建設分野における物価等動向について(1/3)
2024年10月
みずほリサーチ&テクノロジーズ サイエンスソリューション部 三澤 文香
1. はじめに
2024年、建設業界では働き方改革関連法の適用がなされ大きな転換期を迎えている。2023年に公開したレポート「建設分野における価格動向について」では建設分野の物価動向として新型コロナウイルス流行後の物価上昇等を整理した。本レポートでは、昨年以降の建設分野の物価推移に加え2024年問題、人材不足等の特記すべき動向を整理する。
2. 建設分野の物価推移
直近1年の建設分野の物価は、新型コロナウイルス流行直後と同程度以上の上昇が確認され、依然として上昇傾向が継続しているといえる。また、新型コロナウイルス流行直後は資材、エネルギー価格が主たる物価上昇をけん引したが、直近1年ではこれらの価格は横ばい又は微増であり、労務費や物流費が物価上昇の主たる要因となっている。以下に、建設分野全般、資材、設備、労務単価の観点から動向を整理する。
(1)建設分野の物価動向
建設分野の物価指標である建設工事費デフレーターを用いて、建設分野全体の物価の推移を分析した。材料費、労務費等を含む建設分野の工事費は、直近1年(2023年7月~2024年6月)では約4.4%/年の上昇であり、新型コロナウイルスの影響を受けた期間(2020年3月~2023年5月)の約3.8%/年の上昇と比較すると同程度以上の上昇が続いているといえる。また、直近の3カ月(2024年4月~2024年6月)に限ってみると、10%以上/年の上昇であり、今後のさらなる上昇の可能性を示す傾向であった。上昇の背景には、資材価格の高止まりに加え、設備工事費、労務費、物流費の上昇の影響が出ていると考えられる。
図1 建設分野全体の物価の推移(建設工事費デフレーター)
- 出所:建設工事費デフレーター(国土交通省)よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
(2)資材価格の動向
建設資材として躯体を構成する鉄筋(小形棒鋼)、鉄骨、生コンクリート、仕上げを構成する板ガラス、主に設備で利用される電線・ケーブル、鋼管の価格動向を分析した。直近1年(2023年8月~2024年7月)では、電線・ケーブルは急激な物価上昇が生じているが、それ以外の品目は横ばい又は微増である。価格上昇は緩やかになったものの依然として高止まりが続いているといえる。
電線・ケーブルの価格高騰の背景には、主材料の銅の需要増や為替変動があると考えられる。今後も脱炭素化社会の実現で鍵となるEVや再生エネルギー設備の送電線等を中心に銅の需要が堅調であると予測される。
図2 個別品目の価格動向(企業物価指数) |
表1 個別品目の2024年7月時点の物価指数のまとめ |
- 出所:企業物価指数(日本銀行)よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
(3)設備工事費の動向
設備工事費(電気、衛生、空調、昇降)の物価動向として建築費指数を分析した。建築費指数における設備の指数値は直近1年(2023年7月~2024年6月)では約8.7%/年の上昇である。また、直近の3カ月(2024年4月~2024年6月)に限ってみても、約8.1%/年の上昇であり、今後のさらなる上昇の可能性を示す傾向であった。
図3 設備工事費の物価動向(建築費指数)
- 出所:建設物価 建築費指数®(建設物価調査会)よりみずほリサーチ&テクノロジーズが作成(建設物価 建築費指数は、一般財団法人 建設物価調査会の登録商標です。)
次に大規模建築物等で利用される特注品等の設備工事費の動向として日本建設業連合会の公表を整理した。前述した建築費指数が(1)汎用品ベース、(2)中型・中級グレード基準、の指数で大規模案件の設備工事費の現状を十分に説明できないとし公表された数値であり、調査価格を比較できる大手建設会社の価格上昇率の平均である点に留意が必要であるが、表2の通り、変電設備、エレベーターを筆頭に建築費指数を大幅に上回る上昇が示されている。
表2 大規模建築等における設備工事費の上昇率
- 出所:設備工事費上昇の現状について 2024年春版*1(日本建設業連合会)よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
設備工事費の上昇の背景には、設備主要機器及び資機材価格の高騰のほか、設備工事の労務費及び経費等の高騰がある。一部の設備機器・資機材は価格高騰に加え納期が不安定な状況が継続し、工事に関しては人手不足や後述する堅調な建築需要や2024年問題への対応により設備工事需給バランスが崩壊し、設備工事会社の確保が困難となり、工期への影響や労務費等の大幅な高騰が生じている。
(4)労務単価の推移
労務単価として公共工事設計労務単価の推移を分析した。令和6年の公共工事設計労務単価は時間外労働の上限規制への対応のために必要な費用を反映したとして、全国全職種平均値23,600円、前年度から5.9%増となった。労務単価の上昇は平成25年度の改訂から12年間連続であり、特に直近2年は前年度と比較して5%以上の増加である。後述する人材不足、2024年問題等への対応を考慮すると今後も労務費の高騰は継続することが想定され、建設分野の物価全般に大きな影響を与えることが懸念される。
図3 公共工事設計労務単価の推移
- 出所:令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について*2(国土交通省)よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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