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社会動向レポート

「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」から読む国民のメディア利用(3/4)

社会政策コンサルティング部 仁科 幸一

5.ニュースとインターネット(続き)

(2)メディアへの信頼度:新聞・テレビへの信頼は確固だが…

前項ではテキスト系メディアの利用に注目してみてきたが、本項では新聞とならんで旧来型メディアの中で存在感の大きいテレビを加えて、2020年度(最新調査結果)の国民の信頼度をみていくことにする。(図表11)

前項では利用者率が低迷していた新聞が高い信頼度を獲得しており、テレビもほぼ同水準にある。年代別にみると、40歳代以上では新聞への信頼度がより厚い。一方、利用という点では急上昇していたインターネットだが、全体(全年代)ではダブルスコアで劣位にある。依然として新聞やテレビへの信頼は確固たるものがある。

さらにテーマを「国内の政治・経済問題」に限定し、インターネットメディアを細分類した信頼度の推移をみてみよう。(図表12)

テレビ、新聞、ニュースサイトのグループと、ソーシャルメディア、ブログ、動画サイトのグループに信頼度は明確に分かれている。ニュースサイトに掲載される記事のほとんどは新聞社、通信社、テレビ局から配信された記事で成り立っており、記事ごとに提供社のクレジットが付されているため記事の信頼性は提供者のブランドに依拠しているといっていいだろう。これに対して、ブログや動画サイトは個人が発信する情報が中心。信頼性が低く評価されるのは当然のことといえるし、多くの利用者はそのことをわかって利用しているともいえるだろう。

筆者がおどろいたのは、2012年度以降一貫してテレビの方が新聞よりも高く評価されていることと、2017年度以降、新聞の信頼度が下落傾向にあることだ。この調査の結果からではテレビの信頼度が高い理由を見いだすことはできないが、一般的に考えれば、テレビメディアがもつ映像のインパクトと速報性が背景ではないかと思われる。新聞に対する信頼度下落傾向の原因については、2016~17年度の主要なニュースを確認してみたが、新聞への信頼を大きく毀損するような出来事は見当たらなかった。そうだとすれば、急激なネット系メディアの普及下で、新聞が提供するコンテンツ、印刷媒体という形態と国民のニーズとにミスマッチが生じた結果ということなのかもしれない。


図表11 メディアへの信頼度(2020年度)
図表11

  1. (注1)このデータはアンケート調査の結果である。
  2. (注2)信頼度は「非常に信頼できる」「ある程度信頼できる」と回答した割合の合計である。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

図表12 国内の政治・経済問題報道への信頼度の推移(全体)
図表12

  1. (注)信頼度は「非常に信頼できる」「ある程度信頼できる」と回答した割合の合計である。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

6.新型コロナ禍は国民のメディア利用にどのようなインパクトを与えたか

(1)国民のメディア利用とコロナ禍

わが国の場合、新型コロナ感染症患者が最初に発表された*5のが2020年1月16日、武漢に在留する邦人帰国のための特別機が派遣されたのが1月29日、船内で感染者が多数発生したグルーズ船を横浜港に受け入れたのが同年2月3日。多くの国民が、新型コロナ禍を身近なリスクと認識し始めたのはおそらく1月下旬以降だろう。

「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」は、2019年度も2020年度1月中旬に実施されている*6。ということは、2019年度調査はコロナ禍前の状態、2020年調査はコロナ禍発生のおよそ1年後の状況を反映している。これらの調査結果を比較すれば、未曽有の危機ともいえる新型コロナ禍で国民のメディア利用や意識にどのように変化したか、あるいはしていないかをさぐることができる。

具体的な検討に入る前に、2020年度調査が行われた2021年1月中旬ごろの状況をふりかえっておこう。2020年1月以降、感染者ベースで4月(1.2万人)、8月(3.2万人)のピークがみられた。9・10月は比較的落ち着いていたが、11月以降、感染者数は増勢に転じ、12月(8.7万人)と急増。12月に大阪府と北海道旭川市は重症病床不足に対応すべく自衛隊に看護師派遣を要請、政府はGoToトラベルの一時停止を決定した。

2021年1月には感染者数はさらに急増(15.5万人)し、1月7日に政府は首都圏の1都3県、1月13日に7府県に2度目の緊急事態宣言を発出するにいたった。2020年度調査はこのようにかなり騒然とした状況下で実施されたもので、その影響は小さくないと考えられる。なお、病毒性が判然としなかった最初の緊急事態宣言時のように全国一斉での休校措置は取られなかった一方、企業等のリモートワークへの準備は改善されていたものと思われる。

コロナ禍によってもたらされた国民のメディア利用や意識の変化として、第1にはリモートワーク*7の普及、第2は情報メディアへの評価の変化が考えられる。前者について直近の状況を、後者については2019年度と20年度の変化をみよう。

(2)リモートワークの利用状況:それほど普及してはいない

2020年度の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(図表13)では、「遠隔会議システムやビデオ通話利用」が調査項目に追加された。遠隔会議やビデオ通話はリモートワークの一要素であり、単年度の数値であるため推移が把握できない。また、親族や友人との間での利用も含まれている。これらを踏まえた上で、緊急事態宣言下での全体(全世代)の利用者率が1割に満たないというのは高い水準とはいいがたいだろう。

民間機関で実施した調査(図表14)をみると、25%の従業者がリモートワークを行っていると答えている。同調査によれば、利用者率は大都市圏、特に首都圏で高い一方、20県では1割に満たない。職種別にみると、企画・IT系職種では半数を超えている一方で、対面サービス系や製造系職種では1割に満たない。

もちろん、製造ライン職、プロドライバー、介護・保育職のようにリモートワークが不可能な職種もあれば、ITエンジニアやコンサルタントのように親和性の高い職種もある。また、親和性の高い職種が首都圏や大都市圏に集中しているために地域間の差が生じているのだろう。そもそも、リモートワークが絶対善というわけでもない。職種、業種、企業規模に応じて経営者が判断すべきことである。

とはいえ、新型コロナ禍を奇貨として業務の効率化、たとえば紙と押印で構成される業務フロー、それによって蓄積されたデータの活用といった業務効率の向上が図られるのであれば、その果実は大きい。今後、新型コロナ禍の経験がイノベーションのきっかけとなるか、あるいは悪夢として忘れ去られてしまうかは、わが国の将来を左右するといっても過言ではない。


図表13 遠隔会議システムやビデオ通話利用者率(2020年度)
図表13

  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

図表14 リモートワークの利用者率(2020年11月)
図表14

  1. (注1)勤務先従業員人数10人以上に勤務する全国の20~59歳の正規雇用者20,878人へのインターネット調査
  2. (注2)農林水産業と鉱業従業者は調査対象に含まれない。
  1. (資料)「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」パーソル総合研究所より作成

(3)情報メディアの利用と評価の変化:大きな変化が少ない中でインターネット利用時間が増加

主要メディアの利用者率と利用時間について、2019~20年度に大きな変化があるかを確認しよう。(図表15・16・17)

テレビと新聞は利用者率、利用時間に大きな変化はみられない中で、インターネットの利用時間のみ、44分と過去に例のない伸びをみせている。さらに、インターネットを利用する機器の利用者率をみると、ゆるやかに減少傾向にあったパソコンの利用者率が6ポイント伸びている。2019~20年度の間に、インターネットの利用時間が伸び、パソコンの利用者率が過去にみられないほど急増しているということは、パソコンによるインターネットの利用が大きく伸びたことを示している。新型コロナ禍によるリモートワークの普及が25%程度にとどまっているとはいえ、これが影響した結果と考えるのが自然だろう。


図表15 主要メディアの利用者率の推移(平日・全体)
図表15

  1. (注1)「テレビリアルタイム」とは録画やネット配信によらないテレビ番組の視聴。
  2. (注2)前年度比の単位はポイントである。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

図表16 主要メディアの平均利用時間の推移(平日・全体)
図表16

  1. (注)「テレビリアルタイム」とは録画やネット配信によらないテレビ番組の視聴。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

図表17 インターネットを利用する機器の利用者率の推移(平日・全体)
図表17

  1. (注)前年度比の単位はポイントである。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

(4)テキスト系メディアへの信頼:新聞は低落傾向

「もっとも利用するテキスト系ニュースメディア」の2019~20年度の変化をみてみよう。過去から下落基調だった新聞が8ポイント下落している一方、ポータルサイトは5ポイント伸びている。いずれも過去と比べて大きな変化であるが、これまでのトレンドとは次元を異にする変化とまでは断じにくいレベルである。

テレビも含めた各メディアの「政治・経済問題報道」への信頼度の2019~20年度の変化をみてみよう。新聞の5ポイント下落が他のメディアとくらべて変化幅が大きく、一人負けの感がぬぐえない。

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