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社会保障で重要性が増す「住まい政策」

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2023年3月25日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦

昨年末に発表された全世代型社会保障構築会議の報告書は、社会保障に関する課題解決の道筋を示した重要文書だ。

同会議は、約1年半前に内閣官房に設置された。高齢人口がピークとなる2040年ごろまでを視野に入れ、歯止めのかからない少子化や、25年までに「団塊の世代」が全員75歳以上になることから生じる当面の課題を主に議論した。

ちなみに、これまでの傾向が続いた場合の「40年の姿」を見ると、20年から40年までに0~14歳人口は309万人減少(21%減)する一方で、75歳以上人口は379万人増加(20%増)する。さらに、65歳以上の単身高齢者は、225万人の増加(33%増)になると、国の機関は推計している。

こうした人口動態の変化などを踏まえて、①少子化・人口減少の流れを変えること、②超高齢社会に備えること、③地域の支え合いを強めることを、目指すべき社会の方向とする。その実現のために、こども・子育て支援の充実、働き方に中立的な社会保障制度などの構築、医療・介護制度の改革、地域共生社会の実現を挙げている。

筆者が注目したのは、「地域共生社会の実現」の中に示された「住まい政策を社会保障の重要な課題として位置づける」という点だ。これまで日本の住宅政策は「持ち家政策」が中心であり、住宅は市場原理の中で獲得する対象とされて、社会保障の枠組みにはほとんど組み込まれてこなかった。

この点、多くの先進国では、低所得者向けの住宅政策として、公的家賃補助制度と公的賃貸住宅がある。しかし日本では、公的家賃補助はない。また、日本の住宅ストック数に占める公的賃貸住宅の比率は5%(18年)であり、フランスの24%(20年)、英国の17%(20年)と比べて極めて低い水準だ。

その結果、低所得者は民間賃貸住宅に向かうが、低所得者、単身高齢者、子育て世帯などは、家賃滞納、孤独死、近隣とのトラブルのリスクがあるとして、大家から入居を拒まれる傾向がある。これらの「住宅確保要配慮者」に対し、公的支援は乏しい状況にある。

報告書は、低所得者などの住まいの確保に向けた環境整備を求めている。また、要配慮者は複合的課題を抱える場合が多いとして、地域とつながる居住環境や見守り・相談支援を重視する。

見守りなどの支援は、家賃滞納や孤独死などのリスクを引き下げる効果もある。空き家を抱える大家の安心感を高め、要配慮者へ借家供給を増やす可能性があろう。

報告書では踏み込まれていないが、筆者は、住まい政策として、恒久的な家賃補助制度の導入を検討すべきだと考える。住まいは生活の基盤であり、住居さえあれば何とかやりくりして生活できる人は少なくない。また、住まいの確保が難しいために結婚を諦める若者もいる。家賃補助は、こうした状況を変えるだろう。

そして世帯を形成する若者が増えれば、少子化の流れが変わり、消費も増える。報告書が指摘する「成長と分配の好循環」の実現に寄与するだろう。住まい政策は、人々の生活基盤を安定にし、経済成長にも資するものである。

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