東京都が推進する
「シン・トセイ」戦略の一環として、
大規模なオンライン行政システムの
構築プロジェクトが立ち上がる。
東京都では、「デジタルガバメント・都庁」の基盤を構築するために「シン・トセイ」戦略を進めている。DXの推進を軸にした改革であり、重要な柱となるのが行政サービスのデジタル化だ。その一環として、「都立高等学校オンライン申請受付システム」を立ち上げることとなった。都立高校に在学する生徒を対象とした、授業料などに対する各種支援制度の申請・受付を行うシステムだ。利用者が約12万人の大規模システムの再構築を当社が担うこととなった。
これまでの仕組みでは、徴収する授業料の管理そのものはシステム化されていたものの、関連する支援制度の申請・受付については、書類と手作業に頼っていた。利用者である保護者は生徒を経由して学校へ紙による申請が必要であり、また、学校関係者にとっても申請書の収集や受付が大きな負担となっていた。今回のシステム開発では、新たに構築するオンラインの申請受付システムと旧来のシステムを連携させ、ペーパーレス化を促進するとともに大幅な業務効率化を狙い、保護者がスマートフォンを使って便利に申請できるサービス開始を目指した。
「当社は、東京都教育庁のシステムを私が生まれる前からサポートしていると聞いています。旧来のシステムについても先輩社員が長年にわたって保守運用や改修に携わってきました。このような取り組みの中で、私がプロジェクトに参画することになった今回のシステム開発は『行政×DX』を推進するもので、最大級ともいえるチャレンジでした。部署を横断するプロジェクトチームが組まれ、システム開発に挑むことになりました。」
このように話す杉之下は、プロジェクトチームでサブリーダーを務めた。さらに、今回のシステムの基盤となったSaaSソフトウェア「Salesforce」の有識者として、キーマン的な役割を果たしたのも杉之下だった。

今までの経験したことのない
未知の領域への挑戦
杉之下は、2017年の入社以来、ほぼ一環して東京都関連のシステムに携わり、システムエンジニアとして経験を積み上げてきた。今回のプロジェクトに関連する旧来のシステムについても配属早々に担当している。その後、東京都や東京都の外郭団体のシステム開発に携わり、小規模なプロジェクトではリーダーも任された。そんな杉之下にとって、いま振り返ると一つの転機になったのが、入社4年目に携わった「Salesforce」を活用したシステム開発だったという。このシステム開発を通じて、初めて「Salesforce」に触れて、システム開発に必要な知識やスキルを磨き、実務経験を積み上げてきたのだ。
この「Salesforce」は、顧客管理などの中心に多様な機能を提供するクラウドベースのビジネスアプリケーションである。豊富な標準機能を備え、ローコードで開発できるため、効率よくスピーディーにシステムを構築でき、さまざまなビジネス領域で利用の広がりを見せていた。しかし、杉之下の入社4年目の頃は、公共分野でエンドユーザ向けに活用する事例は殆どなく、所属部署でもまだ知見が少ない状況であった。このような中で、杉之下は、新たな領域での「Salesforce」の活用に挑み、当社における数少ない有識者として認められるようになっていった。
今回のシステム開発では、プロジェクトの計画段階から「Salesforce」の活用を前提に進められたが、杉之下はプロジェクト参画からシステム開発が軌道にのるまでの間、次のように感じていた。
「“Salesforce”の有識者といってもさほど豊富な経験があるわけではなく、正直言って最初は不安でした。ところが、プロジェクトが開始し、システム開発を進めていくうちに、いままで経験したことのない面白さとやりがいと感じるようになったのです。これまで携わってきた業務は、プロジェクト全体を統括する役割が中心でした。しかし、今回のプロジェクトでは、技術を統括するエンジニアが主なミッション。そのポジションがとても新鮮で、これまでにない経験をしていると実感しました。」(杉之下)

プロトタイプ開発と
追加の要件定義を並行して進め、
プロジェクトを
ドライブしていった。
システム開発が本格的に動き始めたのは2023年4月のこと。翌2月末には1次リリースが予定されるというタイトなスケジュールだ。しかし、5月、プロジェクトは早くも難題に直面することになる。
新たに構築するオンラインの申請受付システムは、今回の1次リリースにおいてほぼ完全なペーパーレス化を目指していた。しかし、開発に着手して詳細な検討を進めるうちに、避けることができない事務作業が発生することが判明した。そこで急遽、システム開発に新たな要件を追加することになったのだ。
「当初のシステム設計では、システムに関わる関係者は、利用者である保護者と管理する教育庁担当者の2つでした。そこに、事務作業に携わる学校関係者と、東京都の外郭団体がシステム利用者に追加することになったのです。そのため、システムのサンプルであるプロトタイプの開発と並行して、新たに追加する機能の要件追加対応、課題解決が必要となり、プロジェクトマネジメント能力が求められましたが、プロジェクト全体を統括する役割を担った経験が役立ち、困難な場面を乗り越えることが出来ました。」(杉之下)
この難しい状況下で、システム開発における課題の検討や進捗の確認のため、お客さまと週次のWeb会議がスタートした。杉之下はこの会議に毎回参加し、お客さまの要望を取りまとめながら、課題解決案を提示するなど、実現可能な開発範囲を定め、迅速に開発が進むように調整を行っていった。
一方、開発チームの取りまとめも、杉之下の重要な役割であった。開発の最中に見つかる技術的な問題をSalesforce技術者と連携して速やかに対応。また、今回のプロジェクトでは、海外のパートナー社によるによるオフショア開発を採用していたため、言語やビジネス習慣の違いなどで生じるメンバーの戸惑いを解消させながら、開発チームを取りまとめていった。
こうして春から夏へと季節は慌ただしく移り、2023年の秋も深まる10月末、杉之下は最も困難であったシステムのサンプルであるプロトタイプ開発をついに完成させた。そこから落ち着く暇もなく、杉之下たちメンバーはプロトタイプでの検証と本システムの構築に取り組んだ。「Salesforce」のメリットを最大限に活かした対応によって、その後の開発を計画通りに進めたのである。
そして翌2024年2月末、ついにオンライン申請受付システムがリリースされた。

満足度の高いサービスを実現するために、
デジタルのプロフェッショナルとして、
これからも行政の改革に寄与していく。
2024年2月末のサービス開始から約半年が経過した現在、オンライン申請受付システムは順調に稼働している。
「利用者はすでに9万人に達しています。対象となる利用者数が12万人であることを考えると、満足できる数字といえるでしょう。お客さまからの評価も高く、リリース時にはねぎらいの言葉をかけてもらいました。」(杉之下)
杉之下たちは、大規模なプロジェクトを成し遂げた達成感を感じつつも、2次リリースに向けた新たな開発をスタートさせた。次のステップでは、より利便性を高めることに努め、学校関係者の負担軽減などが主なテーマとなる。旧システムのクラウド化も、これから取り組む大きなテーマだ。
東京都では2024年8月、「シン・トセイ」戦略のフェーズ3として「シン・トセイ 重点強化方針2024」を発表した。この資料によると、デジタル行政に対する満足度は世界主要5都市の平均が86%であるのに対し、東京都は59%と決して高いとはいえない。これらの課題を解決し、魅力的な品質にすることを目指している。
「私自身、保育園に通う子どもがいますが、関連する行政手続きなどで面倒な思いをすることも少なくありません。自分たちが開発した技術が、こうしたデジタル行政の推進に少しでも貢献できたら嬉しいですね。」(杉之下)
大規模なオンライン行政システムの開発を部門横断的な体制でスピーディーに完遂させた今回のプロジェクトは、当社にとっても重要な経験になるはずだ。もちろん、杉之下にとってもかけがえのない経験となった。
「有識者というエンジニア視点で開発に携われたことは貴重な経験でした。今後は、マネージャーとエンジニアという2つの視点を大切にして、行政改革につながるようなプロジェクトを先導していきたいと思っています。」(杉之下)
※所属部署は取材当時のものになります。