
日本の産業競争力を
強化するために。
基盤となる教育を、
ゼロベースで変革。

教育DXを主導するのは、官公庁や民間向けにデジタル技術に関する調査やコンサルティングを行うデジタルコンサルティング部。伊澤は、教育DXを推進する背景をこう語る。
「〈みずほ〉がめざしているのは、日本の産業競争力の強化です。そのために必要な社会イノベーションの創出を促すため、基盤となる公教育が非常に重要だと考えています。教育内容の質・量の見直しを軸に、教育を取り巻く環境も含めてゼロベースで変革に取り組んでいます。」(伊澤)
単なるデジタル化にとどまらない本質的な公教育の変革。伊澤が重視しているのが、二つの方向性だ。
「変革にともない、教育現場では新たな指導法を確立するなどの必要性が生じる可能性もあります。変革を進めると同時に、DXによって教員の長時間労働を改善するなど、教育現場の理解が得られるような持続可能な仕組みづくりも欠かせません。私たちはステークホルダーの意見を聞き、より良い教育を実現する新たな施策の実施を支援すること、そして必要なデータやエビデンスを収集・分析し、適切な判断を支援すること。大きくこの二つの方向性で、教育DXに取り組んでいます。
教育DXにより目指す姿そのものも、上記方向性を意識し検討はしていますが、社内では、例えば非認知能力育成に重点を置いた教育へのシフトという目指す姿も仮説として議論することがあります。認知能力とは学力テストで定量的に測定できる能力を指すと捉え、戦後から現在まで認知能力向上を軸に教育施策や学習法が展開されてきたと考えています。しかし生成AIなど最新技術が台頭し、人間の在り方や役割が問われる中で、数値化の困難な自制心や協調性、遂行力などの非認知能力の向上が重要ではないかと考えています。
そうした仮説の妥当性も検討する際にも、前段に申し上げたデータやエビデンスの収集・分析は欠かせません。
どのようなデータ、エビデンスの活用が有効であるかは、まさに検討中の段階ですが、従来から比較活用の進む学力テストを通じ収集される学力データはもちろん、児童・生徒の自制心や協調性、遂行力などの非認知能力を示すデータ、教員の働き方の実態や働きがい・ストレス状況に関するデータなど、これまで収集・活用のなされなかった新たなデータ利活用の関心が高まりつつあると考えています。」(伊澤)
デジタル人材育成に関する調査や
海外事例を通じて考える、
日本のDXにおける課題。

伊澤と同じくデジタルコンサルティング部で教育DXに携わる栗山。教育分野も含め、日本のDXにおける課題はデジタル人材の不足だと指摘する。
「IMD(国際経営開発研究所)が発表した2023年度の「世界デジタル競争力ランキング」において、日本は総合32位でした。世界の中でも遅れをとっている背景の一つには、デジタル人材の不足があると考えています。日本政府は「デジタル田園都市国家構想」において2026年度までに230万人のデジタル人材を育成することが提言しました。日本のDXを推進するには、教育に限らず社会全体においてデジタル人材を育成していくことも重要だと言えます。」(栗山)
栗山はITエンジニアとして入社し、国際系の大規模銀行システムの開発・リリースを担当していた。その後、社内公募でコンサルタントに転身し、自身のキャリアを活かしてデジタル人材育成に関する調査やコラムの執筆などに取り組んできた。
「私はITエンジニア時代の経験を活かし、経済産業省「デジタル人材政策に関する調査」等の業務に従事するほか、「DX推進におけるSREの役割」をテーマにしたコラムの執筆などを行ってきました。SRE(Site Reliability Engineering)の役割に関するコラムは大手メディアにも取り上げられ、デジタル人材育成の今後につながる示唆が提示できたと感じています。」(栗山)
さらに栗山は、海外事例も参考にしながら日本のDXがめざすべき方向性を探っている。
「デンマークでは日本のマイナンバーにあたる個人識別番号が1968年には導入されています。日本でもデジタル庁の発足を起点にデジタル化が推進されていますが、やはり民間だけでなく行政のDXも加速させる必要があると感じています。その点においても、公教育のDX推進は非常に重要だと言えます。」(栗山)
プライベートでは一児の母でもある栗山。そうしたバックグラウンドが、教育DXに関するコンサルティングを行う上で役に立っていると話す。
「教育DXには、デジタルやデータの利活用に加え、システム開発が必要となることもあります。ITエンジニアとして培った、システム開発やプロジェクト管理に関する現場感覚が教育DXのコンサルティングに役立っていると感じます。 私は産休・育休から復帰して以降、教育DXに関する案件に本格的に携わるようになったのですが、親となったことで未来の子どもたちのために、これまで以上に当事者意識を持って業務に向き合うようになりました。教育DXは、児童、生徒、保護者、先生、教育委員会、自治体、地域、国など、多様なステークホルダーを巻き込む非常に公共性が高い分野であり、民間企業だけでは変革が実現できない側面があります。当社が官公庁とともに教育DXに取り組むからこそ、社会に大きなインパクトを与えられるという信念と、これからの教育をより良くするという使命感を持ち、社会課題の解決に貢献できることにやりがいを感じています。」(栗山)

医療分野で培ったデータ分析の
知見を活かして。
組織を超えた連携で挑戦する
教育DX。

デジタルコンサルティング部が連携を進める社会政策コンサルティング部では、保健・医療・福祉政策等にかかる調査・コンサルティングを行っている。近藤もマネージャーとして携わっている。
「医療分野は、他分野に比べてデータの収集や標準化、利活用が進んでいると言われている分野です。その要因の一つとして、レセプト(診療報酬明細書)データの存在があると考えています。レセプトは、医療機関が実施した医療行為に対して費用の支払いを保険者に求めるために発行するもので、事務処理を効率化するためデータの標準化が進みました。レセプトには処置内容や処方薬、医療費など多岐にわたる情報が含まれており、匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)ではレセプトデータを2009年度分より収集・蓄積しています。このNDBを用いて、日本の医療提供の実態や政策実施の効果について、分析を行うのが私の主な業務です。」(近藤)
医療分野が取り組むべき課題は二つあると近藤は話す。
「一つは医療費の増加です。医療費の適正化を進めると同時に、生活習慣病の予防など病気を防ぐ施策が必要だと考えています。そしてもう一つが、医療・介護サービスの需要増加と供給不足です。今後、さらに需要と供給の乖離が大きくなることで、医療・介護のサービスを十分に受けられないことや、サービスの質が低下することなどが懸念される中で、サービス提供体制の再構築が求められています。どちらも背景には少子高齢化があります。」(近藤)
こうした課題の検討に必要な分析を進めるにあたり、近藤は医療分野以外のデータとの連携・共有の推進が期待されると話す。
「2020年にNDBと介護DB(匿名介護保険等関連情報データベース)は連携されましたが、保健などの各関連分野、医療機関と介護施設間、医療機関同士のデータ連携・共有はまだ十分ではありません。医療分野は教育分野と比較してDXが先行しているとは言え、まだまだ課題もあるのが現状と捉えています。」(近藤)
こうした医療分野のデータに関する知見をもとに、社会政策コンサルティング部では、ヘルスケア分野のビッグデータを活用したデータ分析サービスを提供している。
「厚生労働省が保有するNDBなどを利用し、データ分析の支援をしています。日本全国民の膨大なデータ量を扱うため、分析には高度なスキルはもちろん政策的知見も必要です。それらを有する当部の価値を発揮しながら、厚生労働省からの要望に基づいて分析仕様を検討し、データの集計・分析を行っています。具体的には「特定保健指導による生活習慣改善の効果検証」、「地域の歯科医療提供状況の分析」などです。現状を可視化することで、政策的示唆のある情報を提供しています。」(近藤)
官公庁での案件に多くの実績を持つみずほリサーチ&テクノロジーズ。だからこそ担当できる業務や教育DXという新たな挑戦に、近藤は醍醐味を感じている。
「アンケート調査では得られない、日本全国民の大規模データを分析できることがやりがいの一つです。分析結果が国の審議会の資料などで提示されることもあり、基礎情報の提供を通じて政策の検討に貢献できていると感じます。もともと私は教育学部の出身です。また、両親が小学校の教員だったこともあり、教育分野には以前から親しみがありました。デジタルコンサルティング部との連携による教育DXの取組を通じ、入社前に培った教育分野の知見と、入社後にヘルスケア分野を担当する中で築いたデータ分析の知見を融合させ、新たな価値を創出できることに喜びを感じています。」(近藤)
「ともに挑む」ために。
ステークホルダーの声を
幅広く集め、
データに基づく意思決定を。

組織の枠を超え、〈みずほ〉が教育DXの推進に注力する意義。それについて伊澤は、次のように語る。
「組織や領域の枠を超えて、また金融の枠を超えて、教育システムの変革をめざすさまざまなステークホルダーを支援することは、ブランドスローガンである「ともに挑む。ともに実る。」の体現につながる取り組みの一つです。」(伊澤)
教育を取り巻く数多くのステークホルダーと慎重に議論を進めること、一方で変革に向けてスピード感や推進力を落とさないこと、この二つの両立のためには根拠に基づいた議論を進める文化を醸成し、共通認識のもとで意思決定をするべきだと伊澤は話す。
「教育DXは、教育業界における意思決定の手法も変革する取組です。私たちは教育現場を支える当事者の最終的な意思決定を支援する立場として、データやエビデンスを活かした最適なソリューションをご提案していきたいと考えています。一人一台端末をめざす「GIGAスクール構想」の開始から5年目を迎え、ようやくデータ収集の基盤が整ってきました。集積されたデータをどう活用し、児童・生徒の学びにおける付加価値の創出や教員・自治体職員の業務効率化に役立てるか──それを考えるフェーズにようやく入ったと感じます。」(伊澤)
そこで参考となるのが医療分野におけるビッグデータの分析手法だ。一方で、教育分野がこうした先行事例に倣うには、いくつものステップを踏む必要がある。
「データの分析・活用の前段として、適切なデータ収集のための事前設計が必要です。そして関係者間で目線を合わせながら、さまざまなデータをどう連携して分析するかを考えなければなりません。分析結果に基づいた公正な判断を重ね、学習の質向上と効率化を実現するには、数えきれないほどのステップがあること。そのことも医療分野から学びながら、挑戦を続けています。」(伊澤)
※記載内容は2024年8月時点のものです。