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太陽光発電設備のサーキュラーエコノミーに向けた取り組み(3/3)

  • *本稿は、『エネルギー・資源』Vol.43 No.4(一般社団法人エネルギー・資源学会、2022年7月発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ
サステナビリティコンサルティング第2部 小林 元
サステナビリティコンサルティング第1部 河本 桂一

3. リサイクルをはじめとするサーキュラーエコノミーの促進に向けた動向(続き)

3.4 サプライチェーンの課題解決に資する取り組み

ここまで様々な取り組みを紹介する中で、太陽電池モジュールのサーキュラーエコノミーの促進に向けて、サプライチェーン全体で取り組むべき課題を幾つか挙げてきた。そこで、以下で、その課題の解決に資する取り組みを紹介する。

(1)太陽電池モジュールのリユース

欧州委員会では太陽電池モジュールの循環性を高める新たなビジネスモデルを探求するための研究に投資しており*22、ここではその一つとしてCIRCUSOLを紹介する。CIRCUSOLは、太陽光発電と電気自動車(EV)のProduct Service System(PSS)ビジネスモデルの開発と実証試験をおこなうためのコンソーシアムであり、Horizon 2020の資金をもとにベルギーのFlemish Institute for Technological Researchをはじめとする7か国の5研究機関と10企業で構成されているものである*23。CIRCUSOLでは、PSSを成功させるための要因として環境貢献(高品質なリユース太陽電池モジュールを市場に供給し普及させる)、市場競争力(真の顧客ニーズに応える価値を顧客と共創する)、財務の健全性(新しい運用プロセスとデジタル技術によるコスト削減および、新たな収益確保と資金調達の仕組みを作り出すこと)を挙げている*23。実証試験はベルギー、フランス、スイスの5ヶ所で実施されており、そのうちのSt-Remy-de-Maurienne(フランス)の実証サイトでは、個人投資家と地方自治体からの共同出資により約100kWpのリファービッシュ太陽電池モジュールと約100kWhのリファービッシュEV蓄電池を設置した発電所を建設している*24

(2)太陽電池モジュールのリサイクル

先述のようにポストコンシューマーサプライチェーンにおける太陽電池モジュールリサイクルの取り組みが様々なされているが、IEA PVPSが作成したガイドライン*25では、プレコンシューマーつまり設計段階でもリサイクルを考慮していく必要性が指摘されている。特に、結晶シリコン系太陽電池モジュールのDesign for Recycling(DfR)のためには①モジュールの構造と組成を永続的に(ライフサイクルを通して)特定可能にする、②バックシートの添加物を適切に選択する(ハロゲンなどリサイクルの妨げになる物質の使用を避ける)、③使用する金属を適切に選択する(鉛など有害な金属の使用を避ける)、④充填材の使用量を抑制する、⑤太陽電池モジュール材料の数と複雑さの低減する(単純にする)、⑥フレームを容易に分離できるシーリング材を使用することが必要*25、としている。これらのうち①については、太陽電池モジュールに含まれる重金属等による環境汚染や健康被害の懸念も示されている*25。太陽電池モジュールに含まれる物質(特に重金属)については、国内においてもその種類や量によってリサイクルの用途が変わる*17だけでなく、中間処理事業者(リサイクル事業者)が受け入れられない可能性も指摘されている*20。この点については、前述の東京都実証事業でも製品仕様やリユースを念頭に置いた使用状況をサプライチェーンで共有する仕組みが検討されている。また、一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)では、自社のホームページで製品情報を提供している企業の一覧*26とともに、太陽電池モジュールを一定程度のリサイクル率でリサイクル可能な中間処理事業者の一覧*27も公開している。ドイツではWEEE指令のもと電気・電子機器廃棄物の使用後処理を定めたElektroGが2022年1月に改正され、国内で販売する太陽電池モジュールの登録が必要となっている*28,*29ほか、イタリア、スペイン、オランダでもWEEE指令にもとづき太陽電池モジュールの登録が必要になっている*20。このような登録制度は太陽電池に限らず製品のトレーサビリティの担保に有効と考えられる。

4. まとめ

現在、太陽電池モジュールのリユースやリサイクルなど循環利用に向けた研究開発や実証試験がおこなわれている。当初は個別の技術が中心であったが、近年はサプライチェーンに注目した取り組みもおこなわれている。個別技術の研究開発も引き続き必要ではあるが、中には実用レベルに達しているものも多く、それらを繋ぐことでサプライチェーン全体を通じて太陽電池モジュールの循環利用を進めることができる可能性も出てきている。今後は、このように実用化レベルに達している個別の技術を繋いでサプライチェーンを構成できるようにするための仕組みやビジネスモデルの構築が必要である。これらを一朝一夕に構築することは困難であり、太陽電池モジュールが徐々に排出され始めている今から将来の大量排出を見込んで取り組まなければいけない。特に、住宅や小規模発電所などから少量で散発的に発生する太陽電池モジュールを効率的に回収する仕組み作りは喫緊の課題であると言えよう。また、プレコンシューマーからポストコンシューマーまで一連の関係者が求める情報を整理したうえで必要な情報を共有(アクセス)できる仕組み作りは今から取り組む必要があると考えている。脱炭素社会実現に資する太陽光発電のサーキュラーエコノミーを実現するためにも、上述の課題解決に向けた取り組みを、産学官の関係者がもう一段先に進めることに期待したい。

参考文献

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