Introduction

サステナビリティへの意識の高まりやエネルギーコストの高騰、さらには災害時のレジリエンス確保などから、住宅における再生可能エネルギー機器の需要が高まっている。一方では、FIT*が終了するなど再生可能エネルギーを取り巻く環境は変化しており、新しいビジネスモデルの検討が求められている。大手電機メーカーA社では、「モノ売り」から「コト売り」へとビジネスを転換していくために、住宅向け再生可能エネルギー機器におけるサブスクリプションサービスをスタートした。当社は、戦略の立案から事業の立ち上げまで、コンサルティングだけでなく、共創のパートナーとしてA社の新しい事業を支援している。

*FIT:再生可能エネルギーにおける固定価格買取制度

コンサルタント

稲場 未南

デジタルコンサル
ティング部

稲場 未南Mina Inaba

2010年入社

入社後、官公庁や民間企業を顧客に、情報通信に関連した調査研究・コンサルティングに従事。現在は、民間企業におけるデジタルビジネスの推進や新規事業の創出などのコンサルティングに携わる。これまで3回、産休・育休を取得。

コンサルタント

羽田 康孝

デジタルコンサル
ティング部

羽田 康孝Yasutaka Haneda

2019年入社

入社後、官公庁を主な顧客とし、デジタルやモビリティ分野における政策・技術動向調査や事業化支援に従事。現在は、官公庁に加えて民間企業も対象としたリサーチやコンサルティングに携わる。

住宅向け再生可能エネルギーシステムに
おける
サブスクリプションサービス
の立ち上げを支援する。

大手電機メーカーA社は、住宅向け再生可能エネルギーシステムの定額ビジネスをスタートした。これは、同社が提供する再生可能エネルギー機器およびシステムを初期費用なしで導入できるサブスクリプションサービスだ。
A社では、エネルギー事業において「モノ売り」から「コト売り」への新たな展開を目指している。その一環として、家庭用再生可能エネルギー分野で新規事業を創出するためチームを立ち上げた。そうして動き始めたのがこのプロジェクトであり、戦略立案やビジネスモデル構築のためのパートナーとしてA社が選んだのが〈みずほ〉だった。

実はこのプロジェクトのきっかけとなったのは、当社のある若手社員のアイデアだった。

当社では、若手の社員たちから広くビジネスアイデアを募る「チャレンジ投資」という制度を設けている。この制度で採用されたアイデアを、その発案した社員と先輩でさらに練り込み、〈みずほ〉グループ内の勉強会でプレゼンを行った。その際、みずほ銀行でA社を担当するメンバーがそのアイデアに着目し、一緒にA社の課題解決に最適なビジネスモデルとして提案したことが発端となったのだ。
その意味でも、本件は〈みずほ〉の総合力を発揮したプロジェクトといえるだろう。当社は、この大規模プロジェクトにおいて中心的な役割を担っている。

デジタルからファイナンスまで。
〈みずほ〉の広く深い知見が
結集された。

当社のデジタルコンサルティング部に所属する稲場と羽田がプロジェクトに加わったのは、A社におけるプロジェクトの初期構想の段階からだった。稲場は、プロジェクト全体のサブリーダーとして、プロジェクトの中核となるサブスクリプションサービスの検討チームを統括した。
これまでのA社では、自社の製品をユーザーに販売して料金を得るビジネスモデルが中心であった。しかしサブスクリプションとなると、こうしたビジネスモデルは大きな変革が求められる。そのスキームを構築していくためには、顧客接点や販売管理をはじめデジタル技術を活用したシステムの構築が不可欠であり、また、ビジネスはもちろん、ファイナンスをはじめ多様な知見が求められる。

「ミーティングでは毎回20名近いメンバーが参加しました。チームのリーダーとして、多様な専門家たちの意見を引き出し、仮説・検証のサイクルを高速で回していくことに注力しました。リサーチで得た消費者や事業者の生の声はファクトではありますが、正解とは限りません。そこにお客さまの想いや目指すべき方向性を加味して、あるべき姿を描くことが重要となります。さらにそれは理想論ではなく、市場へのサービスインの時期を見据えた実行性のあるものでなければならないのです。」(稲場)

デジタル技術を活用したビジネスモデル変革支援を得意とするデジタルコンサルティング部、再生可能エネルギー活用に精通した戦略コンサルティング部やサステナビリティコンサルティング第1部など、当社ならではの多様かつ専門的な知見が結集。さらに、住宅業界に関する産業知見やファイナンス、ビジネスマッチングの領域ではみずほ銀行のメンバーとも検討を行った。稲場はこのようにして大規模プロジェクトを取りまとめ、目指すべき方向性を定めていった。

綿密なリサーチをもとに
チームで議論が重ねられ、
仮説が幾度もブラッシュアップ
された。

このサブスクリプションサービスに関するリサーチを担当したのが羽田である。羽田はこれまでも官公庁をお客さまとしたデジタル分野のリサーチに多く携わり、その経験を活かして調査に取り組んだ。

「単に情報を集めるだけではなく、それらを多角的な観点から解釈して方向性を整理していくことはすべてのリサーチに共通することです。しかし、民間企業のコンサルティングでは、私たちが提供する情報や示唆がお客さま側の意思決定の場でどのように活用されるのかを考え抜く必要があります。たとえば、まだ世の中に存在しない新しいサービスの市場を推計するアプローチは各種ありますが、お客さまの担当者が社内でプレゼンを行うシーンを想像しながら、現実感のあるストーリーを組み立てるように心掛けました。」(羽田)

このプロジェクトは、住宅向け再生可能エネルギーシステムとサブスクリプションという新しいサービスを掛け合わせたものであり、リサーチにも多様な視点が求められた。「市場規模は?」「先行する他社の動きは?」などの市場動向の把握に加えて、アンケートによる消費者ニーズ調査、事業パートナーとなる住宅事業者へのインタビューなど、羽田は精力的に調査を重ねた。

このように羽田たちが整理した情報や論点をもとに、多様な専門家たちと議論を重ね行い、幾度も仮説がブラッシュアップされ、プロジェクトは前進していった。そして数ヵ月後、〈みずほ〉によるサブスクリプションビジネスの展開戦略として取りまとめ、A社から高い評価を獲得した。

コンサルティングからさらに
踏み込み、
事業の立ち上げまでも
支援する。

一般的なコンサルティング業務であるならば、この時点でプロジェクトは完了となるはずだ。しかし、このプロジェクトにはフェーズⅡともいえる事業立ち上げ支援があった。ビジネスモデルのプランニングばかりでなく、ビジネスの立ち上げまで支援することになった。
この事業化に向けて鍵を握ったのが、事業パートナーとなる住宅事業者との交渉だった。再生可能エネルギー関連機器を消費者に提供するためには、住宅の建設やリフォームを行う事業者を介したルートが中心となる。羽田は、プランニングの段階から、みずほ銀行の法人営業担当部署とも連携しながらパートナー探しを続けてきた。しかし、いくら仮説・検証を重ねたとはいえ、頭の中で描いたロジックと生のビジネスの現場にはギャップがある。

「住宅事業者は、家を建てて販売することがミッションであり、彼らの立場に立つと再生可能エネルギー機器はあくまでも付帯設備の一つです。その事業者に協業してもらうには、彼らがA社のサービスを紹介するメリットを明確に提示しなければなりません。プランニング時に十分に検討を重ねたつもりでしたが、実際の交渉ではそこからさらに深く踏み込み、住宅事業者が確りと腹落ちできる提案が求められました。」(羽田)

時にはお客さまの担当者と住宅事業者との交渉の場にも同席したという。「泥臭さ」というありきたりの言葉で表現できないような難しさ、そしてコンサルタントとしての醍醐味を体感したと羽田は話す。それだけに事業立ち上げ支援フェーズ終了後にA社の新しいビジネスが立ち上がった時の感慨も深かった。

「喜びよりも安堵の気持ちの方が大きかったと思います。このプロジェクトに関わってくれた人たちの顔が次々と浮かんできました。コンサルティングの仕事は『お客さまとの伴走』と言われることありますが、まさにそのとおりのプロジェクトだと実感しています。」(羽田)

当社ならではのリサーチ力と
コンサルティング力。
そこにデジタルという最先端の
知見を融合させていく。

一方、稲場は、A社へのコンサルティング内容の報告が行われた直後に産休・育休を取得して職場を離れた。そのために、事業立ち上げ支援のフェーズには関わることはなかった。
その後、職場復帰して間もないある日、羽田が嬉しそうに自分のノートPCの画面を見せてくれたという。そこには、A社のサブスクリプションサービスのネーミングとロゴマークが映し出されていた。A社と当社のパートナーシップはさらに進み、サービスの具現化やコンセプトメイキングの分野にも広がりつつあった。その絆の深まりを知って、稲場は改めてこのプロジェクトが持つインパクトの大きさを実感した。

「このプロジェクトでは、コンサルティングからさらに一歩踏み込み、お客さまと共創するということを意識していました。これからもお客さまを理解し、お客さまやメンバーから信頼され、共に未来を創っていくようなコンサルタントを目指していきたいと思っています。」(稲場)

この稲場の言葉を聞いて、羽田は「共に創る」に加えて「共に挑む」ことの大切さを学んだプロジェクトでもあったと語る。

「深い専門性が求められる仕事だけに、コンサルタントはついつい自分が得意とする土俵に範囲を絞りがちです。今回のプロジェクトでは、当社の、さらには〈みずほ〉の様々な専門家が共に創り共に挑むことによって、そんな枠組みを大きく超えた価値をお客さまに提供できることに気づきました。これからは自分の専門であるデジタル分野を深掘りするとともに、視野を広げアンテナを高くして、大胆なチャレンジをしていこうと考えています。」(羽田)

長年にわたって培ってきたリサーチ力とコンサルティング力。そして〈みずほ〉の金融機能。そこにデジタルという最先端の知見が掛け合わされることによって、当社のフィールドはさらに大きく広がっていくことになるはずだ。

※所属部署は取材当時のものになります。