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社会動向レポート

小売電気事業者に求められる対応戦略とは

エネルギー供給構造高度化法(1/3)

環境エネルギー第2部 チーフコンサルタント 中村 悠一郎

本稿では、再生可能エネルギー由来の電力等の非化石電源の拡大を目指すエネルギー供給構造高度化法と、これに基づき2020年度から開始された中間評価について、概要を整理する。本法律の対象となる小売電気事業者においては、中間評価とその先にある最終的な目標の達成に向けた対応戦略の策定が求められる。

1. エネルギー供給構造高度化法と中間評価

(1)エネルギー供給構造高度化法

エネルギー供給構造高度化法(以下、「高度化法」)とは、国内でエネルギーを供給する事業者(電気事業者、ガス事業者等)に対して、「非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用」を促す法律のことである。電気事業者に焦点を当てた場合、高度化法に基づく判断基準(非化石エネルギー源の利用に関する電気事業者の判断基準(平成29年経済産業省告示第130号))では、日本国内の各電気事業者に対して、各社が供給する電力量に占める非化石電源に由来する電力量の比率(以下、「非化石電源比率」)を、2030年度に44%以上とすることを目標として定めている。非化石電源とは、原子力、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)等の化石電源以外の電源をさす。

44%という値は、日本政府が掲げる「2030年度温室効果ガス排出量を2013年度比26%削減」するという目標の達成に向けて、2030年度時点で想定されている電源構成(原子力:20~22%、再エネ:24~22%)に由来する。資源エネルギー庁によれば、2018年度の日本全体の非化石電源比率は23%であり、原子力:6%、再エネ:17%であった。2030年度の目標値と比較すると、原子力は14~16ポイント、再エネは5~7ポイント程度不足している。

(2)非化石価値取引市場の創設

2030年度44%以上の目標達成に向けて、電力市場に供給された非化石電源に由来する電力(以下、「非化石電力」)を、全ての小売電気事業者が公平に調達できるよう、資源エネルギー庁では非化石価値取引市場を創設した。これは、非化石電力が有する非化石価値(排出係数ゼロの価値等)を電力から切り離し、非化石証書という商品として別個に取引することを可能とする仕組みである。これにより、自社で非化石電源を保有しない小売電気事業者においても、非化石証書を購入することで非化石電源比率の向上を図ることが可能となる。

このように、電力と非化石価値を分離して個別の市場で取引可能とすることで、小売電気事業者における非化石価値の調達環境・アクセシビリティの改善を図るのが非化石価値取引市場の目的である。高度化法の目標達成のために小売電気事業者が非化石価値(非化石証書)を必要とすれば、自ずと非化石電源の導入拡大にもつながると考えられ、このことを通じて日本全体の非化石電源比率の向上を図る仕組みである。なお、2018年度の高度化法報告に基づけば、2030年度の高度化法目標の達成手段として、多くの小売電気事業者が非化石証書の購入を挙げており、非化石価値取引市場という仕組みの重要性・必要性がうかがい知れる。

(3)中間評価の導入

「2030年度44%以上」という高度化法目標の確実な達成に向けて、資源エネルギー庁では、各社の目標達成状況と取組状況を定期的に把握する、中間評価の仕組みを導入した。これは、2020年度から2022年度を第一フェーズとして、年間の販売電力量が5億kWh を超える小売電気事業者に対して、達成すべき非化石電源比率の目標値(以下、「中間目標」)を課す仕組みである。具体的には、図表1の57社(59事業者)が第一フェーズにおける中間評価の対象と推察される。これらの事業者だけでも、国内の販売電力量の95%以上を占めることから、国内で取引されている電力のほぼ全てが中間評価の対象となる。

各社に課される目標値の考え方は、資源エネルギー庁が公表している資料において整理されている。詳細は割愛するが、2018年度の自社の非化石電源比率が、全国平均の非化石電源比率より高い事業者の2020年度の目標値は23.2%と設定された。そうではない事業者においては、2018年度の各社の非化石電源比率と大きく異ならない目標値が設定された。

なお、非化石電源を保有している小売電気事業者においては、所定のルールに基づき、当該電源から調達できる量(内部調達可能な量)に上限が設定される。この結果、非化石電源の保有量の多寡に依らず、全ての事業者が自社の販売電力量に対して等しい比率で外部から非化石価値を調達(外部調達)することとなる。上限を超過して保有する非化石価値については、非化石証書として市場等へ供出することが可能である。


図表1 第一フェーズ中間評価対象と推察される事業者
図表1

  1. 注:最終的な中間評価の対象事業者は公表されておらず、図表1が対象事業者と一致するとは限らない。
  2. (資料)各種公開情報に基づきみずほ情報総研が作成
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