【最新動向解説】欧州の食品接触材料における再生プラスチックの法規制

2025年6月6日

サステナビリティコンサルティング第2部

中元 昌広

*本稿は、『plaplat®』2025年4月3日(発行:長瀬産業㈱)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

欧州連合(EU)は、使い捨てプラスチック製品による環境・人の健康への影響を防止するとともに、循環型経済への移行を促進するため、「Directive on single-use plastics(SUP指令)[1]」を2019年に発効しました。SUP指令は「2025年から飲料用PETボトルに再生プラスチックを25%、2030年から全プラスチック飲料ボトルに30%を配合すること」としており、本年がその開始年です。再生プラスチックの使用の促進が期待される一方、その安全性の確保も重要な課題です。EUでは食品接触材料の再生プラスチックの安全性に関する法規制もあることから、本稿ではその動向を紹介します。

食品接触材料の規制と再生プラスチック:法的枠組み

EU法令では「食品接触材料及び成形品」は以下を意味します[2]。

  • 食品に接触することを意図しているもの
  • 既に食品と接触しており、その目的が意図されたもの
  • 食品に接触することが合理的に期待されるもの、又は通常の若しくは予見可能な条件下でそれらの成分が食品に移行することが合理的に期待されるもの

【具体例】

—食品の生産、加工、保管、調製、提供、最終消費の前に接触する材料及び成形品
—食品の包装・容器、食品を加工する機械、台所用品や食器

EUの食品接触材料に係る法体系の概要を図表1に示します[3]。規則(EC)1935/2004が枠組み規則とされ、食品接触材料の規制の一般原則が示されています。材質別には、規則(EU)10/2011によってプラスチック材料又は成形品に係る規制が定められており、原材料として使用できる物質がポジティブリスト制度(ユニオンリストへの収載物質以外は原則使用不可)によって制限されています。また、規則(EU)2022/1616(以下「再生プラスチック規則」という。)によって、食品と接触する再生プラスチックに係る規制が定められています。

図表1 食品接触材料に関するEUの法体系の概要

図表1

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ(株)が作成

再生プラスチック規則の適用とリサイクル技術

再生プラスチック規則[4]は、食品接触を意図する再生プラスチック材料及び成形品に係る法的枠組を定めています。本規則における再生工程に係る概念図を図表2に示します。

図表2 再生プラスチック規則における再生工程に係る概念図

図表2

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ(株)が作成

再生工程は、プラスチック廃棄物から再生プラスチック材料及び成形品を製造する一連のプロセスのことを指し、その要素は前処理、除染工程、後処理の3つに大別されます。
①前処理  :プラスチック廃棄物の分別、破砕、洗浄、混合等のプロセスであり、これを経ることでプラスチック投入材が得られます。
②除染工程:プラスチック投入材中の汚染を除染技術を用いて除去するプロセスです。
③後処理  :除染工程に続く全ての操作であり、これを経ることで再生プラスチック材料及び成形品が得られます。

再生工程には何らかのリサイクル技術が使用されますが、再生プラスチック材料及び成形品は、本規則が定める適切なリサイクル技術又は新規技術を使用して製造される必要があります。
適切なリサイクル技術は本規則の附属書Ⅰで定められています(図表3)。現時点では2種類に限られ、消費後廃棄物を使用したリサイクル技術としては「使用済みの物理的PETリサイクル」のみが認められています。物理的再生法であることに加え、「食品以外の材料又は物質に接触して使用された材料及び成形品の含有は最大5%まで」、「除染したPETや最終産物としての材料や成形品は、電子レンジやオーブンに使用しないこと」等の仕様も定められています。

図表3 適切なリサイクル技術(附属書Ⅰ)

          使用済みの物理的PETリサイクル 閉鎖的で管理された
チェーン内の製品ループからのリサイクル
ポリマーのタイプ PET 規則(EU)10/2011に適合した一次材料として製造された全てのポリマー
リサイクル技術 物理的再生 再成形時の基本洗浄と微生物学的除去
インプットの仕様 消費後廃棄物としてのPETのみ
(食品以外の材料又は物質に接触して使用された材料及び成形品の含有は最大5%まで)
化学的に汚染されていないプラスチック材料及び製品
(単一のポリマー又は適合的なポリマーから製造されたものであって、同一の使用条件の下で使用され又は使用されることが意図されており、かつ、閉鎖的かつ管理された連鎖の中にある製品ループからのみ得られたもの。消費者からの回収により得られたものは含まない。)
アウトプットの仕様 除染したPETや最終産物としての材料や成形品は、電子レンジやオーブンに使用しないこと。
(個々の再生工程において、追加仕様の適用可能性あり)
プラスチック投入物を入手したリサイクルスキームで流通する材料及び成形品と同一の目的・使用条件で使用すること
個々の再生工程の承認の必要性 あり なし

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ(株)が作成

なお、新規技術は一定の検証を経た後、適切なリサイクル技術としての適合性が判断されます。適合性があれば附属書Ⅰに追加されます。

EFSAの再生PET評価基準:食品接触材料におけるリサイクルプラスチックの安全性

「使用済みの物理的PETリサイクル」の場合、その再生工程は欧州委員会による個別承認を得る必要があり、その承認過程で欧州食品安全機関(EFSA)による評価を経る必要があります。EFSAは「使用済みの物理的PETリサイクル」を用いた再生工程を評価するとともに、承認申請の準備を支援するための科学ガイダンスを公表しています[5]。

再生プラスチック材料や食品に接触する成形品の使用に関連する健康リスクは、再生プラスチック中の汚染物質が食品に移行する可能性から生じるとされ、リサイクルPETの場合、例えば次の汚染源を考慮する必要があるとされています。

  • 誤用の可能性による汚染物質
  • 市販の非食品用PETの消費者用製品(化粧品、衛生製品、家庭用洗剤)
  • PET以外の材料及び成形品
  • 廃棄物収集に由来するその他の材料及び化学物質
  • PET容器に入れられていた食品の成分

再生工程の評価の考え方の概要を図表4に示します。除染後の汚染物質の濃度(Cres)が基準濃度(Cmod)以下である場合、この再生工程で製造されたリサイクルPETは安全上の懸念とはみなされないとされます。除染後の汚染物質濃度(Cres)はプラスチック投入材の汚染レベル(3 mg/kgが既定値)と除染効率によって算出され、除染効率はチャレンジテストによって実験的に決定されます。
上記の通り、リサイクルPETにはさまざまな汚染源が想定されますが、汚染源によらず汚染の可能性のある物質を低減する能力を検証するため、実際に含まれる汚染物質の代理となる物質(代理汚染物質)を再生工程に導入して除染効率を算出します(図表5)。代理汚染物質は「懸念される可能性のあるすべての汚染物質を代表する異なる分子量と極性を持つ物質」とされ、トルエン、クロロベンゼン、クロロホルム等が使用されます。

図表4 再生工程の評価の考え方の概要

図4

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ(株)が作成

図表5 チャレンジテスト

図5

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ(株)が作成

SUP指令の影響と再生プラスチック技術の革新

「SUP指令は「2025年から飲料用PETボトルに再生プラスチックを25%、2030年から全プラスチック飲料ボトルに30%を配合すること」としています。
一方、プラスチック規則では、消費後廃棄物を使用したリサイクル技術としては、「使用済みの物理的PETリサイクル」のみが適切なリサイクル技術として認められています。SUP指令のターゲットの実行可能性の観点からは、適切なリサイクル技術の拡充が期待されるところです。
逆に、適切なリサイクル技術の拡充に伴い、SUP指令において再生プラスチックの配合割合の要件が定められる食品用器具や容器包装の種類が拡充していく可能性もあるかもしれません。SUP指令の今後の動向を占う上でも、プラスチック規則に定められる適切なリサイクル技術の動向を注視することは重要であると考えられます。

参考文献

  1. [1]
    Directive (EU) 2019/904 of the European Parliament and of the Council of 5 June 2019 on the reduction of the impact of certain plastic products on the environment
    https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2019/904/oj
  2. [2]
  3. [3]
  4. [4]
    Commission Regulation (EU) 2022/1616 of 15 September 2022 on recycled plastic materials and articles intended to come into contact with foods, and repealing Regulation (EC) No 282/2008
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2022/1616/oj
  5. [5]
    EFSA (2024) Scientific Guidance on the criteria for the evaluation and on the preparation of applications for the safety assessment of post-consumer mechanical PET recycling processes intended to be used for manufacture of materials and articles in contact with food
    https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.2903/j.efsa.2024.8879

(CONTACT)

会社へのお問い合わせ

当社サービスに関するお問い合わせはこちらから

MORE INFORMATION

採用情報について

みずほリサーチ&テクノロジーズの採用情報はこちらから

MORE INFORMATION