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社会動向レポート

「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」から読む国民のメディア利用(4/4)

社会政策コンサルティング部 仁科 幸一

7.国民のメディア利用はどのように変化したのか

第1に、インターネットメディアは高年齢年代にも予想以上に普及していることを指摘したい。60歳代の6割強が、インターネット利用であるモバイル端末(その多くはスマートフォン)を通じてインターネットを利用している。2020年度調査時の60歳代は概ね1951~1960年生まれ、つまりポスト団塊世代である。インターネット黎明期ともいえる’90年代以降、否応なく情報環境の変化に適応してきた世代ともいえる。このような実態から、インターネット利用は高年齢年代にも想像以上に普及しているといえるだろう。フィンテック分野、特にキャッシュレス決済や個人送金などのデジタルサービスの普及が新興国に比べてわが国は遅れているという指摘もあるが、少なくとも60歳代以下の年代ではこれらを受け入れる素地はあるといっていいだろう。

第2に、旧来型マスメディアの代表として君臨する新聞が転換期をむかえていることだ。利用者率をみると、30歳代以下の年代は1割に満たず、新聞購読習慣が定着している60歳代でも5割弱。主要メディアの中で、全体としての信頼度という点では首位を確保しているものの、新聞の主戦場である政治・経済問題報道への信頼度は低下傾向にあるといえる。

こうした現状をもって、「新聞はもはや時代おくれ」と嘲笑する向きもあるが、それは安易に過ぎる。というのも、インターネット上のニュースサイトの情報源は既存のマスメディア、特に新聞社からの配信に依存している。新聞の衰退は、ニュース報道全体の衰退を意味するといっても過言ではない。新聞がこうした状況にどのように対応していく*8かは、新聞経営の課題であるとともに国民の課題でもある。

第3に、新型コロナ禍が国民のメディア利用に与えた影響はいまのところ判然としない。話題になることの多いリモートワークの採用は、職種や業種によって幅が大きく、従業者ベースで4分の1というところである。とはいえ、これをきっかけに業務全般の見直しが進むのであれば、企業の生産性向上が期待できる。もちろん、新型コロナ禍の終息によって旧に復するという可能性もある。新型コロナ禍を奇貨とすることができるか、あるいはただの災難としてとおり過ぎるのか。現段階では判然としないが、筆者としては前者であってほしいと考えている。

メディアの利用や信頼感に関しては、インターネット利用時間とパソコン利用が伸びた以外は大きな変化はみられなかった。これがリモートワークの普及の結果なのか、他の要因が存在するか、次年度以降の調査結果をみる必要がある。


図表18 もっとも利用するテキスト系ニュースメディアの推移(全体)
図表18

  1. (注1)「ポータルサイト」にはYahoo!ニュース、Google ニュース等がある。
  2. (注2)「ソーシャルメディア」にはLINE NEWS 等がある。
  3. (注3)このデータはアンケート調査の結果である。
  4. (注4)本項目が調査されたのは2013年度以降、「ソーシャルメディア」が本項目の調査対象となったのは2014年度以降である。
  5. (注5)前年度比の単位はポイントである。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

図表19 国内の政治・経済問題報道への信頼度の推移(全体)
図表19

  1. (注1)信頼度は「非常に信頼できる」「ある程度信頼できる」と回答した割合の合計である。
  2. (注2)前年度比の単位はポイントである。
  3. (注3)このデータはアンケート調査の結果である。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

  1. *1例えば20歳代の固定電話の利用時間(利用者数)は、2020年度調査では158分(11人)、2019年度調査では11分(4人)、2018年度調査では15分(1人)となっており、これらの計数をストレートに比較することには躊躇がある。
  2. *210歳代の平均利用時間は59分ともっとも長い。ただし、この年代の新聞利用者率は3%(7人)、中央値は30分であることから、特異値の影響をうけたものと考えられる。
  3. *3「モバイル端末」は「携帯電話」(フィーチャーフォンとスマートフォンの合計)で、「タブレット端末」は含まれていない。
  4. *4「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では、1日の行動を詳細に把握する調査(日記調査)とともに、意識を把握する調査(アンケート調査)を同時に行っている。このため、同一の事項であってもどちらの調査データによるものかによって計数は異なる。
  5. *5武漢に渡航した中国人。
  6. *62019年度調査は2020年1月14~19日、2020年度調査は2021年1月12~18日。
  7. *7本稿では、ICT機器を活用して事業所外で業務を行うことで、テレワークと称されることもある。パソコンを事業所のサーバーと接続して事業所内と同等の情報環境の下での業務、パソコンやモバイル端末を活用した遠隔会議がこれにあたる。
  8. *8新聞各社は有料ニュースサイトを開設しているが、2020年度の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」のアンケート調査によれば、全体(全年代)での新聞社系有料サイトの利用者率は4%、無料サイトでも13%(図表9参照)。特に有料サイトは普及途上段階にある。
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