[連載]2040年の社会を、ともに語る。ともに創る。 第4回(ヘルスケア編)医療と介護を連続的にとらえる2040年の未来に向けたビッグデータの活用

2024年2月2日

社会政策コンサルティング部 医療・福祉政策チーム

近藤 拓弥

人口減少、少子高齢化が加速する我が国、日本。社会・経済の活力を維持・発展させ、安心して暮らせる社会基盤づくりをどのように進めていくべきか、課題解決に向けた取組みが各方面で進んでいます。

社会政策コンサルティング部では、個人の幸福な生活とサステナブルな社会・経済の実現に向け、さまざまな角度から議論を重ねています。

今回はそのなかでも「DEI*」「ヘルスケア」をメインテーマに、2040年を見据えた議論を連載コラムとして皆さんにお伝えしていきます。これまで3回は「DEI」編。このたびの第4回から「ヘルスケア」編をお届けします。

2040年の社会を、ともに語り、ともに創っていきましょう。

  1. *
    DEI (ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン):
    あらゆる多様性を尊重し、機会の公平性を確保し、多様な視点や価値観を積極的に取り入れるという概念
  1. 第4回(ヘルスケア編)医療と介護を連続的にとらえる2040年の未来に向けたビッグデータの活用

医療・介護分野における2040年の課題

日本社会の未来に起こり得る課題には、確実に起こる急激な総人口の減少、高齢者人口の増加が大きな影響を与える。

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」*1として公表された出生中位(死亡中位)推計によると、総人口は2020年の1億2615万人から2040年には1億1284万人と、約10%減少、さらに2056年には1億人を切ることが推計されている。

年齢構成から人口の推移をみると、生産年齢人口(15歳~64歳)は、2020年の7509万人から2040年には6213万人へと約17%減少する一方で、高齢者人口(65歳以上)は、2020年の3603万人から2040年の3929万人へと約9%増加する。なお、高齢者人口のピークは2043年であり、3953万人となる見込みである。

医療・介護分野において、確実に起こる課題としては、提供体制の側面では「生産年齢人口の減少により医療や介護サービスの担い手・人材不足に陥ること」、ケアニーズの側面では「高齢者人口の増加により医療と介護の複合的なニーズを有する患者、要介護者が激増すること*2(例えば、認知症患者の増加に対応したケアニーズが増大する)」、保険財政の側面では「高齢者人口の増加により需要が激増する一方で、保険料を負担する人口の減少により財政基盤が不安定化すること」が指摘できる。

本稿では、特に「高齢者人口の増加により医療と介護の複合的なニーズを有する患者、要介護者が激増すること」という課題に着目し、ビッグデータの活用の観点から、より効率的な医療・介護サービスの在り方について検討してみたい。

ビッグデータの活用の観点から課題を考える

筆者は、これまで、厚生労働省が保有する匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)*3等を用いたビッグデータ分析に従事してきた*4

医療・介護分野におけるビッグデータとしては、厚生労働省が保有する各種データベースがある。例としては、医療や健診に係る情報を収集しているNDB、介護に係る情報を収集している介護DB、入院患者に係る情報を収集しているDPCDBなどが挙げられる。本稿では、代表的なDBとして、NDBと介護DBを取り上げ、ビッグデータ活用の観点から、上記の課題について考えてみたい。

NDBについて

NDBでは、以下の表の通り、2つの情報が収集されている。

データの種類 概要 具体例
レセプト*5データ 医療サービスの提供に係る情報 検査内容・検査費用
処置内容・処置費用
処方内容・薬剤費
特定健診・保健指導データ 特定健診*6の検査結果や特定保健指導*7の実施状況に係る情報
※特定健診・保健指導は40~74歳が対象
体重
血圧
コレステロール値

NDBの特徴の1つは、日本全国の患者等の情報が、ほぼ例外なく収集されていることである。レセプトデータについては全年齢層の情報が、特定健診・保健指導データは40~74歳の情報が収集されており、医療や健康に関する日本全国の実態を把握する上で極めて有用である。

また、特徴のもう1つは、長期間にわたり情報が収集されていることである。収集年数が10年を超えており(レセプトデータは2009年度分、特定健診・保健指導データは2008年度分から収集されている)、長期間にわたり経年的に追跡することができることもNDBの強みといえる。

NDBの分析への活用事例としては、特定保健指導の効果検証や歯科医療提供体制の分析等がある。詳細については、筆者の過去のコラム*8で紹介しているので、そちらをご参照いただきたい。

介護DBについて

介護DBでは、以下の表の通り、大きく2つの情報が収集されている*9

データの種類 概要 具体例
介護レセプトデータ 介護サービスの提供に係る情報 利用したサービスの種類
利用回数
要介護認定データ 市区町村が要介護認定に用いた調査結果に係る情報 身体機能・生活機能・認知機能等の状態を表す基本調査74項目*10の評価結果
要介護認定の結果

介護DBについても、日本全国の要介護者の情報がほぼ例外なく収集されており、介護に関する日本全国の実態を把握する上で極めて有用である。

また、介護DBについても長期間にわたり情報が収集されている。収集年数が10年を超えており(要介護認定データは2009年度分、介護レセプトデータは2012年度分から収集されている)、長期間にわたり経年的に追跡することが可能となっている。

医療と介護の複合的なニーズをとらえる

NDBと介護DBは元々独立して運用されていたが、厚生労働省において両者を連結して解析できる環境づくりが進められ、2020年10月より、連結データの分析が可能な状態になっている。

これにより、ビッグデータを活用した分析の推進が考えられる例として、2つ挙げる。

1つは、医療と介護のサービスのより適切な組合せの探索である。例えば、要介護状態になった原因疾患別に、その人が受けている医療・介護サービスの組合せの実態を把握することで、サービス提供者は今後どういったサービスの需要があるのかといった予測ができる。また、患者・利用者は各人が最適な医療・介護サービスを選択する上での参考情報を得られる。

もう1つは、各DBの経年性を活かした、予防への活用である。例えば、ある要介護状態の人が、過去に抱えていた疾患や健診の検査結果などを探ることで、現在その状態にある人の予後が予測でき、予防行動をとるためのインセンティブにつながる。

上記により、医療と介護の複合的なニーズをもった要介護高齢者が適切な医学的管理を受けることができる、より自身に適した医療・介護サービスを受けることができる、疾患の重症化予防や介護予防につながる、といった未来が描ける。これは、2040年の未来の課題の1つである「高齢者人口の増加により医療と介護の複合的なニーズを有する患者、要介護者が激増すること」への対応に貢献できるのではないだろうか。

さらには、効率的な医療・介護サービスの提供にも寄与することから、もう1つの課題である「医療や介護サービスの担い手・人材不足に陥ること」への対応にも貢献できるであろう。

ビッグデータ活用のさらなる推進に向けて

ここまで述べてきたとおり、NDBや介護DBは2040年の未来にむけて活用が期待される価値あるデータベースである。一方で課題もあり、例えば疾患の重症度など患者・利用者の状態像の変化がみえにくいといった点が挙げられる。

医療については、DPCDBという入院患者の状態像の情報を含むデータベースとNDBの連結データの分析が2022年4月より可能な状態になっており、介護についてもLIFE情報という利用者の状態像をより詳細に示した情報の収集が2021年度より開始され介護DBへのデータの蓄積が進んでいる。

これらのデータを活用すると、医療・介護サービスの提供による患者・利用者の状態像の経時的な変化が把握できるようになり、各サービスの効果検証や医薬品等の製品開発・戦略立案につながるなど、さらに詳細な分析が可能になる。

また、今後、NDB・介護DBに限らず、こういったビッグデータを活用した分析が、さらに進んでいくことが期待される。

例えば、自社のサービス、製品が目指す効果をビッグデータから予測し、製品開発の戦略立案、さらに、消費者が商品選択の資料として活用できるような市場環境づくりに展開できると考える。

筆者もこれらのエビデンスが提供できるよう、貢献していきたい。

  1. *1
    国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」表1-1出生中位(死亡中位) (PDF/1,379KB)
  2. *2
    令和4年版厚生労働白書において、要介護認定率は年齢が上がるにつれて上昇することが示されている。また、令和2年患者調査において、医療機関の受療率も年齢が上がるにつれて上昇することが示されている。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/21/backdata/01-02-01-04.html
    (PDF/423KB)
  3. *3
  4. *4
  5. *5
    レセプトとは医療機関が医療保険者へ発行する「診療報酬明細書」のことである。医療機関が、実施した医療行為に対して医療費の支払いを医療保険者に求めるために発行する。
  6. *6
    特定健診とは「生活習慣病の予防のために、対象者(40歳~74歳)の方に行うメタボリックシンドロームに着目した健診」のことである。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.html
  7. *7
    特定保健指導とは「生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防効果が多く期待できる方に対して、専門スタッフ(保健師、管理栄養士など)が行う生活習慣を見直すサポート」のことである。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.html
  8. *8
  9. *9
    介護DBにはここで取り上げた他に、LIFE情報や受給者台帳情報等が収集されている。
  10. *10
    要介護認定を申請した方の心身の状態像に関わる情報。詳細な項目については、要介護認定認定調査員テキストをご参照されたい。 (PDF/3,637KB)

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