に働くものと考えられるためである。そこで、効果測定を行うアンケート項目についても、高橋・森本(2015)の「強み活用感」や丸山(2021)の「持ち味発揮」等の指標を参考に質問項目を設計している。

最後に「リーダーシップの芽生え」である。上述の田中・中原(2017)のように、新規事業創出のプロセスで視座が変容し、リーダーマインド等の獲得に至るとされている。当キャンプにおいても、上述した「仕事の再定義」や「自己の強み・持ち味の認識」を踏まえ、直面する地域課題の解決策提示に向けて、「如何に多様なメンバーの知見や持ち味を引き出し融合するか。とりわけ越境先の環境下で企業の肩書きが通用しない中で、生身の人間として自らの想いや志にも立脚しながらチームをけん引できるか」に力点を置き、座学やワークショップでも自らの想いに向き合う時間を設けている。アンケート項目においては前述の田中・中原(2017,2018)を参考にし、質問項目を設計している。

こうしたプログラムの狙いと効果の関係性は上記に示す通りである(図表4)。なお、サポーターは3つの効果を促すための触媒的な働きを果たすものとして設計している。

図表4 プログラムの狙いと想定される効果

図表4

(出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(2)効果検証の方法

以上のような仮説を確かめるため、定量分析と定性分析の2つの方法による検証を実施した。

①定量分析

定量分析では、3つの効果について、研修開始時と研修修了時のそれぞれでアンケート調査を実施することで、受講前後における変化を統計的に観測した。

アンケート調査項目については図表5の通りである。参加者の属性やこれまでの越境経験等について確認た後、3つの効果に関する質問を実施した。具体的には、「仕事の再定義」では、上野山(2019)のコーリングに関する研究論文から向社会志向*8に関する4項目、藤澤・高尾(2020)のジョブ・クラフティングに関する研究論文から5項目を引用し、合計9つの質問項目を用いている。次に「自己の強みや持ち味の認識」については、高橋・森本(2015)の強み活用感尺度から4項目、丸山(2021)の強み認識や持ち味発揮から7項目、中原(2015)から固定的パースペクティブ変容に関する2項目等、各研究論文から合計13の質問項目を引用している。そして「リーダーシップの芽生え」については、田中・中原(2018)及び田中(2021)の研究で用いられている指標の内、リーダーマインドや他者本位志向、経営者視点の獲得に係る9項目を引用している。最終的に、合計31項目の質問に対し、「①全くあてはまらない」~「⑤かなり当てはまる」の5段階で回答するアンケートとなっている。

図表5 アンケート調査項目

図表5

(出所)本稿で紹介した各種先行研究よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

②定性分析

定性分析においては、研修期間中に受講生に随所で「パーソナルビジネスモデルキャンバス」と「内省ログ」を記載してもらうことで、受講生がどの様な気づきを得たかを可視化した。

なお、「パーソナルビジネスモデルキャンバス」とは、アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールによって開発された「ビジネスモデルキャンバス」を個人のキャリア版に活用したものである(図表6)。顧客・ユーザーの定義や、顧客・ユーザー視点に立った提供価値が可視化される上、その価値創出に必要な自身の強み(キーアクティビティ)や社内外のリソースに対する受講生自身の認識を明確化できる点に特徴がある。他方、「内省ログ」は、当社が作成したもので、研修中に感じたことや違和感・葛藤等を記録するツールである(図表7)。「自己理解」や「チームへの貢献」「多様性」等の項目に分けて自由記述で記載する形式としている*9

このような2つのツールへの記載内容を、研修前後で比較することで、受講生の気づきや学びを捉えた。さらに、これらのツールに加えて、受講生に別途インタビューも実施することで、定性的な効果の抽出も行っている。

図表6 パーソナルビジネスモデルキャンバス

図表6

(出所)ティム・クラーク著;アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール共著(2012)神田昌典訳『ビジネスモデルYou』翔泳社

図表7 内省ログの項目

図表7

(出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(3)効果検証結果

3つの効果の検証結果は次の通りである。

①仕事の再定義について

まず、「仕事の再定義」についてはアンケート9項目中4項目で「⑤かなり当てはまる」と回答した人数が増加した。具体的には「私のキャリアの最も重要な役割は、他の人がやりたいことをできるようにすることにある」「私の仕事は社会全体の利益に貢献している」及び、「自分の仕事上の強み・弱みや、成果を出せる働き方について具体的に認識している」等の項目で増加がみられた。「内省ログ」の記述からも、以下のような記述が確認された。

「社外かつ今までの自身を知らない人に聞いてもらうことで、経験してきたことの本質が棚卸することができた。」

「社外の方と交流することで、自社に対する考え方や他社の考え方(ビジネス等)の共有ができたことで、自分自身の仕事に対する関わりや、仕事の仕方について見つめ直すことができた。」

「今までの自分のことを知らないメンバーに囲まれることで、改めて客観的に自分がどのように映っているのかということを見直すことが出来た。またその結果として、自分はどう立ち回ることがこのチームとして一番成果を出せるのかと考えながらの行動を心がけようということに繋がった。」

こうした記述からは、他社のメンバーや地域関係者といった、社外との関わりを通じて自身の仕事や経験を顧みる様子が伺える。

②自己の強みや持ち味の認識について

次に、「自己の強みや持ち味の認識」である。アンケート13項目中8項目で「⑤かなり当てはまる」と回答した人数が増加しており、特に、定量面で最も効果が顕著であった。例えば「自分の強みをよく知っている」「自分がどんなときに力を発揮できるかを知っている」及び、「私は自分の強みを様々なやり方で活用することが出来る」等の項目で増加がみられた。とりわけ興味深いのは、会社では同じ職務を担当しているにも関わらず、研修後はより強み・持ち味を活かせていると感じるようになった点である。例えば、「今の生活や仕事において自分の強みを活用する機会がたくさんある」「今の仕事では私らしさ・私の個性を活かせていると思う」及び、「今の仕事では私の強みが活かせていると思う」等の項目で増加がみられた。こうした変化は、研修を通して自身の持ち味等に改めて気づくことで、それを活かす場面を日常業務の中でも認識できるようになったことを意味している。

実際、「内省ログ」の記述からも、以下のような記述がみられた。

「私の強みとして、行動力があるとチームメンバーに言ってもらえた。今まで自分の強みとして認識していなかった点なので、驚いた。今後はその点に自信をもって業務に取り組んでいきたい。」

「自分の持ち味は、たとえ自分とは全く正反対の価値観であっても受け入れられることだと感じました。」

「研修最後の振り返りの中で、『あなたが居たからチームがまとまった』と声をかけていただけた。また、講師の方からも『他のメンバーに合わせて自分の役割を変えられることが一つの強みではないか』というフィードバックもあったので、チームワークという点は自分の強みの一つだと認識することが出来た。」

加えて、強みだけではなく、自身の弱みや思考の癖等を認識できたことも「内省ログ」の記述で確認できている。

「相手の話をよく聴くことが自分の強みであると思っていましたが、その反面自分の意見をあまり言い出せない弱みにも気づかされました。常に周りを伺いながら発言をするクセがあるため、今後は積極的に意見が述べられるようにすることが自分の課題であると感じました。」

「いつもとは異なる発想を意識していたが、結局アウトプットはいつもの発想に近く、染み付いた思考の癖を変えることは容易ではない。思考の癖を認識し、都度、癖が悪い方向に出ていないかを意識することが大事。これは明日からも活かしていきたい。」

「私の強みは決断力、推進力だと思っていた。しかし、チームメンバーと当キャンプを受けながら気付いた点は共感ができないことについてはすぐ突っ込んでしまうこと。また、自分のアイディアに共感をもらえないと落ち込んでしまうことに気付いた。」

チームメンバーやサポーターからの評価や相対比較を通じて、自己の強みや弱みも含めた持ち味に対する理解が深まり、今後に活かそうとする様子が伺える。

③リーダーシップの芽生えについて

そして「リーダーシップの芽生え」においても、アンケート9項目中4項目で「⑤かなり当てはまる」と回答した人数が増加した。具体的には「多様な関係者を巻き込む力がある」「常に全社視点で物事を考える」「ビジョンを掲げて事業やプロジェクトを推進している」及び、「積極的にリスクを取る」の項目で増加がみられた。

「内省ログ」の記述を見ると、普段とは異なる属性や価値観に出会えたことで、その相乗効果のインパクトを理解したからこそ、メンバーをまとめたり、チームとしての方向性を統一する難しさや重要性を認識したりする様子を確認することができた。

「バックボーンの違う方々とベクトルを合わせ、(短期間で)一つの目的に進んでいくことの難しさを痛切に感じています。一方、多様な考え方を知り、その掛け合わせがより魅力的な価値を提供できる可能性も感じることができ、事業構築の醍醐味を改めて認識することができました。」

「研修全体を通して、同じような経験や知識量のメンバーが揃ったチームよりも、多種多様な経験・知識を持つメンバーが揃った方が様々なアイディアが生まれ、より良いアウトプットに繋がるポテンシャルがあるということを感じた。また、勿論多種多様なメンバーの方がその分チームとして纏まることが大変にはなるので、チームを上手く纏めるための立ち回り方が大切になるというのも合わせて実感した。」

以上の検証結果から、今回の当キャンプ開催を通じて、3つの効果全てにおいて、ポジティブな変化を確認できた。こうした変化は、普段とは異なるメンバーと関わりながら、研修フィールドである竹田市の地域住民と直接対峙し、地域課題に直面することで、社会の中で自分自身を相対化したことによって生まれたものと考えられる。

加えて、「内省ログ」等の記述を見る限り、そうした変化を促した大きな要因の1つは、チームメンバーからのフィードバックや、サポーターによる1on1であった。例えば、サポーターによる1on1については次のような記述があった。

「直属の上司等には言い難い、自身の悩み等についてぶつけることで、(サポーターの経験を踏まえた)アドバイスを頂くとともに、改めて自身を客観的に振り返ることができたと思う。」

「短時間で私の性格を読み取っていただき、私の強みを活かした今後のキャリア形成についてのアドバイスも頂いた。」

「(サポーターとの交流を通して、)Viewが違う人たちと理解の接点を作るために、自分の意見を様々な視点で再解釈することを普段から行っておくことが大切であるという点に気付かされました。」

上述の通り、サポーターの役割期待を「習得を支える触媒」としたため、定量的な効果検証は難しいものの、第三者からのフィードバックを織り交ぜることが、受講生の気づきを一層促すことを定性コメントから確認できる。

5.モデル実証からみる今後の次世代リーダー育成の示唆と今後の社会的課題

本稿では、2021年度にモデル実証として行った次世代リーダー育成プログラム「越境リーダーズキャンプ」の考察を通じて、新規事業開発や業務変革等大きな期待やミッションが寄せられるミドル人材がどの様な気づきを得て変容していくのか整理した。

その結果、越境体験によってもたらされる「仕事の再定義」や「自己の強みや持ち味の認識」「リーダーシップの芽生え」について、一定の効果があることが確認された。加えて、定性コメントや事後インタビュー等を踏まえると、上述のポジティブな変化は、試行的に導入したアルムナイサポーターによる1on1やチームメンバーからのフィードバックによって促されている様子も確認された。実際、1on1やグループワークの熱気を肌で感じた筆者としては、メンバーやアルムナイサポーターとの関係性が「教える・教えられる」というものでなく、相互作用的に「学びあう」関係性になったことが奏功したものと考えている。こうした関係者同士の対等な立場による相互作用は、研修プログラム後半に差し掛かるにつれ、随所で見られた光景であった。とりわけ最終発表会の直後に実施した振り返りセッションでは、そうした様子を顕著に確認することができた。振り返りセッションとは、今次の事業開発過程において自身がどの様な役割を担ってきたのか、メンバーからの指摘も踏まえて振り返るものである。ある受講生は、「グループメンバーから議論が煮詰まった際の突破力・打開力」が自身の強みとして指摘されたが、自身の強みが活かされたのは、「他の意見を持つ者との接点となったメンバーの調整力」があってのこととしており、チームとして機能したことに喜びや充実感を感じていた。こうした関係性はキャリア発達*10における共助の一端とも考えられる姿ではないだろうか。その根底には、それぞれの受講生が相互関係を通し、自己認識が研ぎ澄まされ、それらを正面から受け止めることを厭わない構えを持ち得たことがあると考えている。そこで当社では、モデル実証を経て、当ブログラムの提供価値を「受講生が今後リーダーシップを発揮していくための起点となるべき基盤を構築、あるいは再構築する場の提供」であると再定義した。

当モデル実証の期間は約2カ月間と短く、研修修了後の中長期的な効果を検証していくことが必要である。一部受講生やその上席者に対しては、追跡的なヒアリング調査を随時実施しているが、研修を通して自らの課題に気づき、意志が固まり、職場に戻ってからも実際に改善を試みている姿等を既に確認できている。前述の3要素の習得には、研修後に日常業務に戻る中で更に理解・習得が進む側面が多分にあるものと思われる。こうした中長期的な影響の把握は、効果検証上の今後の課題である。

他方で、今次の越境体験を終え、ホームともいえる自社に戻った受講生の継続的な成長、ひいては、企業ミドル人材を取り巻く構造的な課題に目をむけると、次の2つの社会的課題が浮き彫りになる。第1に、越境体験を通して得た効能を、一過性のものでなく組織として継続的なものとして維持できるのか、という点である。フロントランナーとして期待されるミドル人材のエンパワーメントに関して、今回の研修を通じて、地域や異業種同世代との他流試合による越境体験が奏功している点は確認できた。昨今の兼業・副業の解禁等によって、企業で越境体験をする人材は増えることが予想される。しかし、共助的なキャリア発達の場が重要であるならば、そうした場を継続的に誰が、どの様に質を含めて担保するのか。現場の上位管理職がその任をも担うことになるのか、または人事部や社内キャリアコンサルタント等が担当できるのか。現段階では、戦略的に「越境学習」を経営課題に紐づく人材育成施策として位置づけ、人的資本投資を継続的に行う企業は少なく、組織横断で検討すべき課題であると言えよう。

第2に、越境体験を通して得られた気づきを新規事業開発や業務変革の場でどの様に実践に昇華させ、成果に結び付けていくのか、支え手である上位管理職や組織がどの様に関わり活かしていけるのかという点である。上述の追跡的なヒアリング調査で垣間見えた中長期的な効果を勘案すると、上位管理職は、越境体験後も何らかの組織的なサポートを行うことで、効果を最大化することが望ましい。しかしながら、越境体験で得られた気づきを、組織の中で実践に向かわせ、広げていくために必要となる経験値や知見は、一般的には未だ乏しいと考えられる。

こうした次世代リーダーとしてのミドル人材に求められる継続的なパートナーシップ関係の在り方のヒントは、コミュニティや緩やかなネットワークを通じた互恵関係にあるものと考えられ、当社ではそれらに応えていく動きにも取り組んでいきたいと考えている。当キャンプは次年度も実施予定であるが、昨年度(第一期生)や今年度以降の受講生(第二期生、第三期生)も含めたプログラムへの関わり、すなわち越境学習を経たミドル人材のコミュニティの組成・運営、参画企業の人事や上位管理職を交えた勉強会等の試行を通して、これら2つの社会的課題の解決についても継続的に取り組んでいきたい。今年度は、参画企業も増え、地域フィールドに鳥取県智頭町も加え、当キャンプを実施している*11。越境・共助関係を通じて紡ぎ出されるミドル層次世代リーダーの信頼の紐帯を豊かにしていきたい。

  1. *1
  2. *2
    大企業人材のキャリア自律や地域フィールドでの活躍に関する社会実証事業(当社事務局)をまとめたものとしては、以下のレポートを参照されたい。田中文隆・森安亮介(2018)「地域企業・地域経済を成長に導くプロフェッショナル人材の活用」『みずほ情報総研レポート』vol.15、1~11ページ。
  3. *3
    2021年度当社自主研究プロジェクト。大企業に勤めるミドル人材(35歳~55歳を想定)のキャリア形成について、ミドル層個人、企業、コーディネート機関、社会システムの4つの主体から課題及びその対応に資する着眼点について整理。
  4. *4
    例えば三輪(2021)は、近年のミドル以降の知識労働者に関するキャリア研究の傾向として、「知識やスキルといった人的資本あるいは認知的リソースと呼ばれるもの、人的ネットワークや社会関係資本と呼ばれるもの、そして主体性や精神的な強さ、あるいはアイデンティティや自己認識に代表される心理的な特性がある」と整理している。
  5. *5
    例えば新規事業創造経験者の思考特性に係る定性調査を行った研究(白石・石原2011)では、「良き世界への信念」「強烈なゴール志向」「高速前進志向」「粘り強さ」「経験に裏打ちされた自負」等が共通する思考特性だとしている。
  6. *6
    経済産業省令和元年度「大企業人材等新規事業創造支援事業費補助金(中小企業新事業創出促進対策事業)」に係る事業の一環として、越境学習に係る概説や大企業の越境学習導入時の留意・工夫すべき点、活用マニュアルや評価指標等が作成・公開されている。
    https://co-hr-innovation.jp/rubric/
  7. *7
    組織間キャリア発達とは、山本(2008)によれば、「組織を移動することにより、自己のキャリア目標に関係した経験や技能を継続的に獲得していくプロセス」であると定義している。また、組織間キャリア発達の特性の1つとして、「移動前の組織でのキャリアと後の組織でのキャリアについて、自分でそれらを意味づけ有機的に統合する等、高い自己管理が必要となる」と述べている。
  8. *8
    コーリング(「自分の仕事を,自分を超えた力や,自分自身の人生の目的,あるいは社会への貢献とむすびつけて意味づけられる感覚」)概念の構成要素の1つであり、上野山(2019)では「自分の仕事が他者や社会全体に便益をもたらすと感じる程度」であると定義されている。
  9. *9
    内省ログについては、本プログラムの座学講師でもある株式会社SUSUMEの竹居淳一代表取締役との議論を踏まえて当社が作成した。
  10. *10
    三輪(2018)は、知識労働者の組織間移動に関するキャリア発達には、「働く上での目的意識の発見(確認)や再発見、環境にあわせた迅速でランダムな学習、組織外部につながる弱い結びつきのネットワークが重要である」と述べている。
  11. *11

参考文献

  1. 1.
    石山恒貴(2022)「省察(リフレクション)で新たな気づきをもたらす越境学習の効果とは」『日本糖尿病教育・看護学会誌』26(1)
  2. 2.
    石山恒貴(2018)『越境的学習のメカニズム—実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像』福村出版
  3. 3.
    上野山達哉(2019)「コーリングによる職務行動志向への影響の両義性:自動車販売職における定量的分析をもとに」『日本労働研究雑誌』61(12)
  4. 4.
    高橋誠・森本哲介(2015)「日本語版強み活用感尺度(SUS)作成と信頼性・妥当性の検討」『感情心理学研究』22(2)
  5. 5.
    田中聡(2021)『経営人材育成論』東京大学出版会
  6. 6.
    田中聡・中原淳(2017)「新規事業創出経験を通じた中堅管理職の学習に関する実証的研究」『経営行動科学』Vol.30(1)
  7. 7.
    田中聡・中原淳(2018)「中堅管理職における新規事業創出経験者の学習促進要因」『日本労務学会誌』Vol.19(2)
  8. 8.
    田中文隆・森安亮介(2018)「地域企業・地域経済を成長に導くプロフェッショナル人材の活用」『みずほ情報総研レポート』vol.15、1~11ページ
  9. 9.
    ティム・クラーク著;アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール共著(2012)神田昌典訳『ビジネスモデルYou』翔泳社
  10. 10.
    中原淳(2015)「異業種5社による「地域課題解決研修」の効果とは何か? —アクションリサーチによる研修企画と評価—」『名古屋高等教育研究』第15号
  11. 11.
    長岡健(2015)「経営組織における水平的学習への越境論アプローチ」香川秀太・青山征彦(編著)『越境する対話と学び』第3章(65–81)所収、新曜社
  12. 12.
    長岡健・橋本諭.(2021)「越境学習,NPO,そして,サードプレイス:学習空間としてのサードプレイスに関する状況論的考察」『日本労働研究雑誌』63(7)
  13. 13.
    藤澤理恵・高尾義明(2020)「プロボノ活動におけるビジネス—ソーシャル越境経験がジョブ・クラフティングに及ぼす影響—組織アイデンティティとワークアイデンティティによる仲介効果—」『経営行動科学』31(3)
  14. 14.
    丸山淳市(2021)「仕事における持ち味発揮の探索的検討」『Works Discussion Paper』No.44
  15. 15.
    三輪卓巳(2018)「知識労働者のミドル期以降の組織間移動」(京都産業大学マネジメント研究会編)『京都マネジメント・レビュー』第33号
  16. 16.
    三輪卓巳(2021)『ミドル&シニアのキャリア発達—知識労働者にみる転機と変化—』中央経済社
  17. 17.
    山本寛(2008)『転職とキャリアの研究(改訂版)—組織間キャリア発達の観点から—』創成社

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