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気候変動関連の情報開示と気候変動適応ビジネスの支援制度

民間企業による気候変動への適応(1/3)

  • *本稿は、『みずほグローバルニュース』 Vol.103 (みずほ銀行、2019年6月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 グローバルイノベーション&エネルギー部 コンサルタント 西郡 智子

パリ協定では産業革命以前と比較して気温上昇を2℃未満に抑えることが世界共通の長期目標とされた。一方で、この2℃目標を達成できたとしても、現状よりも気温が上昇し、気候変動の影響に伴う被害が頻発することは避けられない状況にある。そのため、民間企業においても、サプライチェーンを含め、気候変動の影響に対処し、被害を回避・軽減する「適応策」の重要性が増している。本稿では、民間企業による気候変動への適応に係る取り組みとして、近年重要視されている気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づく情報開示と適応ビジネスに活用可能な緑の気候基金(GCF)をみていきたい。

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づく情報開示と適応策

TCFDとは、G20の依頼に基づき、金融安定理事会(FSB)が2015年12月に設置した民間主導のタスクフォースであり、一貫性があり比較可能な、かつ自主的な気候変動関連の財務情報開示の枠組み・方法に係る提案を行い、金融機関、保険会社や投資家の意思決定に有用な情報を提供することを目的としている。

TCFDは、2017年6月に最終報告書(提言)*1を公表しており、図表1のとおり、組織運営の中核的要素となる「ガバナンス」、「戦略」、「リスクマネジメント」、「指標と目標」の4項目に沿って、合計11の気候変動関連情報の開示内容に係る提言を行っている。


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図表1. 気候変動関連の情報開示に係る提言と推奨される情報開示事項
  情報開示の中核的要素
ガバナンス 戦略 リスクマネジメント 指標と目標

気候変動関連リスクと機会に関わる組織のガバナンスについて開示する。 気候変動関連リスクと機会が、組織のビジネス戦略や財務計画に及ぼす実際のまたは潜在的な影響に係る情報が重要である場合に開示する。 組織による気候変動関連リスクの特定・評価および管理方法を開示する。 関係する気候変動関連リスクと機会に係る情報が重要である場合、その評価と管理に使用される指標と目標を開示する。








  • 気候変動関連リスクと機会に係る取締役会の監視体制について説明する。
  • 組織が特定した短中長期にわたる気候変動関連リスクと機会を説明する。
  • 気候変動関連リスクの特定・評価に係る組織のプロセスについて説明する。
  • 組織の戦略やリスク管理プロセスに従い気候変動関連リスクや機会を評価するために、組織により使用される指標について説明する。
  • 気候変動関連リスクと機会の評価と管理に係る経営者の役割について説明する。
  • 気候変動関連リスクと機会が組織のビジネス・戦略と財務計画に与える影響について説明する。
  • 気候変動関連リスクを管理する組織のプロセスについて説明する。
  • Scope1、Scope2、適切な場合はScope3の温室効果ガスの排出量や関連リスクについて説明する。
 
  • 2℃以下のシナリオを含む複数の気候変動関連シナリオ分析を踏まえ、組織の戦略のレジリエンスについて説明する。
  • 気候変動関連リスクの特定・評価・管理に係るプロセスが組織の全体的なリスク管理にどのように統合されているか説明する。
  • 気候変動関連リスクと機会を管理するために、組織により使用される目標と目標に対する成果について説明する。

(資料)Final Report “Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures”の図表をみずほ情報総研が翻訳
(注)Scope1とは事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、Scope2とは他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、Scope3とはScope1、2以外の間接排出*2(サプライチェーンにおける排出)のこと


また、TCFDの情報開示の枠組みにおいては、図表1の提言の中で多く使用されている「リスク」と「機会」に関して、図表2のとおりに一貫した分類を行うとしている。具体的には、リスクについては、低炭素経済への移行に関連したリスク(移行リスク)と気候変動の物理的影響に関連したリスク(物理的リスク)を、機会については「資源効率性」「エネルギー源」「製品とサービス」「市場」「レジリエンス*3」をあげている。さらに、図表2で示すようにリスク・機会と財務的インパクトを関連づけることが特に重視されている。

この情報開示の枠組みにおいては、リスクの中の「物理的リスク」*4や機会の中の「製品とサービス」「市場」「レジリエンス」*5などに適応策に関する事項も含まれており、これらのリスクや機会、それらへの対応策と財務的インパクトを財務報告の中で記載することが推奨されている。

加えて、図表1の「戦略」に記載されているとおり、複数の気候シナリオ分析のもとでの組織戦略のレジリエンスを説明するように求めている。これは、中長期的な気候変動による潜在的なリスクが生じるタイミングや規模の不確実さを踏まえ、起こりうる複数のシナリオに基づいて気候変動によるリスクと機会がどのように変化するか検討を行い、戦略策定プロセスやリスク管理に取り込む必要があることを示している。

2017年6月にTCFDの最終報告書(提言)が公表されたことを受け、民間企業による取り組みが進みつつある。当分の間は低炭素経済への移行に関連するリスクや機会に焦点があてられると想定されるものの、気候変動関連の財務情報開示が進むに従い、適応に係る取り組みがますます重要になると考えられる。


図表2.気候変動関連のリスクと機会および財務的インパクト
図2

(資料)Final Report “Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures”の図をみずほ情報総研が翻訳及び赤枠と赤字箇所はみずほ情報総研が追記

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