Introduction

現在、〈みずほ〉の最重要プロジェクトとして位置付けられている「海外業務基盤整備」、通称「SEIBI(Strategic Enhancement of International Business Infrastructure)」プロジェクト。このプロジェクトは、〈みずほ〉のグローバルビジネスを支えるシステムを全面的に刷新するものであり、その中核を担っているのが当社だ。「SEIBI」プロジェクトは多岐にわたるシステムで対応するが、ここでは、その中で「MOBIUS(Mizuho Operations Business Infrastructure Universal Service)」と呼ばれる、海外送金や預金に関わるシステムの構築・導入にフォーカスする。キーワードは「AML(Anti-Money Laundering)」。金融機関にとって重要な課題であり使命ともいえる、マネーロンダリングの防止に向け、システム開発を担った一人のシステムエンジニアの奮闘をレポートする。

海外業務基盤整備プロジェクト:シンガポール導入(完了)→アジア拠点導入(進行中)/米州導入(進行中)/欧州導入(進行中)

システムエンジニア

平山 麻利亜

IT本部 第4事業部第4部

平山 麻利亜Maria Hirayama

2008年入社

入社後は、公立学校共済組合の短期給付業務システムの開発・保守に従事。その後、後期高齢者医療広域連合の資格・賦課給付業務システムを担当。2014年、現部署へ異動。海外業務基盤整備案件のAML領域担当として開発に従事。

海外拠点の
システムインフラを
全面的に刷新する、
〈みずほ〉の
最重要プロジェクトへの参画。

2019年、〈みずほ〉は国内新勘定系システム「MINORI」を全面稼働させた。〈みずほ〉が目指す次世代金融への転換を強力に後押しする柔軟なシステムを目指し、最先端の技術を取り入れた世界有数の大規模プロジェクトだった。この一大プロジェクトと並行して、進められているのが「SEIBI」プロジェクトである。

本プロジェクトの背景にあるのは、グローバルマーケットの急速な変化だ。これまで当社は海外約40拠点に標準システムを提供してきたが、各国で文化や規制が異なることから、国ごとのニーズに応じて標準システムに接続する独自の機能を開発し個別に対応してきた。そのため各国に固有のシステムが点在する一方で、世界中に類似のシステムが乱立するという事態となった。結果として、本部のガバナンス低下やIT運用コストの増加、グローバルな金融規制対応への機動性が失われる等の問題が顕在化したのである。

この状況に危機感を覚えた〈みずほ〉は、海外支店のシステムを全面的に刷新する「SEIBI」プロジェクトを始動させた。ユーザ業務の自動化・高速化、新サービス・商品の提供スピードの向上、システム開発・運用に係るコスト削減に加え、従来の業務フローを各国で統一。それにより、お客さまに提供するサービスレベルをグローバルベースで高度化させることがこのプロジェクトの目的だ。この「SEIBI」プロジェクトの中でも、海外送金・預金に係る「MOBIUS」のシステム構築・導入を担当したのが平山である。入社以来、主に公共ビジネスに関わる案件を担当してきた平山にとって、銀行系のシステム開発は初めての経験だった。

「2014年、SEIBIプロジェクトの初期フェーズの頃、私のキャリアに関して上司と面談する機会がありました。新しい業務内容に挑戦したい、また英語のスキルを活かしたグローバルなビジネスに関わりたいという想いを伝えたところ、このプロジェクトに参加することとなりました。実際に参加して驚いたのは、そのメンバーの多さです。数百名にのぼるビッグプロジェクトで、〈みずほ〉にとって、極めて重要なプロジェクトであることを肌で感じました。」 (平山)

マネーロンダリングを
未然に防ぐAML。
不正を検知するシステムの
精度向上に挑む。

平山が担当するのは、国を跨ぐ送金のシステムである「MOBIUS」だ。中でも、マネーロンダリングを検知するAMLの機能の主担当である。マネーロンダリングは、犯罪行為によって得られた資金を、出所をわからなくするために、架空名義や他人名義の金融機関口座などを利用して転々と送金を行う行為であり、国際的な送金においてはこうした行為を未然に防ぐ、AMLの機能が極めて重要な役割を担っている。

「近年、資金の流れがボーダーレス化する中で、テロや反社会勢力の活動を防止する意味でマネーロンダリングの防止は金融機関にとって使命とも言える非常に重要なものです。このマネーロンダリングのチェックを実施するソフトウェアをMOBIUSに組み込むことが私の役割でした。グローバルな水準で設計されたソフトウェアを活用し、システムの構築・導入を行いました。単にソフトウェアを組み込むだけでなく、MOBIUS全体のシステム仕様に合わせて最適にソフトウェアを取り込む必要がありました。」 (平山)

平山はプロジェクトに参加した翌年の2015年、これまでの働きぶりが評価されAML機能のプロジェクトリーダーにアサインされた。それに伴い、システム開発を担うだけではなく、プレイングマネージャーとして、コスト・進捗管理や課題対応、ユーザ部門を含む銀行サイドとの協議・調整を担った。

「当然ながら〈みずほ〉は従来から、マネーロンダリング防止に取り組んできました。しかしながら、AML機能については、各国にて独自にシステムが構築されており、不正検知の品質にばらつきがありました。今回AML機能を刷新する目的は、各国における不正検知の精度の統一と向上です。国を跨ぐ送金件数が増えていく中で、疑わしい送金取引を漏れなくヒットさせ、マネーロンダリングを未然に防止する必要があります。」 (平山)

関係部署の
意見を集約し、
第三者機関審査をクリア。
グループ内で表彰、
高い評価を受けた
プロジェクト。

マネーロンダリングの対策に関係する〈みずほ〉内の部署は非常に多く、コンプライアンス部門をはじめ10以上。迅速なサービス提供を重視するものや、堅確なチェックを求めるものまで、様々な立場からの意見があり、活発な議論が行われた。

「私の役割は、様々な立場の関係者の意見を集約してシステムに実装すべき仕様を提示し、合意形成していくことでした。プロジェクトを前進させるため、関係各部門のキーマンを特定し個別にすり合わせをすることで、全体の議論をスムーズに進められるような働きかけも行いました。費用と効率性、精度確保など様々な要素を勘案して、関係者が理解・納得できる内容で決定するまで根気強く取り組みました。多くのステークホルダーをコントロールしていく難しさとやりがいを感じました。」 (平山)

AMLは金融犯罪防止のために各国が遵守すべき国際基準が定められており、その性質上、チェック機能の正当性について第三者機関の評価を受ける必要がある。
「第三者評価は英語圏の担当者とのやり取りが必要で、電話会議やメール、資料作成もすべて英語でした。元々、語学力には自信がありましたが、ビジネスで使うにあたってスキルアップが必要と考え、個人的に英会話レッスンを受講しました。時差を考慮したタスク推進が必須であることに加え、認識齟齬が発生しないように細部まで確認、説明することを心掛けて取り組みました。結果、評価機関から高い評価を得ることができ、全世界に先駆けてシステムリリースを行うシンガポールへの導入に向けて準備が整いました。それまでのシステム開発や、各部署との調整結果が、結実したことに非常に喜びを感じ、プロジェクトを通じて、最も安堵感を得た瞬間でした。」 (平山)
平山が担当した今回のプロジェクトは、社内ならびにみずほ銀行から評価され、みずほフィナンシャルグループ各社の中でその年度に高い成果を出した案件が表彰されるみずほアウォードを受賞。グループCEOからも労いの言葉があった。本案件は海外のお客さまへのビジネスニーズに柔軟に対応する礎を築いたという点が評価された。

今回のプロジェクトは平山にとってどのようなものだったのか。

「これまで小規模のプロジェクトでリーダーを務めた経験はありましたが、これほど大規模なものは初めての経験でした。特に、様々なステークホルダーをコントロールするプロジェクトマネジメントスキルの向上が図れたと感じています。今後もこの経験を活かし、さらに難易度の高いプロジェクトや大規模なプロジェクトにチャレンジしていきたいと考えています。」 (平山)

平山が今回世界に先駆けてシンガポール拠点に導入した「MOBIUS」は、段階的に〈みずほ〉の海外拠点に導入されていく。「MOBIUS」のみならず、当社は、約40拠点に及ぶ〈みずほ〉の海外ビジネスを、システムの側面から力強く支えていく。

※所属部署は取材当時のものになります。