かつてない改革を立案するために、
新しい視点が求められた。
10年後を見据えた長期戦略と
中期経営計画の策定を支援する。
わが国の製造業を取り巻く環境が大きく変化している。少子高齢化の影響によって人手不足が深刻な課題となり、同時に国内市場もシュリンクしようとしている。脱炭素の潮流に加え、コロナ禍を契機に多様化やグローバル化といった需要構造の変化も加速している。
このような変化は、長い歴史を持つ産業である印刷業界においても同様だ。デジタル化・ペーパーレス化という大きな流れとともに印刷需要は減少の一途をたどり、事業環境は厳しさを増すばかりだ。大手印刷会社A社は、変化を乗り越えて持続的な成長を目指すために、新たな長期戦略と中期経営計画を策定した。
「この長期戦略は、マテリアリティや理念体系を再構築し、10年後の“ありたい姿”を定義するというかつてない大胆なものです。
当社では、長期戦略策定にあたってのコンサルティングを担っています」(片桐)
このように話す片桐がA社のプロジェクトにアサインされたのは、入社2年目の秋。入社以来、大企業をお客さまとした戦略コンサルティングに携わり、これまでリサーチや分析などプロジェクトの基礎的なワーク、個別パートの論点設計といった業務を担ってきた。片桐は、今回のプロジェクトでさらに濃密な経験を積むことになる。
プロジェクトは長期戦略の検討からスタートした。2週に1回のペースで、A社の役員層とのミーティングが行われた。片桐は、プロジェクトリーダーであるマネージャーとともにミーティングに加わった。議論の土台となる資料作成がメインではあったが、時には議論に加わり、示唆の提示なども担った。入社2年目、まだ20代前半という片桐にとってプレッシャーのかかる場面だったが、一人のコンサルタントとして毅然と論理的な説明を心がけた。

納得感を高めながら、いかに成長性の高い
戦略を立案していくか?
常駐というスタイルで、現場の
人たちと
徹底的に話し合った。
長期戦略の骨格がまとまってくると、中期経営計画の策定が始まった。3か年による中期経営計画は、長期戦略の実現に向けたファーストステップとなるもの。片桐は、この策定においてさらに重要な役割を担うことになる。長期戦略では事業ポートフォリオを再構築し、新たに2つの領域を設定した。その1つである主力事業部門における戦略の取りまとめを、現場責任者として任されたのだ。本部長をはじめとする事業部門の企画層とのミーティングが週2回という緊密なペースで重ねられていった。
片桐は、この事業部門における戦略策定のファシリテーションを担った。いわばプロジェクトリーダーともいえる、新しいミッション。当初は、「プロジェクトとして何をすべきか?」という根本的な部分で悩んだという。策定における課題は?収集・分析すべき情報は?論点や進め方、想定すべきミーティングの着地点は?その壁を乗り越えるための手段は、地道なことであるが、想像力を働かせ、頭が痺れるまで徹底的に考え抜くことだった。検討すべき事項や想定される議論の進め方などについても抽象的なままにせず、可能な限り細分化して解像度を高めるように意識した。
「長期戦略で掲げた目標を実現するためには、既存の枠組みを超えた施策が必要でした。新しい戦略の仮説や想定される効果を、実際に事業に関わるA社の人たちの想いや考えも踏まえて、いかに提案していくか?合意形成をしながら、成長性の高い戦略を立案していく役割が求められたのです」(片桐)
さらに片桐は、このプロジェクトでもう一つ新しい経験を積むことになった。A社の本社に席を設けてもらい、ほぼ常駐するスタイルで一体となって策定に取り組んだのだ。
「お客さま先に常駐というスタイルは、おそらく当社としてもレアなケースだと思います。コンサルタントという第三者の視点を大切にしつつ、現場に限りなく近い立場で、納得感のある施策を考え抜くように意識しました。時には工場にも出向くなど、現場の人たちと徹底的に話し合いました」(片桐)
常駐という馴れない立場もあって、当初のミーティングではギクシャクした雰囲気もあったそうだ。やがて片桐たちの意欲的で真摯な姿勢がお客さまからの信頼を高め、一体感を生み出し、戦略コンサルティングの醍醐味を肌で感じることができた。
新規分野への参入と、
グローバルな事業展開。
スコープをアジアにまで広げ、
調査・分析を重ねていった。
もちろん、戦略策定に向けて議論がすべて円滑に進んだわけではない。乗り越えなければならない壁はいくつもあった。事業部門として目標を実現するためには、必然的に新規事業への展開が求められた。当初、A社側からある戦略が提示された。片桐は、それらを調査・分析した結果、事業としての難易度が高く、持続的な成長や目標達成は難しいと考えた。しかし、異を唱えているだけではコンサルタントとしての存在価値はない。片桐は、そのプランに代わる施策を徹底的に考え抜き、既存事業の枠組みにとらわれない、抜本的な改革を提案することにした。
「その1つが今後、高成長・高収益が見込まれる新規分野への参入。2つ目の柱は、アジアをはじめとする海外事業の拡大でした。海外展開は、長期戦略における重点施策の1つでもあります」(片桐)
新規分野への参入はB to Bビジネスであり、これまでコンシューマー向けの事業を中心としてきたA社にとっては経験のない領域。片桐は、既存事業との相乗を意識しつつ、市場の将来性、お客さまやセグメントの特定、競合の動向など、ヒアリングなども交えた調査や分析を重ね、施策をまとめていった。また、海外戦略ではスコープをアジア地域にまで広げ、同じく徹底した検討を重ねた。その実現の選択肢の一つとして、現地企業とのM&Aを検討した。広く候補企業を調査し、最終的にはアジアの1つの国に絞り込んで詳細な調査・分析を行った。
そして粒度の細かい議論が重ねられ、プロジェクトは着実に前進し、中期経営計画が取りまとめられて取締役会で承認された。新しい中期経営計画には、既存事業に注力してきた従来とは異なり、抜本的な改革による成長戦略が明確に描かれており、A社の社内でも高い評価を得た。常駐というスタイルによって実現された現場との徹底した対話。そして、その信頼関係を基盤に、従来の常識や枠組みにとらわれない大胆な提案に挑んだことが高い評価につながったのだろう。片桐は、ほっと肩の力を抜くとともに、「コンサルティングの価値を再認識した」と語る。

A社で立案した戦略は、
わが国の
製造業に共通する課題でもある。
日本企業の、社会の発展に貢献する
コンサルティングに携わっていく。
戦略策定プロジェクトから約1年が過ぎ、A社の中期経営計画はすでに実行のフェーズにある。片桐もデスクをA社から当社へと戻し、すでに複数の案件に携わっている。最近は、プロジェクトでもリーダー的な立場で携わるシーンが増え、後輩たちのサポートや教育の役割も担っている。
A社での濃密な経験は、その後のプロジェクトでもさまざまに活きていると片桐は話す。たとえば、〈みずほ〉ならではのグローバルネットワーク。実現には至らなかったものの、M&Aの検討では、〈みずほ〉のベトナム拠点とも連絡をとりあった。そのやりとりを通じて、現地の多様な情報を的確かつスピーディーに収集する〈みずほ〉の情報力に驚いたという。今後、わが国の企業においてクロスボーダーM&Aがますます重要となる流れを考えると、当社の大きな強みになると実感した。片桐は、A社のプロジェクトを振り返りながら、これからの目標を次のように語る。
「既存の枠組みを超えた新規事業の創出、グローバル展開の推進といった戦略は、A社に限らず、日本の製造業に広く共通する課題ではないでしょうか。多くのメーカーは既存事業において素晴らしい技術や豊富な経験を持っているにもかかわらず、このような新しいチャレンジには知見が少ない。そこにこそ、当社のコンサルティング力が求められていると感じています。〈みずほ〉ならではのネットワークをフルに活かすことよって、私たちの価値を発揮できる場面は数多くあるはず。日本企業の成長を支援し、そして社会の発展に貢献していくコンサルティングに携わっていきたいと思っています」(片桐)
※所属部署は取材当時のものになります。
















