可視化したデータと人材戦略の
連携を検証する
大手エレクトロニクスメーカーとの
協働研究プロジェクト。
人的資本経営には、大きく2つの軸がある。投資家をはじめ広くステークホルダーに情報を伝えていく「可視化・開示」と、経営戦略に紐づく人材戦略を実行し、従業員の力を最大限に引き出していく「実践」だ。当社は、この人的資本経営を推進するための政策立案、普及・検証のための調査・研究から、企業における戦略の策定・施策の推進といった支援まで、幅広いソリューションを展開している。
当社においてその中核を担っているのは、社会政策コンサルティング部と経営コンサルティング部の2つの部署。前者において「ヒューマンキャピタル創生チーム」のリーダーを務める田中は次のように語る。
「私たち社会政策コンサルティング部では、官公庁をお客さまとした調査研究や社会実証実験の支援などに主に携わってきました。しかし、人的資本経営という概念を社会に実装していくためには、行政ばかりでなく、実際に取り組む企業を巻きこんで、うねりをつくっていく必要があります。その新しい道筋をつくっていくために、官民双方のお客さまを相手としたコンサルティングに取り組んでいます。」(田中)
田中がプロジェクトリーダーを務める「人的資本可視化に関する協働研究」も新しい道筋をつくるためのチャレンジの一つだ。大手エレクトロニクスメーカーと覚書を結び、人的資本の分析・可視化ツールを運営するパナリット株式会社(以下、パナリット社)と連携して、同社における人的資本の可視化を実践した。
このプロジェクトでは、「組織間の人材流動性」にフォーカスし、約1万名の従業員データを対象に分析・可視化ツールを試験的に導入。「スピーディーに可視化できるか?」「可視化したデータが人材戦略に結びついているか?」などの検証を行った。
「私自身、人的資本に関わるISO30414のプロフェッショナル認証を比較的早期に取得しており、プロジェクトの推進にはこうした知見に加え、20年以上にわたる官公庁へのアドバイザリー支援などで培った論点を整理・焦点化するスキル、成果イメージの解像度を上げ、関係者を絶えずエンカレッジしていく経験が活きました。そして、可視化による気づき、新しい課題の発見などを通じた議論を重ねることで、お客さまに人的資本経営を体感してもらえるように意識しました。」(田中)
その結果、同社の人事担当者からは「可視化の重要性を認識し、人的資本に関わるKPIの必要性についても議論を深められた」と評価されると同時に、分析・可視化ツールの提供で連携したパナリット社からも当社のファシリテート力について高い評価を獲得し、業務提携を結ぶという新たなビジネス展開へ踏み出すことができた。現在、他の大手企業からも問い合わせが相次いでおり、次なる案件へとつながる動きもでてきている。
みずほリサーチ&テクノロジーズとパナリット、
人的資本経営に関する情報の可視化に関する連携開始について
人的資本経営への
第一歩を踏み出すために、
現状をクイックに診断する
ソリューションを開発。
田中と同じ社会政策コンサルティング部に所属する杉田は、官公庁の雇用・労働政策や福祉政策に関する調査研究を通じて、人材活用や能力開発、働きやすい職場づくりなどのコンサルティングに携わってきた。最近では、政策調査で蓄積してきた知見を活かし、「ビジネスと人権」や「人的資本経営」に関する民間企業向けコンサルティングメニューの開発にも取り組んでいる。
その一つに、当社が企業向けソリューションとして提供する「人的資本経営Phase0(フェイズゼロ)」がある。これは、人的資本に関する国際認証規格ISO30414における国内唯一の認証機関であるHCプロデュース社が提供する「人的資本クイックチェッカー」を活用して企業の人的資本経営に関する可視化の現状を簡易的に診断し、当社コンサルタントが今後の取り組みの方向性をフィードバックするソリューションだ。
「『人的資本クイックチェッカー』と当社の知見をどのように結びつけ、付加価値としてお客さまに提供していくことができるのか?、人的資本経営の可視化や実践を目指すお客さまが何に迷ったり困ったりし、どのようなサポートを必要としているのか?ーー。ソリューションのコンセプトを固めるための最初の突破口がなかなか見つからず、悩みました。私自身、ISO30414アセッサー/リードコンサルタントの資格を取得していたので、資格取得を通じて得た知識を活かしつつ、プロジェクトのメンバーと意見をぶつけあいながら開発を進めました。」(杉田)
社会的に人的資本経営がクローズアップされるなか、「自社の現状を把握できないために実践の方向性が掴めない、あるいは適切な課題設定に至っていない企業は多いのではないか」と杉田は話す。「人的資本経営Phase0」は、実践・可視化に向けた自社のケイパビリティを知り、第一歩を踏み出す後押しをする。それが、杉田たちが開発したソリューションのコンセプトである。
アカデミックな分野まで
踏み込んだ調査・研究。
人的資本経営とコンサルティングの
関係を再構築する。
田中や杉田が所属する社会政策コンサルティング部が官公庁の政策に関わる知見を活かして企業にアプローチするのに対し、お客さまとなる企業それぞれの経営課題を起点にしたコンサルティングに取り組むのが経営コンサルティング部だ。経営戦略の策定から施策の立案・設計、その導入・定着まで、お客さまが直面する課題に応じてトータルな支援を提供している。
同部の中で人的資本経営に深く携わるのが人事戦略チームである。チームの中核メンバーである佐藤は、人的資本経営について次のように語る。
「日本の企業は欧米と比べると、古くから人材を尊重する意識が高い傾向にあります。そのような日本企業の経営を支援してきた私たちが提供するコンサルティングメニューは、そもそも人的資本経営と親和性が高いのです。しかしその一方で、昨今は人的資本に関するデータの可視化や開示が求められるようになってきました。これまで人的資本経営は各社の人事部が中心に取り組むテーマでしたが、最近は経営企画やIRといった様々な部署でも関連するニーズがでてきたことも確かです。」(佐藤)
そこで佐藤たちは、新しいビジネスの種を見つけるために、同チームのコンサルティングメニューと人的資本経営の関係を整理し、再構築するためのプロジェクトを立ち上げた。ISO30414をはじめ人的資本に関わる国際的な基準の内容を調査し、企業の担当者をはじめ、様々な有識者にヒアリングを行い、メンバーたちで議論して検討を重ねた。
「検討の結果、これまでの自分たちのコンサルティングメニューを大きく変える必要はない、との結論に至りました。新たにメニューとして加えたのは、KPI設定のための指標と判断基準に関する支援など限定的なものでした。」(佐藤)
佐藤らがたどり着いた結論は一見シンプルだ。しかし、そこに至るまでにはアカデミックな領域にまで踏み込んだ徹底した調査・研究があり、緻密な調査と仮説の検証を繰り返すなかで得られた答えが、「これまでのコンサルティングメニューでも、十分に人的資本経営の支援ができる」というものだったのだ。人的資本経営という言葉が社会的に注目を集める前から、人材を尊重することを意識しながら企業の抱える経営課題解決の支援をしてきた経験があるからこそ、佐藤たちコンサルタントは自信と誇りを持ってお客さまと対峙できるのである。
シンクタンクとしての機能を
発揮し、
「従業員エンゲージ
メント」を改めて定義する。
人的資本経営における重要な要素の一つに従業員エンゲージメントがある。佐藤と同じ経営コンサルティング部人事戦略チームのメンバーである市川は、この従業員エンゲージメントに関する調査・研究プロジェクトに携わっている。
「従業員エンゲージメント」という言葉は、企業に対する信頼、愛着、誇りといった文脈で用いられることが多いが、その概念には曖昧な印象がある。「まさにそのとおりなのです」と市川は語る。
「従業員エンゲージメントの調査・研究にあたって、その概念を掴もうと様々な文献を読み込んだのですが、腹落ちできる答えが見つかりませんでした。そこで、自分たちで改めて『従業員エンゲージメント』を定義することにしたのです。」(市川)
概念定義の問題は、このプロジェクトの中で最初に乗り越えるべき大きな壁であった。その壁に穴をうがつために、市川らは一旦「従業員エンゲージメント」という言葉から離れ、「ワーク・エンゲージメント」という言葉に着目することにした。これは、よりシンプルに、従業員個人が仕事に対してポジティブで充実した心理状態にあるかどうかを「活力、熱意、没頭」の3つの観点から測ろうとするものだ。しかし、この分野に関する文献は必ずしも豊富とはいえず、プロジェクトメンバーで分担して海外文献にも当たってみた。そうしてワーク・エンゲージメントを取り巻く要因やアウトカムに関する情報を得るなかで、従業員エンゲージメントとは、目の前の仕事への心理状態を表すワーク・エンゲージメントに、企業への帰属意識が加わることで定義されるのではないかとの考えに至った。更なるブレイクスルーとなったのは、ある研究者との出会いだった。
「よい機会なので、日本のワーク・エンゲージメントの第一人者である研究者にアポをとって意見を伺いにいきました。すると、会話しているうちに研究者の方のテーマと私たちの考えていることの多くが合致していることに気づき、その研究者にも共感してもらえたのです。」(市川)
それ以降プロジェクトの歩みは加速した。研究者が懇意としているオランダの研究者とのつながりで、オランダの企業との提携を進めている最中だ。今後は、このようなパートナーシップを通じて獲得した知見をベースに、人的資本経営に関わる当社独自のコンサルティングメニューを開発していく。
市川は、人的資本経営に対する想いを次のように語る。
「私は、人的資本経営とは、従業員一人ひとりの「個」に着眼し、その力を最大限に活かしていこうという潮流だと捉えています。企業と人が良好な関係を築き、ともに高め合えるようなソリューションを提供していきたいと思っています。」(市川)
本質を考え抜き、本質から
変えていきたいという
強い想い。
それこそが当社の
コンサルティングの原動力。
最後に、人的資本経営のコンサルティングにおける当社の強みについて、4人に聞いてみた。
「総合力とアウトリーチ力だと感じています。私たち2つの部署が中心となった当社のサポートに加え、〈みずほ〉の各社と連携することによって、社会や企業における課題解決に全方位のソリューションを提供し、多様なステークホルダーに接近できるのです。例えば、銀行と連携して商品化した「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」をはじめ、〈みずほ〉のサステナビリティ関連の中でも“S”(Social)領域を、関連するチームのメンバーとともに牽引していきたいと考えています。」(田中)
「私も田中さんと同じ意見です。総合力と専門性というのは一見相容れない特性かもしれませんが、当社はこの2つを両輪としているところに独自の強みがあると考えています。例えば人的資本経営にフォーカスすると、〈みずほ〉全体で関連する業務に携わっている部署は20ヵ所ほどあります。多様かつ多数の専門家の力を一つにすることで、類い希な総合力が発揮されるのです。」(佐藤)
「総合力と言う点については、国の政策立案や企業の経営課題といった上流から下流まで幅広いサポートができることも当社の強みであり、当社でコンサルティング業務に携わる魅力のひとつだと思います。『官と民双方へのアプローチを通じた社会課題解決』に取り組めることは、非常に難しい挑戦でありながらも、自分のキャリアの糧になる、貴重な経験であると実感しています。」(杉田)
さらに市川は、このような総合力に加えて、メンバーそれぞれの「個」が輝いていることも強みであると話す。
「様々なメンバーたちと仕事をしていて感じるのは、誰もが『本質』にこだわっているということです。本質を求めて考え抜こうとするし、本質から変えていきたいという強い想いを感じます。人的資本経営についても、お客さまである企業にとって本当によいものなのかをすごく突き詰めて考えています。その姿勢が当社の原動力になっていると思うのです。」(市川)
「企業は人なり」という言葉がしばしば使われるように、人的資本経営は突き詰めていくと、「人」と「企業」の関係に行き着くのかもしれない。そのテーマに取り組んでいくためには、行政から企業まで、そして人が働く現場からアカデミックな領域まで全方位でのバックボーンが求められる。こうした知見や経験を獲得しつつ、本質にこだわってお客さまの課題解決に取り組む醍醐味は、人的資本経営に限らず、当社のコンサルティングに共通する魅力といってよいだろう。
※所属部署は取材当時のものになります。