従来とは異なる領域に
おける新薬開発への挑戦。
新しい経営戦略の検討・評価を
当社が担うことに。
日本では超高齢社会の進展により医療費は年々増大傾向で、医療費のうち20%超の割合を薬剤費が占めていることから、近年では薬価の引き下げが加速している。こうした薬剤費削減の動きとともに急速に市場を伸ばしているのがジェネリック医薬品だ。先発医薬品(新薬)の特許が切れた後に製造販売される、同等の効き目があると認められた後発医薬品であり、安価であることから新薬市場を脅かす存在となっている。
A社は、新薬開発およびその製造・販売で成長を遂げてきた製薬企業である。しかし、得意としてきた領域における新薬開発は年々難易度が高まり、せっかく開発した新薬の製造・販売についてもジェネリック医薬品のシェア拡大に押されて今後の大きな成長は期待できない。また、A社自身もジェネリック医薬品事業に着手してはいたものの、製造体制などの課題から順調とはいえない状況にあった。このような中、A社は新たな戦略として「これまで手掛けてこなかった新領域での新薬開発」を検討していた。事業モデルの転換ともいえる大変革であり、その新しい事業モデルを検証・評価するコンサルティングを当社が担うことになったのだ。A社にとって社運をかけたプロジェクトであり、A社側の参加者全員が役員クラスという注目度の高いプロジェクトであった。
「このプロジェクトのきっかけは、お客さまからお声がけをいただいたことです。数年前、当社がA社のある案件でコンサルティングを担当して高い評価をいただき、その実績が今回の案件に繋がりました。」(永松)
このように話す永松がプロジェクトにアサインされたのは入社2年目のこと。入社以来、企業を顧客とする経営戦略領域のコンサルティングに携わってきたが、先輩の業務をサポートしながら経験を積み重ねるなかで、少しずつ任される範囲が広がり、仕事の粒度が上がってきたと感じていた時期だった。
プロジェクトに加わった永松は、まず製薬業界に関する知見のキャッチアップから取り組んだ。業界を紹介した初歩的な書籍から医師が参照するような専門書まで、様々な文献を読み込み、有識者へのヒアリングを重ねていった。永松は学生時代、農学部で生命化学工学を専攻しており、その時学んだ基礎的な知識が業界を理解するための下地になったという。
その答えは本当にお客さまの課題解決に資するものなのか?
自問自答を繰り返しながら綿密な検討を重ねていった。
戦略コンサルティングにおいて鍵を握るプロセスが「論点の設計」だ。A社の新しい事業モデルを検討するために、解くべき問いを洗い出し、絞り込み、そして全体の論点を整理していく。さらにその問いに対する答えを仮説として組み立て、数値データやヒアリングによって検証を行う。永松は、今回のプロジェクトで初めて本格的な論点設計にチャレンジした。
「論点設計にはいくつかのフレームワークがあります。しかし、教科書的な手法をそのまま用いたところで上手くいくわけではありません。プロジェクトリーダーに何度もダメ出しされながら、自分なりに綿密な検討を重ね、論点を精緻化させていきました。」(永松)
ジェネリック医薬品市場の分析も、永松が任された論点の一つだった。市場は今後どう動いていくのか?、競合他社の動向は?、優位に立っている他社の戦略は?――それに対してA社には何が不足しているのか?
「目の前のテーマに向き合ってばかりいると、データに溺れてしまって、ついついプロジェクトの全体像を見失いがちになってしまいます。自分が求めようとしている答えは本当にお客さまの課題解決に資するのか?――絶えずこの問いを繰り返しながら、検討を進めていきました。」(永松)
自分の中に新しい知見が
蓄積されていく感覚。
調査と分析を重ねる日々の中で
その面白さを実感した。
論点設計と仮説・検証による綿密な検討。今回のプロジェクトでは、そこからさらに踏み込み、新しい事業における収益モデルの提案を行った。
「まずいくつかの前提条件を洗い出し、それをもとに将来どのように収益が変化していくかを検討しました。新薬開発に挑もうとしている新領域における医療の進歩、市場の動き、競合他社の動向などを予測し、新しい事業モデルにおける収益を算出していきました。
そのベースとなるのはA社の財務諸表などの数値データです。さらに深く掘り下げ、製造などに関する詳細なデータも収集しながら有用なものを選択していきました。また、不足していると考えたデータについては、ヒアリングなど自分たちでキャッチアップした情報をもとに予測し、収益モデルの全体像を構築しました。」(永松)
絶えず客観的な視点を意識しながらも、永松がこだわったのは数値データというファクトベースによる徹底した検討だった。濃密な経験を積んでいるとはいえ、当時はまだ入社2年目という若手だ。医薬事業に精通しているお客さまと真正面から議論していくためには、自ら検証を重ねたファクトが何よりもの拠り所となる。そのためにはわずかな妥協も許されなかった。
粘り強くファクトを積み上げていくと、ぼんやりしていた全体像が少しずつ明確になってくる。欠けていたピースがカチリと嵌まる感覚。その手応えを、プロジェクトのメンバーと議論を重ねながら、さらに確かなものにしていく。「このようにして自分の中に新しい知見が蓄積されていく感覚がコンサルタントとしての面白さです」と永松は語る。このプロセスでも、幾度も仮説と検証が繰り返され、プロジェクトは前進していった。
その提案は新しい挑戦を
後押しするものであり、
高い評価とともに
受け入れられた。
このようにしてプロジェクトが始動してから数ヵ月後、永松たちのチームは提案書をまとめ上げ、A社の経営会議でプレゼンテーションを行った。その内容は客観的な視点に徹しながらもA社の新しい挑戦を後押しするものであり、高い評価とともに受け入れられた。
「プレゼンテーションが終わった後、A社の社長から直接労いの言葉をかけていただきました。その言葉がとても印象的で、今でも鮮明に覚えています。それまでの苦労がすべて消し飛んでしまったような気持ちでした。」(永松)
あの日から1年ほどが過ぎた現在、永松は新たなプロジェクトに携わっている。A社とは業界も課題も異なるが、企業の経営に関わるコンサルティングという点では変わりはない。入社3年目となって、プロジェクトチームでの立ち位置も変化してきた。論点の設計にもさらに主体的に関わるようになり、お客さまとのミーティングでも前面に立つシーンが多くなった。それとともに、コンサルタントとしての醍醐味も、担うべき責任も増した。私たちが提供する価値は、本当にお客さまの課題解決に資するものなのか?――永松がことあるごとに自問自答してきたテーマの重さを改めて実感する毎日だ。
永松はこの先、どんなコンサルタント像を思い描いているのだろうか?
「お客さまが抱える経営課題に対して明確な価値を提供できる存在となるために、コンサルタントとしてのスキルと知見をさらに磨き続けたいと思っています。お客さまに“次もお願いします”と言っていただけるように、目の前のプロジェクトに全力で取り組んでいきます。」(永松)
今回のプロジェクトがそうだったように、数年後、新たな展開によって成長を遂げたA社から、また当社にコンサルティングの依頼が来るかもしれない。その頃には、永松はプロジェクトリーダーとして、当社の戦略コンサルティングを牽引するポジションに立っているのだろう。
※所属部署は取材当時のものになります。