
ドイツをはじめとするEU内5か国の規制当局が、有機フッ素化合物(PFAS)の製造・上市・使用(輸入を含む)を制限する包括的な規制提案を欧州化学品庁(ECHA)に提出した2023年1月から2年余りが経過した。PFASには多様な種類があり、幅広い用途で利用されているが、その環境残留性や生態蓄積性から人への有害性が懸念されており、近年、その規制強化に向けた検討が世界各地で行われている。なかでも、EUの化学物質規制(REACH規則)の新たな制限案として示されたPFAS規制提案*1(詳細は、弊社レポート「欧州における永遠の化学物質『PFAS』の規制案」*2を参照)は先駆的な事例であり、対象となる用途や規制が適用される国の数の多さ等から、国際的な注目を集めている。
本稿を執筆している2025年5月2日時点において、EUのPFAS規制提案は、ECHAのリスク評価委員会(RAC)および社会経済分析委員会(SEAC)での評価の最中にある。評価はセクター・トピック別に実施されており、2024年までに「PFASの有害性」、「消費者向け混合物・化粧品・スキーワックス」、「金属めっき」、「石油・鉱業」、「繊維・室内装飾品・皮革・衣料品・カーペット」、「食品接触材料・包装材」、「建設資材」について暫定的な結論に達したが、その内容は、全体的な結論がまとまるまで非公開とされている。両委員会の会合は四半期ごとに開催されており、直近の2025年3月会合では、「フッ素系ガス用途」についても、RAC、SEACとも暫定的な結論に至った(フッ素系ガスについては別途、2024年に新たな規則も発効しており、詳細は弊社レポート「EUのFガス新規則発効と注目されるPFAS規制案の行方」*3を参照)。今後は、2025年6月の会合で「輸送」、「エネルギー」についてSEACでの追加の議論が行われる他、「医療用機器」、「潤滑剤」、「エレクトロニクス・半導体」について両委員会での6月以降の議論が予定されている(図表1)*4。
図表1 RAC、SEACにおけるセクター・トピック別議論の状況
セクター/ トピック |
RAC | SEAC |
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PFASの 有害性 |
◎2024年6月に暫定結論 | (議論なし) |
排出量推定の一般的なアプローチ (廃棄物を含む) |
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(議論なし) |
社会経済分析に関する一般的なアプローチ | (議論なし) |
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消費者向け混合物・化粧品・スキーワックス | ◎2024年6月に暫定結論 | |
金属めっき | ||
石油・鉱業 | ◎2024年9月に暫定結論 | |
繊維・室内装飾品・ 皮革・衣料品・ カーペット |
◎2024年11月に暫定結論 | |
食品接触材料・包装材 | ||
建設資材 | ||
フッ素系ガス用途 | ◎2025年3月に暫定結論 | |
輸送 | ◎2025年3月に暫定結論 |
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エネルギー | ||
医療用機器 |
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潤滑剤 | ||
エレクトロニクス・ 半導体 |
注:◎は暫定結論に達したことを示す。
出所:「PFAS規制提案の科学的評価の現状*4」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
議論が順調に進めば2025年末までには、最終的な調整を待つ2つのトピック(「排出量推定の一般的なアプローチ(廃棄物を含む)」と「社会経済分析に関する一般的なアプローチ」)を含む全てのセクター・トピックが暫定的な結論に至るとみられており、検討は大詰めを迎えている。ただし、ECHAは評価するセクターを追加する可能性を示唆しており、状況次第では、結論が出揃う時期が後ろ倒しとなることも想定される。
なお、規制提案では、PFASの製造・上市・使用(輸入を含む)について、①完全な禁止、②期限付きの例外を伴う禁止、の2択のみが提示されていたが、現在では、③一定の条件のもとで禁止を行わない、④一定の条件のもとで代替品が利用可能になるまで禁止を行わない、といった選択肢を設けることも検討されており、その結果が注目される。ECHAの公表資料によれば、2024年11月時点で、エネルギーセクターのバッテリー、燃料電池、電解槽について既に③や④の適用が検討されており、医療用機器、エレクトロニクス・半導体の両セクターや、幅広いセクターに使用がまたがるフッ素ポリマーにおいても、同様の検討が行われる可能性がある旨が示されている*5。ただし、適用対象となる条件については、現時点で明らかにされていない。
両委員会の全セクター・トピックに関する結論がまとまると、ECHAはSEACの作成する意見書草案を公表し、約2か月のパブリックコメント期間を経たうえで欧州委員会(EC)に最終意見を提出する。これを受けて、ECがREACH規則の附属書XVII(制限物質リスト)の修正草案の作成や、世界貿易機関(WTO)及びその加盟国への通報を行い、REACH委員会で投票を可決する。その後、欧州理事会・議会の反対表明がなければ、PFAS規制は採択され、EU官報への公布日翌日から20日目に発効する運びとなる(図表2)。
図表2 PFAS規制の施行に向けた今後のプロセス
出所:ECHA等の各種公表資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表2に示した一連のプロセスが完了し、規制が実施されるまでには、最短でも数年程度を要するものの、特にPFAS関連製品のEU域内での製造やEU向け輸出に携わる事業者は今後、SEACの意見書草案の公表タイミングを見逃さず、その内容を確認したうえで、早めの対応を進めていく必要がある。具体的には、意見書草案へのパブリックコメントを寄せることが真っ先に考えられる。過去の制限提案でも、SEACの意見書草案に対するパブリックコメントが反映された事例があり、規制面での配慮を求める機会を逃すべきではないだろう。その際には、適切な代替物質や技術が利用できない等の事情(弊社レポート「EUにおける化学物質の『エッセンシャル・ユース』概念の明確化」*6を参照)を合理的に説明することが重要である。もし、コメントを提出しない場合でも、同業者や関連業界の企業・業界団体から提出された公表意見を収集・分析して、代替品を検討したり、規制適用除外の条件を満たすための説明資料を準備したりすることが望ましい。当社では、規制情報の提供サービス*7や法規制対応のサポートサービス*8を提供しており、ぜひ活用を検討されたい。
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*1
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*2「欧州における永遠の化学物質『PFAS』の規制案」(みずほリサーチ&テクノロジーズ、2023年2月)
https://www.mizuho-rt.co.jp/business/consulting/articles/2023-k0006/index.html -
*3「EUのFガス新規則発効と注目されるPFAS規制案の行方」(みずほリサーチ&テクノロジーズ、2024年9月)
https://www.mizuho-rt.co.jp/business/consulting/articles/2024-k0039/index.html -
*4
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*5
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*6「EUにおける化学物質の『エッセンシャル・ユース』概念の明確化」(みずほリサーチ&テクノロジーズ、2024年7月)
https://www.mizuho-rt.co.jp/business/consulting/articles/2024-k0031/index.html -
*7法規制対象化学物質アラートサービス(みずほリサーチ&テクノロジーズ)
https://www.mizuho-rt.co.jp/business/consulting/service/sus-0002/index.html -
*8化学物質(化学品)が関連する新規事業立ち上げ時環境法規等チェック(みずほリサーチ&テクノロジーズ)
https://www.mizuho-rt.co.jp/business/consulting/service/sus-0004/index.html
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