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社会動向レポート

当社人材開発事業「越境リーダーズキャンプ」モデル実証から考察する

越境学習は、今後の次世代リーダー育成に何をもたらすのか(3/4)

社会政策コンサルティング部
担当次長 田中 文隆
主任コンサルタント 森安 亮介
コンサルタント 川崎 康太
コンサルタント 渡邉 武瑠

4.越境リーダーズキャンプ実施による効果(続き)

(2)効果検証の方法

以上のような仮説を確かめるため、定量分析と定性分析の2つの方法による検証を実施した。

①定量分析

定量分析では、3つの効果について、研修開始時と研修修了時のそれぞれでアンケート調査を実施することで、受講前後における変化を統計的に観測した。

アンケート調査項目については図表5の通りである。参加者の属性やこれまでの越境経験等について確認た後、3つの効果に関する質問を実施した。具体的には、「仕事の再定義」では、上野山(2019)のコーリングに関する研究論文から向社会志向*8に関する4項目、藤澤・高尾(2020)のジョブ・クラフティングに関する研究論文から5項目を引用し、合計9つの質問項目を用いている。次に「自己の強みや持ち味の認識」については、高橋・森本(2015)の強み活用感尺度から4項目、丸山(2021)の強み認識や持ち味発揮から7項目、中原(2015)から固定的パースペクティブ変容に関する2項目等、各研究論文から合計13の質問項目を引用している。そして「リーダーシップの芽生え」については、田中・中原(2018)及び田中(2021)の研究で用いられている指標の内、リーダーマインドや他者本位志向、経営者視点の獲得に係る9項目を引用している。最終的に、合計31項目の質問に対し、「①全くあてはまらない」~「⑤かなり当てはまる」の5段階で回答するアンケートとなっている。


図表5 アンケート調査項目
図表5

  1. (出所)本稿で紹介した各種先行研究よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

②定性分析

定性分析においては、研修期間中に受講生に随所で「パーソナルビジネスモデルキャンバス」と「内省ログ」を記載してもらうことで、受講生がどの様な気づきを得たかを可視化した。

なお、「パーソナルビジネスモデルキャンバス」とは、アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールによって開発された「ビジネスモデルキャンバス」を個人のキャリア版に活用したものである(図表6)。顧客・ユーザーの定義や、顧客・ユーザー視点に立った提供価値が可視化される上、その価値創出に必要な自身の強み(キーアクティビティ)や社内外のリソースに対する受講生自身の認識を明確化できる点に特徴がある。他方、「内省ログ」は、当社が作成したもので、研修中に感じたことや違和感・葛藤等を記録するツールである(図表7)。「自己理解」や「チームへの貢献」「多様性」等の項目に分けて自由記述で記載する形式としている*9

このような2つのツールへの記載内容を、研修前後で比較することで、受講生の気づきや学びを捉えた。さらに、これらのツールに加えて、受講生に別途インタビューも実施することで、定性的な効果の抽出も行っている。


図表6 パーソナルビジネスモデルキャンバス
図表6

  1. (出所)ティム・クラーク著; アレックス・オスターワルダー& イヴ・ピニュール共著(2012)神田昌典訳『ビジネス モデル You』翔泳社

図表7 内省ログの項目
図表7

  1. (出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(3)効果検証結果

3つの効果の検証結果は次の通りである。

①仕事の再定義について

まず、「仕事の再定義」についてはアンケート9項目中4項目で「⑤かなり当てはまる」と回答した人数が増加した。具体的には「私のキャリアの最も重要な役割は、他の人がやりたいことをできるようにすることにある」「私の仕事は社会全体の利益に貢献している」及び、「自分の仕事上の強み・弱みや、成果を出せる働き方について具体的に認識している」等の項目で増加がみられた。「内省ログ」の記述からも、以下のような記述が確認された。

「社外かつ今までの自身を知らない人に聞いてもらうことで、経験してきたことの本質が棚卸することができた。」

「社外の方と交流することで、自社に対する考え方や他社の考え方(ビジネス等)の共有ができたことで、自分自身の仕事に対する関わりや、仕事の仕方について見つめ直すことができた。」

「今までの自分のことを知らないメンバーに囲まれることで、改めて客観的に自分がどのように映っているのかということを見直すことが出来た。またその結果として、自分はどう立ち回ることがこのチームとして一番成果を出せるのかと考えながらの行動を心がけようということに繋がった。」

こうした記述からは、他社のメンバーや地域関係者といった、社外との関わりを通じて自身の仕事や経験を顧みる様子が伺える。

②自己の強みや持ち味の認識について

次に、「自己の強みや持ち味の認識」である。アンケート13項目中8項目で「⑤かなり当てはまる」と回答した人数が増加しており、特に、定量面で最も効果が顕著であった。例えば「自分の強みをよく知っている」「自分がどんなときに力を発揮できるかを知っている」及び、「私は自分の強みを様々なやり方で活用することが出来る」等の項目で増加がみられた。とりわけ興味深いのは、会社では同じ職務を担当しているにも関わらず、研修後はより強み・持ち味を活かせていると感じるようになった点である。例えば、「今の生活や仕事において自分の強みを活用する機会がたくさんある」「今の仕事では私らしさ・私の個性を活かせていると思う」及び、「今の仕事では私の強みが活かせていると思う」等の項目で増加がみられた。こうした変化は、研修を通して自身の持ち味等に改めて気づくことで、それを活かす場面を日常業務の中でも認識できるようになったことを意味している。

実際、「内省ログ」の記述からも、以下のような記述がみられた。

「私の強みとして、行動力があるとチームメンバーに言ってもらえた。今まで自分の強みとして認識していなかった点なので、驚いた。今後はその点に自信をもって業務に取り組んでいきたい。」

「自分の持ち味は、たとえ自分とは全く正反対の価値観であっても受け入れられることだと感じました。」

「研修最後の振り返りの中で、『あなたが居たからチームがまとまった』と声をかけていただけた。また、講師の方からも『他のメンバーに合わせて自分の役割を変えられることが一つの強みではないか』というフィードバックもあったので、チームワークという点は自分の強みの一つだと認識することが出来た。」

加えて、強みだけではなく、自身の弱みや思考の癖等を認識できたことも「内省ログ」の記述で確認できている。

「相手の話をよく聴くことが自分の強みであると思っていましたが、その反面自分の意見をあまり言い出せない弱みにも気づかされました。常に周りを伺いながら発言をするクセがあるため、今後は積極的に意見が述べられるようにすることが自分の課題であると感じました。」

「いつもとは異なる発想を意識していたが、結局アウトプットはいつもの発想に近く、染み付いた思考の癖を変えることは容易ではない。思考の癖を認識し、都度、癖が悪い方向に出ていないかを意識することが大事。これは明日からも活かしていきたい。」

「私の強みは決断力、推進力だと思っていた。しかし、チームメンバーと当キャンプを受けながら気付いた点は共感ができないことについてはすぐ突っ込んでしまうこと。また、自分のアイディアに共感をもらえないと落ち込んでしまうことに気付いた。」

チームメンバーやサポーターからの評価や相対比較を通じて、自己の強みや弱みも含めた持ち味に対する理解が深まり、今後に活かそうとする様子が伺える。

③リーダーシップの芽生えについて

そして「リーダーシップの芽生え」においても、アンケート9項目中4項目で「⑤かなり当てはまる」と回答した人数が増加した。具体的には「多様な関係者を巻き込む力がある」「常に全社視点で物事を考える」「ビジョンを掲げて事業やプロジェクトを推進している」及び、「積極的にリスクを取る」の項目で増加がみられた。

「内省ログ」の記述を見ると、普段とは異なる属性や価値観に出会えたことで、その相乗効果のインパクトを理解したからこそ、メンバーをまとめたり、チームとしての方向性を統一する難しさや重要性を認識したりする様子を確認することができた。

「バックボーンの違う方々とベクトルを合わせ、(短期間で)一つの目的に進んでいくことの難しさを痛切に感じています。一方、多様な考え方を知り、その掛け合わせがより魅力的な価値を提供できる可能性も感じることができ、事業構築の醍醐味を改めて認識することができました。」

「研修全体を通して、同じような経験や知識量のメンバーが揃ったチームよりも、多種多様な経験・知識を持つメンバーが揃った方が様々なアイディアが生まれ、より良いアウトプットに繋がるポテンシャルがあるということを感じた。また、勿論多種多様なメンバーの方がその分チームとして纏まることが大変にはなるので、チームを上手く纏めるための立ち回り方が大切になるというのも合わせて実感した。」

以上の検証結果から、今回の当キャンプ開催を通じて、3つの効果全てにおいて、ポジティブな変化を確認できた。こうした変化は、普段とは異なるメンバーと関わりながら、研修フィールドである竹田市の地域住民と直接対峙し、地域課題に直面することで、社会の中で自分自身を相対化したことによって生まれたものと考えられる。

加えて、「内省ログ」等の記述を見る限り、そうした変化を促した大きな要因の1つは、チームメンバーからのフィードバックや、サポーターによる1on1であった。例えば、サポーターによる1on1については次のような記述があった。

「直属の上司等には言い難い、自身の悩み等についてぶつけることで、(サポーターの経験を踏まえた)アドバイスを頂くとともに、改めて自身を客観的に振り返ることができたと思う。」

「短時間で私の性格を読み取っていただき、私の強みを活かした今後のキャリア形成についてのアドバイスも頂いた。」

「(サポーターとの交流を通して、)View が違う人たちと理解の接点を作るために、自分の意見を様々な視点で再解釈することを普段から行っておくことが大切であるという点に気付かされました。」

上述の通り、サポーターの役割期待を「習得を支える触媒」としたため、定量的な効果検証は難しいものの、第三者からのフィードバックを織り交ぜることが、受講生の気づきを一層促すことを定性コメントから確認できる。

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