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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.38

ポートフォリオの分散効果について(1/2)

2022年3月
みずほリサーチ&テクノロジーズ マーケッツデジタルテクノロジー部 太田 晴康

1.はじめに

資産運用では、単一資産への投資に比べ、複数資産を適切に組み合わせた投資のほうが、同じリターンを小さなリスクで得られるとされ、その効果はポートフォリオの分散効果と呼ばれている。ここでのリスクについては、一般的な指標としてリターンの標準偏差が使われ、複数資産間の相関係数が小さいほどリターンの変動が打ち消しあい、ポートフォリオのリターンの標準偏差は小さくなる。反対に相関係数が1に近い場合は、資産数を増やしてもその減少割合は小さい。

では、標準偏差以外のリスク指標でも、同様の減少傾向が見られるだろうか。相関係数が同じであれば、減少割合も同じだろうか。本稿では、別のリスク指標として、ヒストリカル法で求めたバリューアットリスク(以下、ヒストリカルVaR)、最大ドローダウンを取り上げ、これらの減少傾向を比較する。本稿では、いずれのリスク指標についても、資産数が増加したときの減少を分散効果と呼ぶ。

本稿の構成は以下のとおり。最初に、等ウェイトボートフォリオで各資産のリターンの標準偏差を一定として、相関係数を変えながら、構成する資産数と標準偏差の関係を確認する。その後、実際の株価データを使って、リターンの標準偏差、ヒストリカルVaR、最大ドローダウンの実績値を求め、これらの関係を比較する。最後に、確率的なモデルを使ってこれらの実績値を検証する。

2.ポートフォリオのリターンの標準偏差

ポートフォリオのリターンの標準偏差は、そのポートフォリオを構成する各資産のリターンの標準偏差や相関係数から計算できる。例えば、すべての資産の期待リターンが等しく、リターンの標準偏差をσ、異なる資産間のリターンの相関係数をすべてρとしたとき、資産数nの等ウェイトポートフォリオのリターンの標準偏差σp

式

で得られる。ポートフォリオの期待リターンは資産数nによらず一定である。

(1)式を用いて、資産間のリターンの相関係数が一律1、0.75、0.5、0.25、0のときに、資産数を変えながらポートフォリオの標準偏差を計算したのが図1である。資産数1のときを1に規格化した。標準偏差が小さいほどリスクが小さいと考えられる。


図1 等ウェイトポートフォリオのリターンの標準偏差
図1


リターンの相関係数が1未満のときは、資産数が増加するとポートフォリオのリターンの標準偏差が単調に減少し、分散効果が表れたと考える。資産数が大きくなるほど減少割合は小さくなり、分散効果はうすれる。特に相関係数0のとき、標準偏差はルートn分の1で減少する。

では、各資産でリターンの標準偏差や相関係数が異なる場合はどうか。本稿では、あらかじめ決めた資産全体について、ある資産数のすべての組合せの平均*1を使う。また、この方法で求めた、ポートフォリオのリターンの平均は資産数によらず一定となる。ポートフォリオの標準偏差は、一般的に資産数が増加するとリターンの標準偏差が減少し、平均的に分散効果が表れていると考えられる。

これを、日経500種平均株価の日経業種中分類(36種)の銘柄数の多い10業種で示したのが図2である*2。2020年と2021年の日次データから標準偏差を計算した。


図2 標準偏差(右は資産数1を100%に規格化)
図2

(出所)日経500種平均株価(業種別日経平均株価)(https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/index?type=download)に基づき、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成


いずれの年も資産数が増加すると標準偏差が減少する。減少割合は、図1同様、各資産間のリターンの相関係数に依存する。2020年は資産間のリターンの相関が比較的高かったため、分散効果が小さい。

3.ヒストリカルVaRについて

では、ヒストリカルVaRをリスク指標としたとき、同じ株価データで分散効果は得られるだろうか。

VaRはリスク指標の1つで、一定の確率で発生しうる最大損失額のことである。本稿では、ヒストリカルVaRの計算方法を用い、日次リターンそのもののパーセンタイルの符号を反転させた値をヒストリカルVaRとする。正規分布を仮定せず、実際の日次リターンデータを使う。図3参照。


図3 信頼水準99%のヒストリカルVaR
図3


平均0の正規分布では、ある確率のパーセンタイルは正規分布の標準偏差に比例する。実際のリターンの分布が正規分布と異なる場合でも、ポートフォリオのリターンの標準偏差(図2の資産数2以上)が各資産のリターンの標準偏差(図2の資産数1)より小さいことから、ヒストリカルVaRについても分散効果を期待するがどうだろうか。

先ほどと同様の方法で、総当たりの組合せの回数だけ等ウェイトポートフォリオの信頼水準99%のヒストリカルVaRを計算し、平均したのが図4である。


図4  信頼水準99%のヒストリカルVaR(右は資産数1を100%に規格化)
図4

(出所)日経500種平均株価(業種別日経平均株価)(https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/index?type=download)に基づき、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成


図2と図4の右側のグラフを比較すると、ヒストリカルVaRの分散効果は、2021年で標準偏差と同程度だが、2020年は資産数10のポートフォリオでも減少割合は5%以下で、分散効果は小さい。

また、正規分布との比較のため、ヒストリカルVaRから平均を引き、その標準偏差で割った値(以下、平均標準偏差調整後VaR)について同様の平均を求めたのが図5である。


図5 平均標準偏差調整後99%VaR
図5

(出所)日経500種平均株価(業種別日経平均株価)(https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/index?type=download)に基づき、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成


すべての業種の日次リターンの分布が正規分布に従えば、図5の資産数1の値は平均的に2.33程度*3になると思われる。図5の資産数1の値から、分布の左側の裾について、2021年は正規分布に近く、2020年は厚い分布と考えられる*4。また、2020年のグラフの増加傾向は、株価が大きく下落したときに相関が高まったことが原因であり、リターンの標準偏差よりも分散効果が小さいことを表している。

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
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