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社会動向レポート

当社人材開発事業「越境リーダーズキャンプ」モデル実証から考察する

越境学習は、今後の次世代リーダー育成に何をもたらすのか(2/4)

社会政策コンサルティング部
担当次長 田中 文隆
主任コンサルタント 森安 亮介
コンサルタント 川崎 康太
コンサルタント 渡邉 武瑠

3.越境リーダーズキャンプ概要と実施結果

(1)実施概要

2021年度は、大分県竹田市をフィールドとしてキャンプを開催した。研修参加者のメインターゲットを、30代前後の中堅社員を中心とする次世代リーダー候補層、新規事業開発・既存業務の変革を担う企業社員と設定し、異業種間での学び合いの機会創出を企図し、複数の企業から研修参加者を募集した。また、多様な「越境学習」の機会創出を企図し、フィールド地域からの「地域受講生」も募集した。結果、商社、メーカー、旅行業及び、金融・情報通信グループ等の5社から計16名が参加したほか、「地域受講生」として、フィールド地域におけるまちづくり会社や市役所から計4名が参加した。これらの参加者の中で、後述する研修効果測定の観点から異なる企業・団体出身の受講生で構成される4グループを組成し、グループ毎に研修課題に取り組む形を取った。

(2)コンセプト

当キャンプにおいては、「ビジネスの力でリアルな地域課題に挑む」「越境体験を通じて『いつもの仕事』をアップデートする」「アルムナイと対話し、未来のキャリアを考える」の3つのコンセプトを掲げ、プログラム開発、モデル実証を行った(図表2)。

まず、「ビジネスの力でリアルな地域課題に挑む」に関しては、受講生の課題への取組意欲の向上、ビジネスプラン提案を通した研修フィールド地域への貢献といった観点から、単純に地域に赴くだけなく、自らも企画者となるリアルな環境設定を企図した。プログラムでは、実在する地域課題の解決に資するビジネスプランを考案し、プランの実施主体となる地域のキーパーソンに対して提案するというミッションを研修参加者に向けて提示した。

2021年度のフィールドである大分県竹田市は、江戸時代に岡藩の城下町として栄えた地域であり、武家屋敷が現在でも残っている。往時をしのぶことができる街並みが地域の有力な地域資源である一方で、城下町のエリアに未活用の空き地が存在しているといった課題を抱えており、まちづくり会社が中心となり課題解決に向けての取組を検討していた。そこで、「地域の空き地を活用し、域外から城下町に人を呼び込み地域に賑わいを創出する事業」を研修課題として、空き地活用事業に取り組むまちづくり会社の専務より、危機感や城下町の可能性についてプレゼンテーションを行った。

「越境体験を通じて『いつもの仕事』をアップデートする」に関しては、プログラムの中で自身の強み・持ち味に気づくためのグループワークや、多様な生き方を実践する地域のプレイヤーへのヒアリング機会を設けることで実現を目指した。

「アルムナイと対話し、未来のキャリアを考える」に関しては、受講生のサポーターとして企業アルムナイを活用した。サポーターの選定に当たっては、大企業での仕事経験を有しながら、現在は社外に身を置き、起業家やフリーランス等として活躍し、これまでの企業キャリアと現職キャリアの意味づけが行われている、すなわち組織間キャリア発達*7を成ているアルムナイであることを条件とした。こういった経験を有するサポーターが、企業特有の組織力学に対する洞察や企業内部では当たり前に見えてしまうような活用できるリソースの再認知、自身の持ち味への気づき等を促しながら対話を行うことを通して、受講生にとっての「自己の強み・弱みの認識」や「仕事・経験の棚卸し」の内省の触媒となることを企図した。


図表2 越境リーダーズキャンプのコンセプト
図表2

  1. (出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(3)プログラム内容

約2カ月間に渡る研修は、「事前レクチャー」、2泊3日で実施する「座学研修」及び「フィールドスタディ」「個人ワーク&グループワーク」及び「中間・最終発表」から構成される(図表3)。

まず事前レクチャーでは、研修に対するマインドセットを行うと共に、まちづくり会社より受講生に対して研修課題を提示し、地域課題についてのプレゼンテーションを行った。

地域フィールドにて初日に行う座学研修においては、事業創出やマーケティングに関する基礎的な考え方・フレームワークのレクチャーや先進事例紹介に加え、地域課題にアプローチし社会的価値を生み出す事業をつくるための視点として、価値創造型思考やデザイン思考、ロジックモデル等に関するレクチャー・ワークショップを実施した。これらの学びを通して、実際に地域に入って活動する上で必要となるスキルとマインドセットの習得をサポートした。

次に、2日目と3日目のフィールドスタディでは、地域の関係者や地元で働く方々へのヒアリングを行い、ビジネスブランのアイディア出しを行った。また、サポーターとの1on1を設定し、城下町に立地する武家屋敷のスペースにて日本庭園を眺めながら、ゆっくりと自身のキャリアに関する「内省」を行う時間を提供した。

座学研修とフィールドスタディを踏まえた「実践」となる個人ワーク&グループワークでは、現地研修で収集した情報を元に、地域課題を解決するビジネスプランについてグループ毎に検討を行った。情報収集や環境分析、事業提案資料の作成等は、メンバー間で分担して個人作業にて実施し、サポーターに適宜相談を行い、フィードバックを受けられるように設定した。最終発表の2週間前には中間発表を行い、講師や他チームの受講生からのフィードバックを受け、ブラッシュアップする機会を設けた。

最終発表では、研修全体を通して作成した各グループのビジネスプランについて発表を行い、講師及び地域関係者からのフィードバックを受けた。最後に、研修全体を通した内省の総括をメンバーと共に実施して、約2カ月間に渡る研修プログラムが終了した。


図表3 「越境リーダーズキャンプ」プログラム内容
図表3

  1. (出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

4.越境リーダーズキャンプ実施による効果

(1)仮説と研修設計

前述のように、企業次世代リーダーには、自身のキャリアとも紐づけながら主体的に新規事業開発や業務変革に臨むことが求められている。こうしたリーダーは、修羅場経験や新規事業等難易度の高い業務経験を通じて育成されるものと考えられる。例えば新規事業創出経験を通じた中堅管理職の学習に関する研究では、新規事業に取り組む過程で、働く目的・動機の問い直し(働く理由の探索)や、顧客価値に基づく事業の問い直し(事業価値の探索)等を経た上で自らを省察し、リーダーマインドや他者本意志向、経営者視点の獲得に至るものとされている(田中・中原2017)。

しかし、結果として育成に繋がるものの、ミッションの実現度に自他共に注目が行き過ぎ、新規事業開発や業務変革の過程における自身の変化に関しては、些か看過されてしまっている可能性もあるのではないか。そこで、縮図的な試みではあるが事業開発過程に内省を深める場を作り、その意義の一端だけでも体感してもらうことを企図したのが当キャンプである。

こうした経緯や狙いを踏まえ、2021年度の当キャンプでは、内省局面も含めた研修によってもたらされる効果を「仕事の再定義」「自己の強みや持ち味の認識」「リーダーシップの芽生え」の3つに据えてプログラムを設計し、効果検証を行った。以下、その詳細を述べた上で、効果検証の概要を紹介したい。

まず「仕事の再定義」である。越境学習に関する学術研究では、越境的に異なるコミュニティに身を置くことで、自己や自組織を相対化して捉え直す経験になる(長岡2015、石山2018)上、仕事に関連する認知等を変え、意味ある仕事経験を自ら創出する行動につなげるものとされている(藤澤・高尾2020)。当キャンプにおいても、地域に越境し、他企業社員とチームで課題解決に臨むような越境体験を経ることで、受講生が「顧客視点」や「社会課題の視点」から、改めて自社や自身の仕事の価値を捉え直す場になることを狙いとした。こうした仕事の捉え直しや職業観は、ジョブ・クラフティング(自分にとって個人的に意義あるやり方で職務設計を再定義・再創造するプロセス)やコーリング(自分の仕事を、自分を超えた力や自分自身の人生の目的、あるいは社会への貢献と結び付けて意味づけられる感覚)等の概念でも知られており、効果検証においても藤澤・高尾(2020)が用いたジョブ・クラフティングの調査項目や上野山(2019)の「コーリング」の調査指標等を参考にアンケート項目を作成している。

次に、「自己の強み・持ち味の認識」である。異業種企業と地域課題に取り組んだ先行事例では、越境的な学習の場によって自己能力やスキルの再解釈がもたらされることが報告されている(中原2015)。当キャンプにおいても、自分の強みや持ち味を振り返るとともに、他者からフィードバックを受ける場を積極的に設けた。こうして再認識・再解釈した自身の強みや持ち味こそが、新規事業であれ既存事業の変革であれ、自社に戻った時のチームビルディングや組織パフォーマンス向上に効果的に働くものと考えられるためである。そこで、効果測定を行うアンケート項目についても、高橋・森本(2015)の「強み活用感」や丸山(2021)の「持ち味発揮」等の指標を参考に質問項目を設計している。

最後に「リーダーシップの芽生え」である。上述の田中・中原(2017)のように、新規事業創出のプロセスで視座が変容し、リーダーマインド等の獲得に至るとされている。当キャンプにおいても、上述した「仕事の再定義」や「自己の強み・持ち味の認識」を踏まえ、直面する地域課題の解決策提示に向けて、「如何に多様なメンバーの知見や持ち味を引き出し融合するか。とりわけ越境先の環境下で企業の肩書きが通用しない中で、生身の人間として自らの想いや志にも立脚しながらチームをけん引できるか」に力点を置き、座学やワークショップでも自らの想いに向き合う時間を設けている。アンケート項目においては前述の田中・中原(2017,2018)を参考にし、質問項目を設計している。

こうしたプログラムの狙いと効果の関係性は上記に示す通りである(図表4)。なお、サポーターは3つの効果を促すための触媒的な働きを果たすものとして設計している。


図表4 プログラムの狙いと想定される効果
図表4

  1. (出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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