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自動運転の現在地と実用化への道のりにおける課題

2019年11月19日 経営・ITコンサルティング部 西村 和真

自動車業界では、ITやデジタル技術等の進展により、CASEと呼ばれる100年に1度の大変革が起きている。CASEとは、自動車業界を巡る変革の潮流である、つながる(Connectivity)・自動化(Autonomous)・利活用(Shared & Service)・電動化(Electric)の頭文字を並べたキーワードである。2019年11月4日まで、東京モーターショー2019が開催されたが、その変革の兆しを反映するかのように、自動車メーカー各社では新しい車種等の発表だけでなく、将来の新たな自動車のあり方を世に問う展示も多く見られた。

ここでは、CASEのうち、「A(自動運転)」に着目し、その現在地と、実用化・活用を進めるうえでの課題について考察する。

自動運転による新たなモビリティの可能性

自動運転にはさまざまなレベルや種類があるが、その中でもレベル4以上の自動運転は自動車のあり方を変える可能性を秘めている。その1つは、システムが操縦を行い、ドライバー(運転する人)が車内にいない移動形態にある。すでに新交通システムのように、案内軌条やモノレール等の人が進入できないような限定された空間では、車両内に運転士がいない移動形態は実現しているものもあるが、それを通常の自動車が走行する一般道路または高速道路(駐車場や歩道なども含まれる場合もある)等で実現しようとするものが、レベル4以上の自動運転である。

基本的にシステムが操縦を行うようなレベル4以上の自動運転車の場合、従来、人が運転・操縦を行うために設置されるドライバー席が不要となる可能性があり、ドライバー席・助手席・後部座席といった構造に拠らない座席配置も可能となると考えられている。たとえば、対面の座席の配置や、さまざまな情報提供を行うモニターの設置等が可能になり、移動空間としての車内の使い方が変わる可能性がある。このような自動運転車(無人運転バス)には、仏NAVYA社のNAVYA ARMAや、仏Easymile社のEZ10など、先行して開発が進められているものがあり、我が国においても道路運送車両の保安基準における特例措置および道路交通法における道路使用許可を得たうえで、公道における実証実験が行われ始めている*1。東京モーターショー2019では、国内の自動車メーカーにおいても同様のコンセプトの車両の展示が行われていた。たとえば、トヨタ自動車のe-Palette、ダイハツ工業のIcoIco、スズキのHANARE等である。

これらの車両が実現すれば、自動車を単なる移動手段の1つとして捉えるのではなく、移動する空間として位置付け、移動中に医療や観光などのさまざまなサービスを提供することもできるようになる。また、人の移動手段としてだけでなく、同時にモノを運び、かつ販売する場として、移動コンビニのような活用も期待されている。このように自動運転の実現は、自動車そのもののあり方を変えようとしており、その実現に向けて着々と歩みが進められている。

現状の自動運転の活用には無視できない利用可能範囲(ODD)

しかし、現時点および近い将来においてはまだ完全な自動運転は難しく、部分的もしくは限定的な利用に留まるのが実態である。いつでもどこでも自動で走行できるような完全な自動運転の実現には、センサーフュージョン等により周辺環境の認識の精度を非常に高いレベルにまで引き上げたうえで、認識した周辺環境を踏まえた適切な判断を行えるようにするために、コンマ何秒の間にアクションまで連携するAI技術の進化など、認知・判断・行動のためのより一層高度な技術開発が求められている。

ただし、技術開発を進めるのも簡単ではない。たとえば、周辺環境といっても単純なものではなく、歩行者や自転車などの周囲の道路ユーザーの存在や、標識や信号、トンネル、橋梁、料金所等の交通インフラ、時々刻々に変化する渋滞、通行止め、事故、工事等の交通環境、車線数や車線のかすれ、踏切、歩道・車道の配置等の道路環境、雨や雪、風、時間帯、日光の状況等の外部環境など、挙げるだけでもキリがない程のさまざまな要素があり、この複雑性が難点なのである。

そのため現状、完全ではない(限定的な)自動運転のレベルにおいては、車両の性能や走行するインフラ等の状況に応じて、システムが安全に操縦を行うことが可能な周辺環境や、走行速度等の条件を設定し、その条件を念頭に入れながらシステム設計や開発を行うこととなる。このような条件に基づく自動運転の利用可能範囲を「運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)」と呼ぶ。自動運転はODDの範囲内での利用となり、ODDを外れるような状況になった場合には利用できない/してはいけない。したがって、自動運転を技術的に実現するだけでなく、移動サービスとして利用するなどの実用化に向けては、ODDが重要となる。

自動運転移動サービスを行う事業者(既存のバス・タクシー事業者等の旅客自動車運送事業者や自治体など)の視点では、現時点で一足飛びに完全な自動運転を活用することは難しく、まずはいくつかの留意点を踏まえつつ、完全ではない(限定的な)自動運転を活用していくことになる。すなわち、ODDを踏まえた対応が必要になる。

たとえば、急な豪雨などの環境変化によってODDを外れた場合、車内にドライバーがいない車両を想定すると、その場で停止するなどの措置によって安全性を確保したうえで、その場での調整や、継続して利用できない場合は目的地まで別の手段で移動を行うなどが必要になる。その他にも、自動運転車を用いて旅客運送を行う場合において、安全性および利便性を確保するために対応すべき事項については、国土交通省からガイドライン*2が発行されている。自動運転移動サービスを行う事業者は、これまでの移動サービスとしての運用体制だけでなく、導入する自動運転のODDを理解し、そのODDを踏まえて人が対応すべき役割を明確化することも必要になる。

自動運転の活用促進に重要なODDの正しい理解とニーズの発信

上述のように、自動運転移動サービスを行う事業者が現在の(限定的な)自動運転技術を活用するには、自動運転およびODDに対する正しい理解と、現状の技術を踏まえてより安全に運用できるような対策・対処法の検討が必要である。一方、現時点の自動運転にはODDがあるため、他地域で実現した自動運転を導入しようとしても、地域や場所等によって道路環境や交通環境などのさまざまな状況が異なり、必ずしもそのまま活用できるとは限らない。

自動運転の活用可能範囲を広げるには、自動運転技術の開発が必要不可欠なことはいうまでもないが、技術開発を待つだけでは、自動運転を活用したいと思ってもなかなか導入できずに取り残されてしまう可能性もある。ODDは技術レベルによってその領域・範囲が決まるものでもあるが、一方でその技術開発の方向性を決めるうえでは、自動運転移動サービスを行う事業者からのニーズが一つの重要な検討材料になるといえる。そのため、現時点の自動運転のODDを理解したうえで、ODDに含まれない可能性のある環境がある場合は、それらをニーズとして自動運転を開発する自動車メーカーなどの企業に発信し、コミュニケーションしていくことも重要であろう。

自動運転は、現状の実証実験としての活用方法のみならず、人間による運転と同程度、もしくはそれ以上の移動を実現するポテンシャルを持つ技術である。そのため、現状の活用方法を前提にその活用範囲を考えるだけではなく、現状の技術を正しく理解したうえで、利用したい範囲を積極的に提示し技術開発を促すことにより、さらにさまざまな活用が可能となるようにすることも期待される。

  1. *1道路運送車両の保安基準等の一部を改正する省令等について(国土交通省)
    (PDF/117KB)
    自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準の改訂について(警察庁)
    (PDF/282KB)
  2. *2限定地域での無人自動運転移動サービスにおいて旅客自動車運送事業者が安全性・利便性を確保するためのガイドライン(国土交通省)
    (PDF/412KB)

西村 和真(にしむら かずま)
みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 チーフコンサルタント

自動運転や無人航空機(ドローン)、AR・VR・MR等のデジタル・モビリティ領域に関する調査研究・コンサルティング、実証実験に携わる。デジタル技術の社会実装に向けた政策立案支援やデジタル技術を活用したビジネスの創出・事業化支援を担当。

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