持続可能な木材調達方針の必要性 —森林保全と企業のリスク管理の視点から—

2025年7月30日

サステナビリティコンサルティング第1部

辻󠄀井 美帆

1980年代から世界で森林、特に熱帯林の急速な減少が大きく取り上げられてきた。近年、世界の森林面積の減少ペースは緩やかになっているものの、依然として南米やアフリカでは森林面積の減少が続いている[1]。森林減少の原因の一つは、商業的な利用を目的とした非持続的な森林伐採であり、なかでも世界の木材取引額の15-30%を占めていると推定される違法木材[2]は、重要度の高い生態系の破壊や、希少性の高い樹種の非計画的な伐採を引き起こすことなどから大きな問題となっている。
森林の減少や劣化は、生物多様性の保全や土砂災害の防止といった森林の多面的機能の損失につながるため、適切な森林管理や木材の利用を進めていくことは持続可能な社会の発展に不可欠である。

このような背景から、近年、非持続的な森林・木材利用を排除し、持続可能な森林利用を進める動きが以前に増して強まっている。2021年のCOP26では、140以上の国と地域が参加する「森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言」が発表され、森林の保全と回復促進を強化することが宣言された。生物多様性損失の解決を目的として2024年に国連責任投資原則(PRI)が発足させたイニシアチブであるSpringは、当組織が最初に取り組むべき課題として森林の消失を選んでいる。
各国・地域による規制も始まっている。EUでは2023 年に「欧州森林破壊防止規則(EUDR)」が発効され、EU域内で流通する木材を含む7品目を扱う企業は、生産段階で森林が破壊されていないことを確認する等の義務を負う*1。日本においても2023年に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)」が改正された。改正では、原木市場等の川上や輸入事業者等の水際の木材関連事業者に木材の合法性の確認が義務付けられ、小売事業者も合法伐採木材利用の努力義務を負うことになるなど、合法木材の使用に向けた取組みが強化されている。
イニシアチブ等の活動による社会的要請や各国・地域による規制の強化は今後も続くと考えられ、持続可能な木材調達は企業のリスク管理として益々重要になるだろう。

森林が伐採され、木材として小売業者に届くまでには多数のステークホルダーが関与している。輸入材のサプライチェーン構造は国産材と比べてさらに複雑であり、商品に木材を使用する企業にとって、木材のサプライチェーンを管理し、トレーサビリティを確保することは大きな課題である。
この課題に取組む重要なアプローチの一つとして、持続可能な木材調達方針の策定がある。木材調達方針の策定により、木材調達に関する自社の基準を社内外に表明することができ、さらに調達先に策定した方針への賛同を求めるといった具体的な取り組みにつなげることもできる。すでに多くの企業が自社の調達物全体を対象とした調達方針を策定している。しかし、上で述べたような木材特有の問題やリスクを十分に反映させるためには、現状の方針に加えて、木材に特化した調達方針を策定することが必要だ。
木材に特化した調達方針には多くの場合、伐採国・地域における法令の遵守や保護価値の高い森林の毀損禁止などが含まれる。加えて、人権方針などの自社の他の方針と連携した項目を設けたり、TNFD開示の中で特定した自社の木材調達の特徴や調達先の地域性を反映した項目を含めたりすることも可能である。持続可能な木材調達方針をさらに発展させる場合には、方針に沿った自社独自の数値目標や評価基準を設定することもできる。例えば大和ハウスグループは、自社の「森林破壊ゼロ方針」に沿ったガイドラインを用いて、調達した木材を4段階でランク付けし、ランクが低い木材を扱う調達先に働きかけを行っている[3]。

持続可能な木材調達方針を策定することは、自社の木材調達に関する課題とリスクを認識し、今後の方向性を定め、取組みを進めていく上で非常に重要なステップである。企業が世界の森林減少を、自社の関わる重要な問題と認識し、持続可能な社会の実現に向けて、一歩踏み込んだ行動を推進することが重要である。

  1. *1
    大・中規模事業者には2025年12月30日に、小規模・零細事業者には2026年6月30日に適用される。事業者の規模はDirective 2013/34/EU の第3条で定義される。

参考文献

  1. [1]
    FAO. 2020. Global Forest Resources Assessment 2020: Main report. Rome.
    https://doi.org/10.4060/ca9825en
  2. [2]
    United Nations Environment Programme & INTERPOL. 2016. The Rise of Environmental Crime: A growing threat to natural resources, peace, development and security. Nairobi: UNEP.
    https://doi.org/10.18356/cdadb0eb-en
  3. [3]
    大和ハウスグループ「サステナビリティレポート2024」
    https://www.daiwahouse.co.jp/sustainable/csr/pdfs/2024/Sustainability_All.pdf(PDF/26,906KB)

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