【2025年最新】欧州PPWRとは?化学物質管理との関連性をわかりやすく解説

2025年9月22日

サステナビリティコンサルティング第2部

関 理貴

*本稿は、『plaplat®』2025年7年31日(発行:長瀬産業㈱)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

2025年2月11日に欧州包装および包装廃棄物規則(以下、「PPWR」という。)*1が発効しました。

欧州において包装廃棄物が増加していることや、包装のリサイクルが不十分であることを背景に、2021年2月10日に採択された「新たな循環型経済行動計画」*2において、2030年までにすべての包装を「経済的に実行可能な方法で、再利用またはリサイクル可能にする」という目標が表明されました。これに伴い、既存法令の包装廃棄物指令*3の見直しがなされました。

PPWRでは、包装の持続可能性要件や表示要件が定められ、除外規定の対象を除くすべての包装は、これらの要件に適合することが求められます。

本稿では、持続可能性要件の中でも「化学物質管理」が関連する以下の3つの要求事項について解説します。

(1)有害物質の含有規定
(2)リサイクルプラスチックの含有割合
(3)堆肥化可能な包装

(1)有害物質の含有規定

包装における化学物質の要件(第5条)では、従来の包装廃棄物指令で規制されていた鉛、カドミウム、水銀および六価クロムに加えて、食品接触材料に対するPFASの規制が新たに導入されました。これらの物質は、表1に示す濃度以下に抑えることが求められます。

表1 有害物質の含有規定

表1

(出所)PPWRをもとに、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成

PFASについては、発がん性、変異原性、生殖毒性および特定標的臓器毒性といった有害性項目のうち、多くのPFASは少なくとも1つの有害性がある点や、食品接触材料中のPFASは必然的にヒトの曝露につながる点が指摘されています。これを踏まえ、食品接触材料由来のPFASによるヒトへの暴露は許容できないリスクであるとして、PPWRでは対象物質に追加されました。

また、ビスフェノールAについても、食品接触材料から食品や飲料に移行し、消費者が低濃度であっても摂取することによる健康リスクが指摘されています。そのため、2024年末に改正された食品接触材料規則に基づく委任法*4において、食品接触材料へのビスフェノールAを含むビスフェノール類の使用が禁止されることになりました。

(2)リサイクルプラスチックの含有割合

プラスチック包装におけるリサイクル最低含有量(第7条)では、市場に投入されるプラスチック包装に対して、リサイクル材の最低含有量が規定されました。リサイクル材の最低含有量は、製品ごとに異なり、2030年と2040年に段階的に引き上げられます。製品別のリサイクル材の最低含有量は表2に示します。

表2 製品別のリサイクル材の最低含有量

表2

(出所)PPWRをもとに、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成

なお、使い捨て飲料ボトルに関しては、2019年に発効したSingle-Use Plastics指令(SUP指令)*5において、以下の規定が先行して示されています。

■2025年からPET飲料ボトルにリサイクル材を25%使用すること
■2030年からはすべてのプラスチック飲料ボトルに30%使用すること

(3)-1 堆肥化可能な包装

堆肥化可能な包装(第9条)では、一部の包装について堆肥化可能な生分解性プラスチックを用いることを要求しています。

具体的には、製品の残留物などと一緒に廃棄され生物処理系の廃棄物処理システムに流入することを踏まえ、紅茶・コーヒーなどのティーバッグやシングルサーブ製品、果物や野菜に貼付されるラベルは、2028年2月12日までに堆肥化の基準に適合する必要があります。

加盟国によっては、生ごみなどと一緒に収集し処理することを認めており、当該包装が生ごみなどの廃棄物処理システムで確実に処理できる場合には、以下の包装も生分解性プラスチックを利用することができます。

■機械使用を意図した紅茶やコーヒーなどのシングルサーブ製品
■極めて軽量または軽量のプラスチック製買物袋
■製品に不可欠な部分ではないが、製品と一緒に使用、消費、廃棄されることが意図されていない包装で、加盟国が本規則適用日前に既に堆肥化可能であることを要求しているもの

なお、上記以外の包装については、リサイクルプロセスに影響のないリサイクル可能な設計が求められます。非生分解性プラスチックが既存のリサイクルプロセスに混入した場合、リサイクルの品質劣化や工程阻害要因となる可能性が指摘されています。

既存のリサイクルプロセスでは生分解性プラスチックのリサイクルは技術的・経済的に困難な点があるため、実質的に上記以外の包装については生分解性プラスチックを利用しても、持続可能性要件には合致しないという建付けになっています。

(3)-2 堆肥化可能な包装に関する技術要件

欧州規格EN 13432*6が策定されており、堆肥化可能および生分解性包装について以下の基準を定めています。

■崩壊性:試験規模の堆肥化条件で12週間経過後、2mmを超える破片が10%未満であること
■好気性生分解性:6ヶ月以内に生分解し、対照材料(通常はセルロース)と比較して少なくとも90%の二酸化炭素を生成すること
■嫌気性生分解性:2ヶ月以内に少なくとも50%が生分解すること(第二段階として好気性生分解段階があることを前提としている基準)
■堆肥化プロセスに悪影響がないこと

他方で、欧州委員会の調査*7では、EN 13432には堆肥化プロセス自体の規格がなく、実際の堆肥化施設などでは上記の基準での試験条件が再現されていない点に課題があることを指摘しています。そのため、廃棄物処理施設で適切に堆肥化されるように、今後、欧州標準化委員会において新たな規格の作成や既存の規格の更新が実施されることになっています。

さらには、規格の策定に際しては、堆肥化の際に生分解性プラスチックが二酸化炭素、水素、メタン、水などに変換されることを求めています。生分解性の材料については分解処理の過程で、ヒトや環境への影響が懸念される物質やマイクロプラスチック、生分解処理プロセスを阻害する物質が生成される恐れもあるため、包装材は完全分解(完全に無機化すること)することが重要です。

持続可能性要件と化学物質管理との関連性

本稿で言及したPPWRの持続可能性要件に対応するためには、化学物質管理のさらなる高度化が求められます。

例えば、第5条に規定された化学物質の要件に適合しつつリサイクルプラスチックを活用するためには、使用するリサイクルプラスチック中に含まれる化学物質を管理する必要があります。

しかし、すべてを分析し、含有化学物質を確認することは現実的ではありません。

そのため、リサイクル段階まで含めたサプライチェーン全体の情報伝達により、含有化学物質を把握することが求められます。

他方で、従来の化学物質の情報伝達は動脈産業を中心とした仕組みでした。リサイクル段階を含めた動脈産業から静脈産業への情報伝達の仕組みの構築は、第7条で要求されるリサイクルプラスチック使用率の向上に向けた重要な課題の一つであると考えられます。

また、第9条で示された堆肥化可能な生分解性プラスチックについても、分解生成物やマイクロプラスチックが、ヒトや環境に悪影響を与えないように管理する必要があります。加えて、新たな化学物質管理の観点から、生分解性プラスチックそのものや分解生成物が、リサイクルプロセスやリサイクル材の品質に与える影響についても注意が必要です。

PPWRの要求事項は、早いもので2026年8月12日から適用されます。多くの要求事項の詳細については、今後委任法などにより策定され順次適用されることになります。各要件の策定状況に注視しつつ、従来の化学物質管理では対応が難しい要求事項については、早期に対応策の検討を開始することが求められます。

参考文献

  1. *1
    EU(2024)Regulation(EU)2025/40 of the European Parliament and of the Council of 19 December 2024 on packaging and packaging waste, amending Regulation(EU)2019/1020 and Directive(EU)2019/904, and repealing Directive 94/62/EC(Text)with EEA relevance)
    http://data.europa.eu/eli/reg/2025/40/oj
  2. *2
  3. *3
    EU(1994)European Parliament and Council Directive 94/62/EC of 20 December 1994 on packaging and packaging waste
    https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/1994/62/oj/eng
  4. *4
    EU(2011)Commission Regulation(EU)No 10/2011 of 14 January 2011 on plastic materials and articles intended to come into contact with food Text with EEA relevance
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2011/10/oj
  5. *5
    EU(2019)Directive(EU)2019/904 of the European Parliament and of the Council of 5 June 2019 on the reduction of the impact of certain plastic products on the environment(Text)with EEA relevance)
  6. *6
    CEN(2000)EN 13432:2000, Packaging - Requirements for packaging recoverable through composting and biodegradation - Test scheme and evaluation criteria for the final acceptance of packaging
  7. *7
    EC(2020)Report on the effectiveness of the essential requirements for packaging and packaging waste and proposals for reinforcement
    https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/05a3dace-8378-11ea-bf12-01aa75ed71a1

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