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「SDGs」経営のメリットと取り組み方(2/3)

  • *本稿は、大阪府中小企業団体中央会の冊子『中小企業にも大きなチャンス!「SDGs」経営のメリットと取り組み方』(2020年9月30日発行)に掲載されたものを、同会の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 グローバルイノベーション&エネルギー部 山本 麻紗子

3.中小企業がSDGsに取り組むときのヒント

(1)SDGsをビジネス言語に落とし込む

SDGsが社会、経済、環境の調和を図る地球規模の取組課題である以上、経済の担い手である企業が中心的な役割を担うのは当然の流れですし、SDGsも企業のコミットを前提としてデザインされています。しかし、SDGsが基本的には政府間の交渉で策定されたものであるため、目標の書き方も公共政策寄りで、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」といわれても、多くの企業にはピンと来ないかもしれません。したがって、SDGsの背景を理解し、ビジネス言語へと落とし込む作業が必要となります。

例えば、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」は中小企業にとっても身近であり、取り組みやすい課題ではないでしょうか。近年、働き方(労働)に対する考え方は大きく変化しています。従来の長時間労働を前提とするような職場環境・仕組みを維持することは働きづらい職場としてのレッテルを貼られるリスクを抱えることになるため、企業の職場変革・働き方改革が必要になります。SDGsと関係付けることにより、アウトプット向上とインプット削減を通じて生産性向上を実現し、労働問題の発生を予防して企業イメージ悪化・訴訟問題等のリスクを回避するだけでなく、従業員のモチベ―ションの向上や、業務の効率化を促進することが可能となります(図表6参照)。


図表6 新型コロナウイルスによって変化するビジネス環境
図6

出所:みずほ情報総研作成

(2)ポスト・コロナはサステナビリティ重視へ

2020年5月以降、新型コロナウイルス(COVID-19)で大きな痛手を負った欧州を中心に「グリーン・リカバリー」という言葉が頻繁に登場するようになっています。コロナ禍からの経済復興策に気候政策を融合させようという考えです。2020年4月末の非公式国際会合「第11回ペータースベルク気候対話」において、日本を含む27カ国の環境大臣や国際通貨基金(IF)がグリーン・リカバリーの重要性を認識し、経済回復のための計画は、パリ協定および持続可能な開発目標(SDGs)の理念に沿うものでなければならないという意見で一致しました。

今般のコロナ禍において、世界は甚大な人的・経済的被害を受けました。主要な輸出市場が国境を閉鎖し、グローバルな供給網が止まり、消費マインドが停滞しました。新型コロナウイルスの影響は、最大限効率性を重視して構築してきた経済・社会システムの脆弱性を露呈したといえます。ポスト・コロナでは、効率性重視によって生じた格差や偏在を解消し、サステナビリティを重視した経済・社会システムへの移行が重要となると考えられます(図表7参照)。


図表7 新型コロナウイルスによって変化する社会
図7

出所:各種情報からみずほ情報総研作成

(3)2025年大阪・関西万博に向けたSDGsの取組

日本全国の地方自治体もSDGsへの取組を推進しています。大阪府では、「Osaka SDGsビジョン」を策定し、2025年大阪・関西万博の開催都市として、世界の先頭に立ってSDGsの達成に貢献する「SDGs推進都市」を実現するため、企業、市町村等、様々なステークホルダーと大阪が目指すSDGs先進都市の姿を共有し、オール大阪でSDGsの新たな取組の創出を図っていくとしています(図表8参照)。

大阪府は、万博に向け、SDGs先進都市としての基盤を整え、2030年のSDGs目標年次に向けた総仕上げを図るため、「国際的な日本の評価(SDSN)」と「国内評価(自治体SDGs指標)」を用いて、大阪府のSDGs達成状況を自己分析し、これまでの政策や、府民、企業等の声との整合性を図りながら、重点ゴールの絞り込みを実施する等、独自の取組を行っています。大阪府のこうしたSDGsへの取組は、2019年の第3回「ジャパンSDGsアワード」において評価され、SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞しています。

大阪の企業に対しては、地域におけるSDGs達成に向けた事業活動を通じて地域課題の解決を図りながら、新たなキャッシュフロー(お金の流れ)やしっかりとした収益を生み出し、得られた収益を地域に再投資することにより、企業や事業の成長と地域課題の解決を同時に推進する、自律的好循環を生み出していく役割が期待されています。

元来、大阪はSDGsとの親和性が高いといえます。昔から外交や内政、物流ネットワークの重要な拠点として、内外から多くの人やモノが集まり、様々な知識や技術を受け入れる「開放性」を持つことから、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」や、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との相性が良いといえるでしょう。また、近江商人の「三方よし」に代表されるように、社会貢献、公利公益を重んじる精神を有し、現在も数多くの大阪の企業が世界の医療や貧困等の社会課題に貢献しています。

オリンピックや国際万博の開催は国際的な注目度が高く、SDGsへの取組をアピールする絶好のチャンスです。また、昨今では、こうした国際的なイベントの協賛企業や物品の調達先企業となるためには、サステナビリティに配慮した会社経営やサプライチェーンを持っていることが参加の条件となっています。せっかくのビジネスチャンスを逃さないためにも、SDGsへの取組は、今後ますます必要となると考えられます。


図表8 Osaka SDGs ビジョンの取組工程
図8

出所:大阪府「Osaka SDGs ビジョン(令和2年3月版)」からみずほ情報総研作成

4.中小企業による取組事例

(1)日本企業のSDGs導入の現状

日本企業が経営目標にSDGsを取り入れる動きは、大企業を中心に広がっています。また、企業のSDGsへの取組が、企業価値や投資を呼び込む面で評価の対象になる等、事業を維持し、拡大していく上でもSDGsの必要性・重要性が高まっています。

経団連が会員(大企業等)向けに実施したアンケート(2018年7月)によると、SDGsの各目標に自社の事業活動を紐付けた企業の割合は約35%であり、「検討中又は検討予定」と回答した企業も合わせると約80%に上りました。

では、中小企業によるSDGsの認知度についてはどうでしょう。関東経済産業局が500社を対象に実施した調査(2018年12月)によると、「SDGsについて全く知らない」と回答した企業は約84%と、中小企業へのSDGsの浸透は限定的であることがうかがえます。

(2)SDGsへの取組の評価

SDGsへの取組を決意した多くの企業にとって次の疑問として浮かんでくるのは、未来に向かう活動であるSDGsの目標設定をどうするべきなのか、また、その成果をどう評価すべきか、という点ではないでしょうか。

現在、世界各地で政府、シンクタンク、NGO等が、それぞれの狙いをもってSDGsビジネスの評価を進めていますが、体系的に整理されているわけではありません。また、主要なESG投資インデックスやISO、国際統合報告評議会(IIRC)等と連携し、国際標準化していこうという動きもありますが、画一的・統一的な基準を用いると、SDGsが推奨するところの企業の創造性やイノベーションが阻害される恐れもあります。

SDGsに取り組む企業の事例については、内閣府・外務省が主催する「ジャパンSDGsアワード(2017年から毎年開催)」、環境省の「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド[第2版](2020年3月)」のほか、経済産業省の「SDGs経営/ESG投資研究会」、関東経済産業局や近畿経済産業局のウェブサイト上でも紹介されています。また、海外に展開している中小企業の事例については、国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」に多くの事例が掲載されています。

優良事例として紹介される際の評価ポイントは、各組織・団体によって様々です。例えば、関東経済産業局では、以下の3点のとおり、企業の本業とSDGsの関係性を重視しています。

  1. [1]SDGsを理解し自社の経営に活用していること
  2. [2]世界の「共通言語」であるSDGsを活用し、国内外の様々なステークホルダーと社会的課題を克服していくという理念を共有することで、新たなパートナーシップの構築やビジネスチャンスの獲得を実現していること
  3. [3]本業を通じて社会的課題の解決に取り組み、SDGsを「商品開発力」の強化に活かして稼ぐ力を高め、SDGsを経営理念として「組織力」の強化を図ることで競争力・企業価値向上を実現していること

(3)日本および海外の中小企業の事例

SDGsへの取組の優良事例として、過去に「ジャパンSDGsアワード」を受賞した中小企業を例に、どのような取組が評価されたかについて、分野別にいくつかご紹介します(図表9参照)。

海外の中小企業の動向については、「国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン」、国連開発計画(UNDP)等で紹介されていますが、日本語の情報は少ないのが実情です。しかし、日本貿易振興機構(ジェトロ)ブリュッセル事務所は「欧州のSDGs実践に関する調査(2019年3月)」をウェブサイト上で公開しており、SDGsインデックスランキングで上位10位 *1を占める欧州諸国の取組を知る資料として興味深いといえます(日本は15位〈2018年〉)。

具体例では、[1] 開発途上国向けの低価格メガネで雇用創出と知識創出に貢献した企業、[2] 約200名の従業員間でジョブローテーションを行い、異なる職能間の知識共有を促して社内の不平等を削減して社員の定着率を上げた企業、[3] 生産・加工・流通に関わる1,000社を超える企業と連携することでサプライチェーン全体における再利用可能な折り畳み式プラスチック容器の廃棄削減を実現した企業等、「人権」や「環境」に配慮した取組が多く見受けられます。

欧州では、2019年12月に発足したEUの新体制下において、資源効率的で競争力のある公正で繁栄した社会に変えることを目指す成長戦略「欧州グリーンディール」が目玉政策として打ち出されていることから、今後も当該分野の推進が見込まれます。

さらに、欧州ではEU法によりサステナビリティ報告等、非財務情報の開示が義務付けられており、欧州の大企業は日本よりも企業責任報告書においてSDGsに関する報告を行う傾向が強く、大企業とのサプライチェーンを持つ中小企業もまたSDGsへの取組が求められています。2018年、企業責任報告書にSDGsを取り入れている大企業の割合は日本が46%であったのに対し、デンマーク84%、ドイツ83%、フランス63%、英国60%でした*2。なお、日本の大企業が中期経営計画や統合報告書にSDGsを取り入れる動きも年々活発化していることから、日本の中小企業にとっても他人事ではありません。


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図表9 評価の高い中小企業のSDGs 取組事例
食品分野 食品リサイクル事業を手掛けるA社は、「食品ロスに新たな価値を」という企業理念の下、食品廃棄物を有効活用するリキッド発酵飼料を産学官連携で開発し、廃棄物処理業と飼料製造業の2つの側面を持つ新たなビジネスモデルを実現しました。国内で生じる食品残さから良質な飼料を製造し、輸入飼料の代替とすることで、飼料自給率の向上(フードロスの削減)とともに、穀物相場に影響を受けにくい畜産経営を支援し、食料安全保障に貢献しています。
同社の飼料を一定割合以上用いて飼養された豚肉をブランド化し、養豚事業者や製造業、小売、消費者等、多くのステークホルダーを巻き込んだ継続性のある「リサイクル・ループ(循環型社会)」を構築したことが評価されました。
印刷分野 神奈川県に本社・工場を持つ印刷業B社は、地域の中小企業としては珍しく、自社独自のSDGs経営戦略を策定しました。本業との関係では、印刷事業により排出される年間の温室効果ガス(CO2)を算定し、その全量をカーボン・オフセット(打消し活動)するほか、顧客が発注する印刷物のCO2排出量をゼロカウントにする(顧客のCO2削減実績となる)等、「ゼロカーボンプリント」を推進。2020年までにごみゼロ工場を達成する活動を推進し、パートを含む全従業員を対象に社内ワークショップを実施し、各自の問題意識を全体共有した上でSDGsとの関連付けを行い、課題を解決するプロジェクトチームを従業員主体で立ち上げました。
B社は、子ども向けのSDGs 工場見学ツアー、SNSやHPを使った積極的なSDGsの取組の発信等や、地域の中小企業が全社員を巻き込み、独自のSDGs経営戦略を策定し、経営に具体的な形で実装したことが国内外のモデルとして評価されました。
建設分野 中小建設企業であるC社は、新築注文住宅を提供する建築事業を中心に、外構事業、 メンテナンス事業を手掛け、「女性活躍」「青少年育成」「地域」を3本柱として社会問題の解決に貢献しています。具体的には、外国人労働者との共生、カンガルー出勤(子連れ出勤)・子連れ出勤等が認められました。また、商業施設の中に同企業グループの情報発信基地を開所し、様々な社会課題に対し、問題提起と解決のための行動を発信しています。
開所イベントには、社内外のステークホルダーを招待し、今後、SDGsを経営戦略の中核に置いたビジネス展開をしていくこと、体制の強化への理解と協力を要請しました。このようにSDGsを経営戦略の中核に置いたビジネスを展開し、知名度アップにつなげている点が評価されました。
小売分野 東京都に本社を構える古着のリサイクルショップのD社は、日本で不要となった古着を回収し、開発途上国にて低価格でリユースしました。さらに、専用回収キット1つを購入するごとに、購入代金から5人分のポリオワクチンが寄付される仕組みを構築。古着を専用回収キットに詰めて集荷に来てもらうだけで、片付けと社会貢献が両方できるという取り組みやすさにより、ただ捨ててしまうことに罪悪感のあるユーザーの意識変容を促進しました。
この事業が評価されているのは、ただの寄付ではなく、企業がビジネスとして回収、再販売を実施することで、持続的にサービスを提供し、かつ継続的な支援につながるという点です。

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